植物園で蝶が羽ばたき
植物園で、毒を持った蝶が生徒を襲ったらしい。
校内新聞に小さくそんなニュースが載っていた。
そんな記事を見つけたロエルは、スマホで記念に写真を撮りながらどうしたもんか、と考えていた。
どうしたもんか。
つまりは、困惑していたし、わずかながらに動揺もしていた。
なんせ、ここに記された生徒を襲った蝶ってのを植物園に放ったのはロエルだったので。
ここはアルクレスト学園。
ロエルが所属する、愛すべきクソッタレな学び舎。
この世界誰もが聞いたことはある、聞いたことがなくとも見たことはある名門校だ。
なんせ空に浮かび、常に移動しているので。
太陽の光が遮られて、雲かなって空を見上げると偶に頭上を通過するデカい島。
嘗て。
おおよそ三千年以上昔。
三賢者と呼ばれる者の一人がなんか色々頑張って作り上げたらしい。
詳しいことは確か歴史の授業でやったけど、興味がなかったので寝てたしテストおわった瞬間詰め込んだ知識も全部消し飛んだロエルには分からない。
ロエルの歴史の成績は赤点をギリギリのところで免れている程度なので、マァ別に赤点取ろうが零点取ろうがいいのだ、過去を振り返らず未来から目を逸らし今を楽しむことにしてるので。
兎に角この学園はそんな感じで、もはやお伽噺とか伝説とかの領域にある。壮大だな。
どうやって三千年も国家並みのデカい島やら建物やらを空に浮かべ続ける技術は一部の人間が熱心に調べ続けているけど未だに解っていないが、けれど世の中不思議なコトは有ればあるだけ楽しいのでね、大変素晴らしいね。
因みに、謎なのは飛行技術だけではない。
この学園の入学には試験も何もなく、入学許可証が何らかの方法で届くのだがその際の生徒の選定基準も、なんなら許可証を届ける仕組みも良く分かっていない。
ロエルの時は凄い勢いで顔目掛けて封筒が飛んできた。
紙製なのに頬に掠って傷が出来たし、壁に深々と刺さっててその跡が今も残ってる。あと少し回避するのが遅かったら眉間に刺さる軌道だった、明確な殺意のような物を感じたので、許可証で今まで絶対死人出てると思っている。
なんせ創立三千年超えだ、当時から生きている存在でこの学園に関わっていて、なおかつ態々懇切丁寧に説明してくれる奴なんていないので、謎がいっぱいのまま空を飛んでる。
そしてここは名門校だ、歴史だけでなく実績もあるので当然優秀な生徒が集まっている。
けれど馬鹿と天才は紙一重という言葉があるように、天才鬼才と持て囃された生徒たちはその才能と比例するように馬鹿なことに人生をかけていた。
しょうがない、だってみんな十代後半のガキだもの、しかもここは男子校。
男子高校生なんて須らく愚かであり、その愚かさが許されるギリギリの年齢と肩書だなのだ。
そんな愚かで優秀な生徒たちを空という世間から隔離された空間に詰め込んだのだ、そりゃ皆好き勝手やる。
だから生徒の悪戯や実験は珍しくないし、それで誰それが死にかけたとか全治半年とか意識不明とか言う話はもはや日常の一部。
故に、今回の事件だって別に珍しくない。
じゃァロエルが何に困っているのかっていると、今も植物園の第八区画でヒラヒラ飛び回っているだろう蝶の回収をどうしようかってこと付いてだ。