私と私だった彼女
私は昔から―――私と話すのが好きだった。
そう、自分自身と話すのだ。独り言では無い。己の脳内で、「私の分身」と話すのだ。
蔑まれる事もなく、罵られる事もなく、身勝手で理解能力の欠如した私を優しく包んでくれる―――。
相手の一挙手一投足、その全てが事前に仕組まれ、次に相手が口にする言の葉が分かる―――非常に「安定」した会話。
―――いや、それは幼少期の話だ。
ある時から、私の分身の思考の一切が、把握出来なくなってしまった。
「…頼む…早く自殺してくれよ…
…君が可哀想だ…」
私の性格、趣向とは著しく乖離した「人間」―――それも己の容姿を得て、彼女は私の視野へ影絵の如く姿を現した。
恐らく―――私が遂におかしくなって、妙な人格でも作り出したのだろう。
すると彼女は、私の心情を見透かした様に―――いや、見透かして、「俺は最初からここに居た。お前が見つけてくれただけだ。」と言って、嘲笑う様な表情を見せた。
それも―――屈託が無い、清々しい笑いだ。
例え錯覚か妄想だとしても、私が持たない面をもつ彼女は、良き話し相手になってくれる。
居ない筈の彼女は、確かに傍で笑っていた。
…君は誰なの―――。