分岐点
「…私の方からは以上ですわ。お父様、あのところで侵入者はどうなりましたか?」
「ああ、あの暗殺者のことかい?今は牢に繋いでいるが、子供といえど簡単に許すわけにいかないよ?普通では突破できることはない我が家に立ち入ることができてしまった異常…」
「………」
「…マリアには軽く護身術を教えておいてよかったよ…毒の件もそうだけど、どちらも下手したらマリアの命はすでにこの世にはなかった…」
「…ええ…その通り、です」
確かに、あのままでは私の命はなかったであろう…毒は無差別であった可能性は否定できないが、昨晩の暗殺者を寄越したことでハッキリした。
明らかに、あの毒の狙いもマリアだ。
お父様も確信したと同時に既にいろいろ事を動かしていることが窺えた。
一体、何をしていたのか聞きたい。
衝動なままに聞きたい要求とは裏腹に酷く冷静な自分も存在した…。
急遽、魔物狩りに出掛けていったはずのお父様がここに居る時点で、ねぇ?
…私、嫌でも察するわよね…。
王宮パーティで見物していたであろう犯人さん…諦めて今すぐ自首をおススメするよ?もう、遅いかもだけど…。
マリアは何処かにいる犯人たちに頭の中で軽く手を合わせ、念仏を送る。
それにしても…ホントお父様から護身術、教えてもらってよかったわ…。
暗殺者や誘拐目的のための対策のつもりで一応やってきていたつもりだが…自身にできることは結局、限度がつきものだ。
ましてや、女性…しかも今の姿は子供だ。
子供の腕力なんて、たかが知れている。
今回は、相手も子供だったから通用したのであって…。
これが、もし…もしも大人であったならば、私なんて一瞬で殺されていたことであろう。
そこまで想像してしまうと、身体が少し強張る。
「マリア?」
「……お父様、お願いがあります」
「うん、なんだい?言ってごらん?できる限り叶えてあげよう」
「…面会の許可をいただきたいのです。昨晩の、あの子に…」
「…例の子供に?」
「牢から出すことはできないのでしょう?ならせめて、直接あの子に会わせていただきたいのですわ」
「…会って何をするつもりなのかい、マリア?お父さんとなら安全に、尚且つマリアが知りたい質問にも答えてあげられるはずだよ?」
「…いいえ、お気持ちはありがたいのですが…その子でなければダメなことですわ!…まぁ、それとは別にお父様にも聞きたいことがありますけど…」
「…どうしても、かい?…」
「ええ…」
「………………………………………分かったよ……ただし、私が許可した時間以外は行かないでほしい」
「ええ。分かりましたわ、父様。有難うございます!」
「マリアの滅多にないお願いだしね…構わないよ」
呼吸が上手くできなかった。
“公爵が承諾した”それを頭で理解すると同時に、やっと息が身体に循環した気がした。
かなり沈黙してこちらを見つめてきたから、これはギリギリラインだろう。
それでも、目で訴えかえし続けたらお父様が許可してくれた。
あの子供の事は確かに気になったので、どうしても…もう一度、会ってみたかったのだ。
ただの私の感でしかないが…。
『ここで動かなかったら、私は後悔する。それにこの状況だって何も変わりやしない、星の数が幾千億あるように私たちの分岐点だって幾千億あるんだ。だから…』
——あれ?前世の記憶の中にこんな記憶あったっけ…。