保険医に飛び火し
さて、保険医がキレたわけだが、実はアルクレストの保険医は結構寛容だったりする。
マァ、寛容というか、興味のないモノにはとことん興味ないだけって方が正しいが。
保険医は人間という生物には興味があるが、あくまで生物としてってだけ。
なので、人間がどれだけ自分の周りでどれだけ煩く喚こうが暴れようが全く気にせず、自分に被害が無きゃ笑ってるような人だ。
多分気分は動物園、否檻がないからサファリパークか。
マァどっちにしろそういう、自分とは関係のない生物が何かしてるって感じなのだろう。どうしてこの保険医にしたのか。ロエルは学園長の精神と思考がちょっと不思議になった。
そんな保険医が学生時代に所属してたのは深淵寮らしい。何となく察しは付いてた、アレはどう考えても医学の探求に人生捧げてる狂人だ。
そんな保険医が、たかだか生徒が煩くした程度で怒る訳がない、怒るほどの興味がそもそもないのだから。
では何故か。
単純に元々気が立っていたからだ。
大変珍しく気が立っていた保険医に付いて、話は植物園が燃えたことに戻る。
実は植物園の復興は、意外と何とかなりそうだったらしい。
どうも、我が校の保険医がしばらく前から無断で大量に毒草害花類を持ち帰っていたらしく、そして無断で栽培していたらしい。
そんなタレコミが園芸部にあったらしく、結果部員が顧問を保険医にぶつけて抑えてる間に保険医の自室を探し回ってたらしい。
マァそこに関しては何も言わないでおこう、教師二人のじゃれ合いで建物の一部が溶けたり崩壊したりしたようだが、自動で修復されたから被害は何もないと言えなくもない。
結果。
保険医の自室から、いくつかの魔法で隠されていた部屋が発見され、その中に並べられていた植物の約八割が園芸部により運び出された。
流石に全てを賄うことは出来ないが、それでも入手できねぇなってあきらめるような種はほぼあったらしい。
むしろ入手できないような種だから勝手に持って帰ったんだろうなぁ。
ロエルだって保険医が色々集めてるのは知ってたので、学園側だって当然保険医の事は把握してだろう。その上で無断栽培を黙認していたのはもしかしたらこういう時の為なのかもしれない。
そも、本当に復興が難しかったら今頃呼び出されていただろうので、そこまで深刻な問題じゃない事自体はロエルも察していたが、思ったよりもあっさりと解決しそうだ。
この学園はある程度規模のデカい問題起こしたら割と生徒だろうが責任取らせて来るのだ。ロエルとしては学生のオイタや失敗くらい笑って許すの年長者の度量だと思うのだが、器の小さい者しかいないとは嘆かわしいことで。
マァ復興の目途がなきゃリオンもあそこまでハッチャけたりはしなかったろう、暴れ足りなかったようだったから全壊させる予定だったんだろうな。
あの一年は行動が派手だが、意外と頭は回るらしい。
じゃなきゃ今頃退学してるか。
それにしても、まだ入学してそこまで経ってないのにこんなに問題起こすとは素晴らしいというか、流石というか、恐ろしいというか。マァ関わる事はそんなにないだろうからロエルは気にしないことにした。
さて、リオンが今回は随分派手にやったが、保険医に付いてある程度把握していると認識していいとして、一体どこまで知っていたのだろうか。
「どうなの?」
気になったので直接聞いてみた。
「はい、知ってましたよ」
あっさり肯定された。
「植物園の八層の植物、特に希少なのはあらかた栽培してるようです」
「そうなんだ」
「今精神に作用するモノについて研究してるらしいです」
「随分と詳しいようで」
「そうですか?」
やっぱり知っていたらしい。
だから何のためらいもなく塵すら残らない勢いで燃やしたんだろうなぁ。
ロエルだって保険医が勝手に色々持ち出して栽培してたことくらいは知っていたが、今何に興味があってどんなのを栽培してるのかまでは把握していなかったんだが、保健室とも植物園ともあまり縁がない一年生が何でそんなこと知ってるのだろうか。
心当たりは全然あるが、もうちょっと詳しく聞こうとしたあたりで、リオンがでも、と切り出した。
「でも、先輩程全体は把握してはいませんよ」
「……それは、どうだろう」
「今回は一年生に被害はなかったので、関わる予定なかったんですけど、マァ暇だったので」
「ふぅん」
リオンは笑っていた。
なのでロエルも笑顔で返答して、そこで会話を終わらせることにした。
どうやら色々バレているらしい。
本当に、何も考えてない馬鹿なら良かったんだけどな、そうじゃないのが大変残念だ。
ロエルとしては探られて痛い腹が普通にあるので、コレ以上関わるのはやめておこう。
リオンもロエルにそこまで興味はないだろうし。
さて本題は保険医だ。
正確には保健室だろうか。
マァ兎角その辺の話。
発端としてはそのように、保険医の研究用のおっかない草花が徴収され植物園にて現在スクスク成長中なわけだ。
園芸部が保険医との地獄の鬼ごっこの末、数人の部員を犠牲にして成し遂げたた様子は、観戦しているロエルとしても大変心踊らされた。コーラとポップコーンを用意しておいてよかったと過去の自分をほめたくらいだ。
流石の保険医も植物園にまでたどり着けば引いていき、というかそこをゴールにしてたのだろうが、つまりはきっちり私物(元は植物園にあった筈だが私物といえるだろう)を取られたわけで。
そのことに気が立っていたわけだ。
勿論保険医としても自分の研究の道具がそこら中に生えてる植物園の復興に手を貸すことに否はないだろうが、それはそれとして自分が被害を被るのは嫌なのだろう。我儘め。
そんな状況でバカ騒ぎが頭に響いたのか何なのか、等々キレたってワケだ。
ロエルとしては一応原因というか、発端が自分の気がしないでもない事件なので、保険医の件は運が悪いなぁと思う。
思うが、何だろう、同情とか憐みの感情は全くないが。
むしろ自業自得というか、因果応報というか、おぉうって感情しか沸いてこないのだが。
けれどもソレも他人事だから出来る事だろう、当事者なら知るかボケくらいの反応じゃなかろうか。
具体的に言うなら保健室にたむろしてたらガスが充満して意識を失った健康な生徒たちは今頃恨み言吐いてるのだろう。
生徒を堂々とひらくと止められてるからか、保健室にはいくつか隠し部屋があり、そこにはベットやら器具やらが色々揃っている。
むしろ恨み言を吐く余裕すらないのかもしれない、代わりに吐いておいてやろう。
そして生徒が屯する原因になった教師だが、こちらは生徒じゃないので保健室のベットの上のままだった。
ベットの上で寝たまま奥に運び込まれていった。
何やら奥から叫び声や呻き声が聞こえてくるらしいが、きっと空耳だろう。
葬式の日取りはいつかな。
多分休みになるから街に遊びに行きたいんだ、今のうちに予定立てておきたい。
こうして、保険医のストレス発散の為に教師が一人犠牲になった。
因みに、流石の丈夫さで死んでなかったそうだが、途中で飽きた保険医により自室に放り込まれたらしい。人の心。
だれかこの保険医をどうにかして欲しい、万が一怪我して保健室に運び込まれたらと思うとみんな危険なことする前に一瞬冷静になっちゃうのだ、保険医に治療の為に命を預ける気にはとてもなれないので。
むしろどうあっても弱ってる状態で遭遇するあたり、ある種一番厄介な存在かも知れない。
因みにロエルは見てる分には面白いから何かする気はない。
多分この保険医が学園で楽しく日課に励んでるのはロエルのような生徒が大半だからだろう。