表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ずっと好きだった幼馴染と付き合い始めたら一途ビッチの性欲ジャンキーだったんだがどうすりゃいいですか?【短編版】

作者: トラ子猫

「ま、麻栗――待ってくれ! 俺、もう限界……」

「えぇー! 私、これぐらいじゃまだまだ足りないよ、聖くん?」


 幼馴染の彼女――麻栗の部屋のベッドの上で、俺はたまらず声を上げた。

 《《コト》》を始めてからかれこれ2、3時間は経っているだろうか。酷使された主に俺の下半身は、もはや限界を迎えていた。


「足りないって言われても……お、俺、もう出ないし……」


 都合5、6回を超えてなお求められ、性欲旺盛な高校生たる俺もさすがに白旗を上げざるを得ない。

 だが、そんな俺に麻栗は「むぅ」と不満げに頬を膨らませると、


「私、この日を待ってたのに……ずっとずっと楽しみにしてたのに。こんなんじゃ全然物足りないよぉ」

「そんなこと言われても、男には回数制限ってもんが……んぷっ」

「はぁ、んちょ、れろぉ……」


 言いかけた俺の唇を、覆いかぶさるようにして麻栗が塞いでくる。

 それから交わされる、濃厚なキス。


 あまりに深い口交に、下半身へ再び血がたぎり始めるのを俺は感じた。


「んはぁ……♡」


 それから長いキスを経て、ようやく麻栗が口を離した頃には……。


「あはっ♡ 聖くん、元気になってくれたぁ♡」

「お、お前があんなキスするからぁ……」


 限界を迎えたはずの我が息子も、意識を取り戻してしまう。

 麻栗の表情がパァっと華やぐ。


「これなら、まだまだたくさんデキるね♡」

「あ、いや、ちょ待……アッー!!」


 麻栗――幼馴染の彼女の部屋で、今どうしてこんな展開になっているのかというのを説明するには、数時間ほど時を遡る必要がある。


  ***


 俺、貫井(つらい)聖夢(せいむ)には、もう何年もの付き合いになる幼馴染がいた。

 その幼馴染の名前は村月(むらつき)麻栗(まくり)。スタイル抜群で顔のいい、いわゆる清楚系の美少女である。


 そんな美少女でありながら、麻栗は現役の漫画家でもあった。

 中学生に上がった頃にはもうすでに推真久理子という名前で単行本を出版しており、売れ行きも好調。アニメ化だってもうすぐ控えているという。


 おまけにハイスペック美少女でありながら、学校やメディアでの麻栗の振る舞いは嫌味もなく、清楚で美人な天才クリエイターとしてその名前が知れ渡っていた。


 一方で俺は、麻栗とは比べるべくもないほどに凡人だ。十人並みの容姿でしかなく、成績だって良くて並、悪けりゃ赤点すれすれの民なのである。

 人よりあると言えるのは、それこそ、麻栗に対する想いの強さと大きさぐらいだろうか。世界で一番麻栗のことが好きだということに関しては、自信を持って断言することができた。


 ――そう、俺は惚れているのである。


 村月麻栗に、心の底から。


 他人が俺と麻栗を見比べれば、釣り合わないと言うだろう。告白するだけ無駄だしやめろと言うだろう。俺もぶっちゃけそう思う。客観的に見たらそれこそ、麻栗が月なら俺はすっぽん以下の何かである。

 そんな人間が、麻栗に憧れるだけ無駄だと言われても、それはまあ仕方のないことだ。

 仕方ないこと……なんだけど。


  ***


(まあでも、知ったこっちゃねぇな!)


 高校に上がって一年と半年。学校の教室の片隅で、俺は半ば吹っ切れていた。

 自分の席から、麻栗の後姿をこっそり眺める。そう、彼女と俺とは同じ高校で、かつ同じ教室なのである。


「いや、告白するのに別に資格とか必要ねぇし!」


 車の運転とはモノが違う。人に告白することに、免許証など不要である。強いて言うなら、相手を本気で好いていることが資格や免許の類だろうか。


 そして俺は、麻栗のことが心の底から好きである。つまり麻栗に告白する資格は、十分にあるということだ。証明終了(QED)


 脳内でそうやって資格の証明を終了したところで、俺は椅子から立ち上がり麻栗へと近づいた。


「麻栗。ちょっといいk――」

「なぁに、聖くん?」


 ……なんか食い気味に麻栗がこちらを振り返る。

 っていうか気のせいか、俺が話しかけるより先に反応してなかったか?


 いやまあ、でもこれは俺の気のせいか。麻栗が俺のことを常に意識してるとか、都合のいい妄想にもほどがあるしな。

 気を取り直して俺は言葉を続けた。


「あのさ。今日の放課後に、時間って作れるか?」

「時間? 別にいいけど、どうして?」

「そりゃ……」


 一瞬、言葉に詰まる。

 が、覚悟を決めて、続く言葉を口にした。


「……大事な話があるから」

「大事な話? ……って、それって、まさk」

「村月先輩!」


 麻栗が何か言いかけたところで、知らない声が割って入ってくる。

 そちらに視線を向ければ、下級生の色のリボンをつけた見知らぬ生徒が、教室の入り口のところからこちらを覗いていた。


 手には一冊の漫画本。

 それで、ああ――と俺は察した。《《いつもの》》である。


「はい、なんですか?」


 と、麻栗も慣れた様子で言葉を返しつつ、おいでおいで、と後輩を教室の中へと招き入れた。

 後輩はそれで、ホッと安心した様子の顔つきになって近づいてくる。


「あの……」


 と、麻栗に声をかける直前で、一瞬後輩の視線がこちらへ向く。「なんでこんな人が麻栗の傍にいるんだろう?」とでも言いたげな、ある意味慣れ親しんだ類の視線であった。


 だがそれも一瞬のこと。すぐに彼女の視線は、再び麻栗の方へと戻り、


「村月先輩が『24時間、貴方とずっと。』の推真先生って聞いたんですけど……ッ!」

「はい、私が推真ですよ。でも、先生なんて呼ばれると照れちゃいますね」


 よどみなく言葉を返しつつ、しかし麻栗の表情に照れはない。

 そう言われるのは慣れている、と言わんばかりである。


「……! あ、あのあの、わたしファンで……ッ! 先月の新刊も買いました……ッ!」


 パァっと表情を華やがせて、後輩女子が手に持った漫画をこちらに見せてくる。


 それからやや気後れした様子を見せながらも、おずおずとこう切り出してきた。


「……もしよかったら、サインがほしいんですけど……ダメですよね?」

「構いませんよ」


 そう言って麻栗が漫画を受け取る。

 それから手早くサインを描き、「はいどうぞ」と言って彼女に手渡した。


「わああ! 嬉しい! ありがとうございます!」


 感激した様子で後輩女子はそう言って頭を下げると、「失礼します」と言ってその場から立ち去って行った。

 その様子を見送ってから、麻栗が再びこちらを振り返る。


「それで? 大事な話って?」


 めちゃくちゃ真剣な目つきで、そんなことを問いかけてくる。


「あ、い、いや、それは……」

「大事な話って?」


 繰り返すな。


 そもそも、こんなところで言うわけにもいかないし。


「それはまあ……放課後のお楽しみっていうか……」


 はっきり言うわけにもいかずそう濁すと、麻栗が「ふーん?」とちょっとジト目を作って見上げてきた。


「へぇー、ふーん。そっかそっかぁ……お楽しみねぇ……」

「な、なんだよ」

「ん-ん、別に……?」


 そんな風に、どこか少し含みを持った言い方をする麻栗。

 それから。


「お楽しみって言うなら、じゃあ……楽しみにしてる♡」


 と言って、彼女はそっと笑顔を浮かべた。


 ん゛ん゛ん゛ん゛っ!!

 これだけは言わせてくれ!!


 麻栗、やっぱりめちゃくちゃくぁわいい!!!!


  ***


 放課後になった。

 俺は校舎裏で麻栗を待っていた。


 同じ教室だから一緒に来ても良かったのだが、放課後になってすぐ、麻栗はまたファンの女子に話しかけられていたのである。

 その邪魔をするのも忍びなかったので、彼女を置いて俺は先に校舎裏へとやってきていた。


 ……しかし、これからここに麻栗が来て、そして告白をするって思うと、今さらながら緊張してきたな。

 ちゃんと麻栗に気持ちを伝えることができるだろうか……?


「って、そんなことで不安がってたらダメだろ」


 俺は自分にそう言い聞かせた。


 伝えることができるだろうか、じゃないんだよ。伝えるんだよ。


 言いたいことがあるんだろ。やっぱり麻栗は可愛いし、好き好き大好きマジで好き。ずっと前から俺の姫。俺が生まれてきた理由、それは麻栗と生きるため。この先一生麻栗といたいし、世界で一番愛してる。


 愛してるんだって伝えるんだよ。


「うん、そう、そうだぞ。そうだぞ俺」


 ガチ恋口上を心の中で何度か繰り返すと、心の緊張がほぐれてきた。

 たとえフラれたとしても……俺にできるのは、この気持ちを真っすぐ正面から麻栗にぶつけることである。そう思ったら覚悟も決まったし、落ち着いてきた。


 やるぞ、俺。告るぞ、俺!


 なんてことを自分に言い聞かせていたところで、


「聖く~ん♡」

「うおっ!?」


 なぜか全力疾走で、こちらへと駆け寄ってくる麻栗の姿が見えた。

 っていうか、本当にめちゃくちゃすごい勢いで走ってないか? 麻栗がこんな全力で走っているところ、運動会でも見たことがない。


 そのままの勢いで麻栗は俺の目の前まで駆け寄ってくると、


「はぁ、はぁ……待たせてごめんね。少しファンの子につかまっちゃって……」

「ああいや。それだけ麻栗の仕事が順調ってことだし、大丈夫だぞ」

「聖くん……うん、ありがと」


 息を整えながら麻栗が微笑む。

 やがて、呼吸を整えたところで彼女が口を開いた。


「それで、聖くんの大事な話って……」

「あ、ああ、それなんだが、えっと実は……」


 覚悟を決めて、俺も切り出した。


「……実は俺、麻栗にずっと隠してきたことがあるんだ」

「隠してきたこと?」

「ああ。その……俺実は、ずっとお前のこと好k――」

「嬉しい♡」


 ……え?


 食い気味に告白を遮られ、「へ?」と思わず俺は固まる。


 胸の内に秘めている思いのたけを、まだ全部言いきっていない。なのに、麻栗はとろんとした目つきで俺を見上げて、嬉しそうに微笑んでいる。なんだこれは。状況が分からん。まだ俺、告白の途中だぞ?


 だというのに麻栗は、心底嬉しいって顔をしながら、


「聖くんから言ってくれるの待ってたの。私も聖くんのこと好き……好き、好き大好き♡」


 などと、口にした。


「……はへ!?」


 嬉しい話ではある。

 だが一方で予想外の展開でもあった。なんせ麻栗は、言うなれば高嶺の花である。幼馴染だからって俺と釣り合うわけもないし、てっきりフラれるもんだと思っていたのだから。


 だってのに俺のことが好きだと? なんだそれは、都合のいい夢か何かか? 今俺は夢でも見ているのか?

 なんてことを考えていると、だ。


「はぁ、はぁ……聖くんが私のこと好き……はぁぁ……♡」


 ……妙に荒い息遣いで、麻栗が俺のことを見つめていることに俺は気づいた。


 あまり見たことのない表情だ。普段の麻栗からは想像できないような目つきで、なんだか妙に色っぽい。


「ま、麻栗……?」


 思わず俺がそう問いかけると、彼女はそのまま手を広げながら俺へと近づいてきて、そして。


「はぁ、はぁ……聖くん……聖くん聖くん聖くぅん……私も聖くんのこと好きぃ……♡」

「!?」


 そのまま地面に押し倒されたかと思うと……麻栗が俺の上にまたがってくる。

 そして気づいた時には。


「ん、ちゅ、じゅる……はぁ、はぷ……ん♡ ん♡」

「!?!?!?!?!?」


 俺と麻栗の唇がぴったり重ね合わされて、そのままにゅるり、と、口の中に彼女の舌が割り込んできたのである。


「はぁ、はぁ……んん♡ 聖くん、聖くぅん♡」

「あ、ちょ、麻栗、なにを……んん!」


 抵抗する暇もなく、麻栗の舌が俺の口の中を舐め回す。

 初めてのキスであるにも関わらず、そのまま大人がするようなディープキスに俺は翻弄されてしまう。


 普段の麻栗の清楚なイメージとはかけ離れた行動に、頭の理解が追い付かない。

 ただ、粘膜同士がこすれ合う感触はあまりに甘美で気持ちよくて……気づけばうっとりと、俺は麻栗のキスを受け入れていた。


「はぁ、はぁ、ん……ぷはぁ……聖くぅん……♡」


 やがて、長いキスが終わって麻栗が俺から口を離す。

 彼女と俺と口の間には、唾液の橋がかかっていた。


 キスの余韻もあってか、目の前でとろぉんとした顔つきをしている麻栗の顔を俺はぼんやりと見つめる。

 麻栗も俺をうっとり見つめて……それから色っぽい目つきでこう言った。


「ねぇ、聖くん。これから私の部屋……来ない?」


 そう言った時の麻栗は、これまで一度も見たことのないような、いわゆる《《メス》》みたいな顔つきで。


(あ、あれ? 麻栗って、こんな顔する女の子だったっけ……)


 戸惑いながら、俺はそんなことを思ったのであった。


  ***


 そのあと。

 俺は麻栗に流されて、彼女の家を久しぶりに向かっていた。


 幼馴染同士とはいえ、俺は麻栗の家にここ三年ほど行っていなかった。

 というのも、漫画家デビューして以来、麻栗は締め切りに追われて忙しい日々を過ごしていたためである。


 そんなことを考えていると。


「どうしたの聖くん? そんなところでボーっとして」


 いつの間にか麻栗の家についていたらしい。

 門のところで立ち止まっている俺に振り返って、麻栗がそう話しかけてきた。


「あ、いや……なんかすまん。ちょっと緊張してて」

「緊張? なんで?」

「それは……お前んち久しぶりだし、それに」


 ごくり、と唾を飲み込む。

 さっきの流れから、麻栗を家を訪れるのだ。色々想像してしまい、その分下半身に血液が集中する感覚があった。


 思わず少し前かがみになると、麻栗の視線も俺の股間へと吸い寄せられるように向けられる。

 ……デカくなっているところを見られた。


「……」

「……」


 一瞬、その場に沈黙が立ち込める。


 気まずくなって、俺は彼女から視線を逸らすと、言い訳がましく口を開いた。


「い、いや、これは……その。さっきのを思い出してつい……」

「あ、あれは……!」


 俺の言い訳に、麻栗も顔を赤くした。


「聖くんに告白されて、つい……! その、感極まって勢いで……だ、だから……いつもいやらしいコトばっかり考えてる訳じゃないんだからね……!?」

「わ、分かってるって!」


 麻栗の反応に、俺も勢いよく言葉を返す。


「正直なところ、俺も期待していたところはあるけど……無理してエロいことするのもなんか違うよな!」

「……え゛?」

「大丈夫、分かってる。分かってるぜ。三ヶ月とか、まあそれぐらい健全な付き合いを重ねてから自然な流れで……みたいなのが、やっぱり普通だよな!!」


 うん、無理して麻栗にエロいことさせるのもなんか違う。

 というかそもそもエロいことして告白したわけでもないのだ。


 そういう行為は、自然な流れに身を任せた方がいいに決まっている。そう思って、麻栗に向かって親指を立ててサムズアップをしてみたところ。


「……………………へー」


 と、物凄く死んだ目つきでそんな相槌を言っていた。


(ん、んん? どういう感情だ!?)


 読めない表情に思わず面食らう。


「ど、どうした麻栗?」


 と、つい質問してみるも、彼女はいまいち感情の読めない笑顔を浮かべて、


「ううん。別になんでもないよ?」


 と麻栗は言うばかりであった。


「それより、ほら。早く上がっ――あ!」

「ん?」

「ごめん、部屋の片づけをしてきてもいい?」


 申し訳なさそうに手を合わせ、そう言う麻栗。


「ちょっとぐらい散らかってても大丈夫だぞ?」

「私が気にするの!」


 もうっ、と麻栗が頬を膨らませる。


「とにかく、ちょっとだけ待っててね♡」


 そう言って、玄関先に俺を置いて麻栗が先に家の中へと消えていった。


 それから15分ほどが経ち。


「お待たせ、聖くん!」


 ガチャ、と玄関の扉が開いて、中から麻栗が顔を出す。

 それから、家の中を手で指し示すと、


「ほら、上がって聖くん」


 と促してきた。


「じゃあ、遠慮なく」

「冷たい飲み物用意してくるから、先に私の部屋で待ってて?」

「はいよー」


 靴を脱いでいる最中にそんなやり取りを交わすと、麻栗はリビングの方へと姿を消していく。

 そんな彼女を見送ってから、靴を脱いだ俺は階段を上がって麻栗の部屋へと足を向けた。


 数年来てないとはいえ、昔は何度も遊びに来た家である。

 ある程度勝手は知っているし、麻栗の部屋も昔からきっと変わっていないだろう。


 そんなことを考えながら記憶を頼りに2階の部屋の扉を空けると、案の定そこが麻栗の部屋だった。


「おおー!」


 彼女の部屋の内装は、記憶よりもかなり様子が違っている。というのも、いつの間にかデカい机にパソコン用のモニターが何枚もあったり、テレビなんじゃないかってぐらいに大きいペンタブが置かれていたりするからだ。


 とはいえ、棚の感じや昔から使っているベッドなんかは昔の名残を感じさせて、ここが麻栗の部屋だというのが分かる感じになっていた。


「しかし、すげーなオイ。本当に仕事してる人の部屋って感じだ……」


 高校生とは思えない、いかにもな部屋の様子に、少し心がワクワクする。

 なんというか、こう、カッコいいって感じだ。ここで普段、麻栗が漫画を描いているって思うと、なんだかすごいことのような気持ちになってくる。ってか実際、麻栗はすごいやつだけど。


「すごいなー……マジで漫画家なんだな麻栗……」


 つい、部屋の中をきょろきょろ見回してしまう。

 いかにも処理能力な高そうなデスクトップパソコンとか、3枚もあるパソコンモニターとか、あとは棚の上のディルドとか……。


「……………………ん?」


 今、なんか変なものが目に入ってきた気がする。


 もう一度、部屋の中を見渡し直してみる。


 デカい机の上には、パソコンモニターやペンタブやデスクトップPCがあって、机の前にはいかにも機能的な感じのする高級そうなチェアーが一つ。

 それから棚には、色んな本が置いてあって、いかにも資料と分かるような内容のものもいくつかある。


 そして棚の上に視線を戻せば……。


「ん゛ん゛ん゛ん゛!?」


 思わず変な声が出た。


 そこにあるのは、なんと……男性のソレをけっこうリアルにかたどった感じの、張りぼてのアレである。いわゆるデでから始まってドで終わる四文字のアレだ。つまり男のアレっぽいアレである。アレアレうっせぇなおい。俺今絶対混乱してるだろ。


 麻栗の清楚なイメージにはそぐわない、グロテスクな形状のそれを見て、つい俺は手に取ってしまう。

 手に取ってみた感じの質感はなんというか……。


「す、すげーシリコン……」


 って感じだった。


「い、いわゆる大人の玩具だろこれ。なんで麻栗の部屋にこんなもんが……」


 そんなことを呟きながら、手に取ったそれをしげしげと眺めていたところ。


「お待たせ~、聖くん」


 と、部屋の扉がガチャっと開く。


「飲み物持ってき……あっ!」


 そして言いかけた麻栗の言葉が、俺が手に持っているものを見て途中で止まった。


 恐る恐る後ろを振り返ると、そこにいたのはお盆を手に、顔を真っ赤にしてカタカタと震える麻栗の姿。

 麻栗はぽつりと呟いた。


「……………………そっち、片付け忘れてた……」


 ……と。


  ***


 その後も震え続ける麻栗の手から、とりあえずお盆とグラスだけでも回収して机の上に置いた後。


「……」

「……」


 俺と麻栗は、黙ったまましばらく見つめ合っていた。


 何というか、はっきり言って、気まずい。麻栗はなんだかだらだら汗をかいているし、俺は俺で何から言えばいいのか分からない状況であった。

 結果、俺はディなんとかを手に持ったまま、硬直し続けていたのだが、やがて麻栗の方から口を開いた。


「あ、あのね……聖くん、違うのよそれは……」

「ち、違うのか。そうなのか」

「そ、そうなの! それはね、ただの漫画の資料で……」


 麻栗が描いてるのエロ漫画じゃないじゃん。

 俺はそう思ったし、口に出して言おうと思ったのだが、実際に言葉を発することは叶わなかった。


 なぜなら、口を開きかけた瞬間に、麻栗の後ろのクローゼットが「バンッ!」と物凄い勢いで、内側から開かれたからである。

 そしてさらに、ドサドサドサっ! と、大量の人形(鏡でなんか見た覚えのある顔つき)とか、あとは何百枚って枚数の紙切れが溢れ出してきたのである。


「せ、聖くん! ダメ、それは――」


 そのうちの一枚が、俺の足元に落ちてきたので手に取る。

 麻栗が慌てて叫ぶが、それよりも先に俺は紙切れをひっくり返した。


「!?!?!?!?」


 見なきゃよかった。

 なんと、その紙切れの裏側には、高解像度でプリントアウトされた俺の写真があったのである。


 それもただの写真じゃない。

 自室で自○の真っ最中な、アハンウフンな写真である。


 あまりの衝撃に俺は思わず麻栗を見る。

 ……と。


「……(ポッ)」

「なんか言って!?」


 黙って頬を染めるのやめて!?


「なんなんだこれ……いったいどういう……」


 写真を持ったまま思わずよろめく。

 だが、衝撃はまだこれだけでは終わらなかった。


 よろめいた表紙に腰が机にぶつかって、スリープ状態だったモニター画面がパッと映ったのだが……そこに映されていたのはなんと、俺の部屋だったのである。


「なんで俺の部屋の映像が……」


 思わず言葉を失う俺。

 上下左右様々な角度から映し出される自分の部屋を見て、くらくらとめまいすら覚えそうだった。


「……麻栗」


 どうにか自分を取り戻して、俺は麻栗へと振り返る。

 そして彼女に問いかけた。


「これはいったい、どういうことなんだ?」

「えーっと……」


 麻栗が冷や汗を浮かべて俺から視線を逸らす。

 それから何を思ったのか。


「……(にこっ)」


 にっこり、めちゃくちゃ可愛い笑顔を浮かべてごまかそうとしてきた!


「……可愛く笑ってもごまかされねえからな?」

「か、かわいい?」

「いや今のは褒めてねぇから」


 キャーッ、と黄色い声を上げる麻栗だが、こちとらそんな話はしていない。


「俺が聞きたいのは、なんで盗撮と思しき写真と映像があるかってことなんだけど」


 と、より具体的に問い詰めると、麻栗は気まずさと諦めの滲んだ表情でボソッと呟いた。


「……ライフワーク?」


 ライフワークって何!?」


「聖くんが変な女連れ込んでたりしたらって思うと……不安で不安でつい監視を……」


 一番変なことしてるのは麻栗なんだが!?


「でも好きな人のことで常に頭がいっぱいなのは普通のことだし、私変なことしてないもんっ」


 自分の常識を疑ってほしい。


 意味不明な供述を繰り返す麻栗に、俺は呆れてモノも言えない。

 集めている写真も、俺のきわどいショットばかりである。俺が麻栗のことを好きだったからセーフだったものの、これ仮に俺が麻栗を恋愛対象だと思ってなかったら犯罪だからな?


「つーかマジで、好き好んで集めてる写真が俺の裸の写真ばっかってのはほんとどういうことなんだ?」

「そ、それは……」


 写真の中でも、特に気になっていたところをつい口にすると、麻栗が表情を泳がせる。


 それから、「うぅぅ」と顔を真っ赤にしたかと思うと。


「そんなの、恥ずかしくて言えないよぉ……」


 と、恥じらうように視線を逸らした。


「なんでそこで恥じらうんだ……」


 思わず呆れてしまう俺である。もっと恥じるべきところがいくらでもあるだろうに。


 と、何度目かになる呆れのため息を俺が思わずついていると、だ。


「で、でもねっ。聖くんだって悪いと思うの!」


 と、いきなり麻栗は俺のことを責め始めた。


「はぁ!? なんで俺が……」


 心当たりがなくて、思わず眉を顰める。

 そんな俺に、麻栗は「うん」と頷くと。


「聖くんみたいなカッコよくて魅力的で素敵な男の子を好きになっちゃったら、監視カメラぐらい仕掛けても仕方ないよ!」

「言いがかりって言葉知ってる?」


 とんでもない暴論である。


 監視カメラを仕掛けることの、一体なにがどう仕方ないのか、もっと具体的に教えてほしい。相手が俺じゃなければ普通に犯罪行為である。そのことをちゃんと彼女は分かっているのだろうか?


「俺は麻栗が、なんだか心配になってきたよ……」


 思わずそう呟けば、彼女はにこっと明るく笑って、


「あ、でも安心して。流出はしないよう気を付けてるから!」


 と口にした。

 でも違うんだ、麻栗。俺が心配してるのはそこじゃない。


「いや、俺が心配って言ってるのはだな……お前の頭が心配って意味で……」

「えぇ~、心配なんてする必要ないよ? だって……」


 麻栗の目つきが、不意にそこで変わった。

 どこか獲物を前にしたような……肉食動物みたいな目つきで俺を見つめてきたのである。


 そして、それから呟いた。


「心配の必要なんてないぐらい、聖くんも頭の中、私のことでいっぱいにしたらいいんだから」


 ――と。


  ***


「ま、麻栗? ちょ……」


 なんとなく風向きが変わったことを悟って、俺は思わず後ずさる。

 だが、俺が後ずさったのと同じ分だけ、麻栗は距離を詰めてきた。


「あの、麻栗? 目……目が怖いんだが……?」

「大丈夫だよぉ。ぜんぜん、怖くなんてないよ?」


 という麻栗だが、吐息はもはや変質者のそれに近いぐらいにハァハァ荒くなっている。

 反射的に後ずさってしまうぐらいには、彼女の様子はあまりに捕食者じみていた。


「私は聖くんを食べたいだけ……だから、ほら、ね? 全然怖くなんてないでしょ?」

「お、落ち着け麻栗! 段階! 段階があるだろこういうのには、な?」

「段階? なにそれぇ……?」

「具体的には、学生の間はピュアでプラトニックな関係を育むということだ! そして大学に進学した後、自然な流れで同棲を始めてから2年ぐらい経った辺りで、あくまで極めて自然な流れで(←ここ重要)結ばれるのが健全だとは思わないか!?」

「でも結局聖くんとはヤるし結婚するし同じ墓に入るから段階なんて関係ないのでは?」


 しらー、っとした感じの表情で、麻栗が俺の主張を一刀両断する。

 そして次には、何かを悟ったような顔つきになったかと思うと。


「あともう色々見られて完全に覚悟決まっちゃった」


 と、さながら麻薬中毒者のようなキマりにキマり切った目でそう言った。


 そして、そこからさらに距離を詰めてきたかと思うと、だ。


「えいっ」


 と、突き飛ばすようにして俺をベッドへと押し倒したのであった。


「ま、麻栗やめろ! 軽率に衝動で行動すると、ロクなこと……」

「ん-、そうかなぁ……?」


 言いながら、麻栗が俺の股間へと手を伸ばす。

 そして、スラックスのジッパーを、ジー、と下ろしていき、ズボンの中へ手を突っ込んで、言った。


「でも、こっちの聖くんはヤる気満々だよ?」

「くっ……」

「聖くんには、二つの選択肢しかないんだよ? 無理やり襲われるのか、それともおとなしく受け入れるのか」


 にこっとそこで微笑む麻栗。


「どちらにせよ、もう聖くんに逃げ場なんてないんだよ?」

「お、俺は断じて……断じてそんな軽率な誘惑になど……」


  ***


 ――乗らない、とその時は思っていたのだ。


 でも、分かるだろ? 高校生の自制心なんて……それこそ高が知れてるんだって。


「ま、麻栗――待ってくれ! 俺、もう限界……」


 それから二時間後。俺は何度目になるかも分からない白旗を上げていた。


「えぇー! 私、これぐらいじゃまだまだ足りないよ、聖くん?」


 だが、麻栗はそう言って不満そうに唇を尖らせる。


 あのあと、俺と麻栗は何度も何度も交わっていた。それこそ麻栗の性欲は無尽蔵で……何度果てても、そのたびによみがえらせられるのである。


「足りないって言われても……お、俺、もう出ないし……」


 そして都合、5、6回目になる《《発射》》を終えて、いい加減限界だと訴える俺であるのだが。


「私、この日を待ってたのに……ずっとずっと楽しみにしてたのに。こんなんじゃ全然物足りないよぉ」


 と、俺の訴えはあえなく却下されてしまった。


「そんなこと言われても、男には回数制限ってもんが……んぷっ」

「はぁ、んちょ、れろぉ……」


 言いかけた俺の唇を、覆いかぶさるようにして麻栗が塞いでくる。

 それから交わされる、濃厚なキス。


 あまりに深い口交に、下半身へ再び血がたぎり始めるのを俺は感じた。


「んはぁ……♡」


 それから長いキスを経て、ようやく麻栗が口を離した頃には……。


「あはっ♡ 聖くん、元気になってくれたぁ♡」

「お、お前があんなキスするからぁ……」


 限界を迎えたはずの我が息子も、意識を取り戻してしまう。

 麻栗の表情がパァっと華やぐ。


「これなら、まだまだたくさんデキるね♡」

「あ、いや、ちょ待……アッー!!」


 それから俺は何度も何度も、それこそ毎日麻栗に搾り取られまくる幸せな地獄の日々を過ごすことになるのだが……それはまた別の話である。

こちら、連載中の『ずっと好きだった幼馴染と付き合い始めたら一途ビッチの性欲ジャンキーだったんだがどうすりゃいいですか?』を短編用にリライトしたものになります。

また、本作はただいまニコニコ漫画で絶賛連載中ですので、もしよければそちらもご覧ください!


以下のリンクから作品読めます!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ