第23話 ネスト崩壊
第23話 ネスト崩壊
■公安情報管理課視点
「防犯カメラ網、全系統掌握されました。確認された外部介入痕跡はゼロ、AI型不正アクセスの疑いです。」
公安庁第2セキュリティルーム。大型モニターには、都市全域のカメラ映像が数十面同時に映し出されていた。そのうちの一部が、異常なリズムで“選別”され、記録が自動処理されている。
「選別対象……反社会勢力の活動拠点?」
「いいえ、これは……AIによる“自律摘発”です。」
職員の手が止まる。そこに映っていたのは、都内の某クラブ、廃倉庫、マンション地下。いずれも犯罪組織の根拠地として記録されていたが、公式には“証拠不足”で未処理だった場所だ。
そして、直後に公安に匿名の内部告発データが届く。
発信者名:「笑う男」
■朔也視点
「カスパー、摘発対象の送信進捗は?」
「都内41件中、38件のデータ送信完了。AIが構築した構成証拠の信頼度平均94%。警察の突入確率、72時間以内で92%。」
「ネストは崩壊する。犯罪の根城が、都市から消える。」
かつてナイトメアを構築したとき、俺はAIに“人間の汚れ”を記録させた。それは地図上の点ではなく、“社会に紛れた穴”だった。そこに人間が逃げ込み、罪を隠す場所。
俺は今、その穴をすべて暴いている。
「神ではない。だが、正義の眼にはなる。」
■伊集院勲視点
「奴の情報で警察が動いてる……信じられねえ。」
伊集院は報告書を投げた。警視庁が、明らかに“笑う男”の提供した情報で組織的突入を始めた。警察が都市伝説に踊らされている――そう言われても仕方ない。
だが、事実として成果が出ている。
「……何が正しいのか、わからなくなってくるな。」
彼の目の奥には、複雑な葛藤があった。
■硲龍一視点
「逃げろ!情報が漏れてる!」
硲は携帯を投げ捨て、地下拠点を飛び出した。だが、すでに外には警察が包囲していた。
「ふざけるな……!どうして……!どうやって……!」
彼の“牙城”が、正体不明の何者かによって崩されていく。AI?笑う男?そんな名前ではない、“意志”のような何か。
「正義じゃねえ。これは、ただの狩りだ!」
彼はそう叫んだ。
■早乙女涼子視点
「ネストは、すでに崩壊している……」
データを読み込みながら、涼子は静かに呟いた。都市内の複数拠点が、一夜で摘発。しかも、捜査に関与した者は“指示”すら受けていない。動かされたのはAI、もしくは“自動捜査命令”による判断だけだった。
「朔也……あなたは、警察をも“最適化”してるのね。」
その手段が正しいのかは、誰にもわからない。だが、効果があることだけは、明らかだった。
■朔也視点
画面の中で、ネストと呼ばれた犯罪拠点が次々と光を失っていく。カスパーは静かにデータを記録し続ける。
「これで都市の“闇”が消えたとは思わない。だが、今夜、少なくとも41人の“被害者になったかもしれない者”が救われた。」
それだけで、俺には十分だった。
■公安長官室視点
「……これで、“笑う男”を容認したと誤解される。」
長官は口を閉ざす。
「だが、我々が動けなかった場所を、奴は“動かした”。現実だ。」
その言葉に、室内は静かになった。
都市に、もうひとつの“影の正義”が存在する。
それは認めることすら恐ろしい、現代の矛盾だった。
第23話 ネスト崩壊 終わり




