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散歩


$$$



「今日こそ、外に出れますわ~!!」


 苦痛に満ちた説教から三週間。

 その間の私は、外出するのが一切合切禁止されており、ようやく「敷地内ならば歩いても良い」と承諾を得ました。

 これでも短くなった方で、最初にお父様が提示した提案なんて、『一か月以上の謹慎』だったのだ。

 それを押しのけて短縮させ、三週間へとなったが……。

 

 承諾した時のお父様、なぜか私の方を見て微笑んでいましたが、一体何故でしょうか?

 同じくその場に控えていた爺やも「お嬢様、どうかそのままで……旦那様とは違い、その純粋な心のままでいてくださいな」と、涙を浮かべて呟いていた。

 それが聞こえていたのか、すぐさまお父様から文句が飛びかかってきたが、「おやおや、地獄耳ですな。ですが事実を申し上げたまで、ですよ」と、爺やはさらっと受け流していた。


 結局、なんのことかは分からないまま、本を読んだり、勉学へと取り組んだり、時間をつぶしながら今日まで過ごしてきたけれど。

 あれからというもの、お父様とゆっくり話す時間など全くなく、時折屋敷の通りすがりに見かけることが増えた。

 せめて一言ぐらい声をかけようかと思った日もあったが、お父様は行ったり来たりいつも忙しそうにしており、それすらも少々躊躇ってしまう。


(……お父様は、一体何をしていらっしゃるのかしら?まるで誰もかれも蹴落としてやると言わんばかりの凄まじい勢いがあるわよ……)


 少々寂しい気持ちはあれど、忙しい父様の足をわざわざ止めさせるほどの大事な用事は、私には存在しない。

 だから今日も今日とて、私は嵐のような父様の背中を見送るのだけだった。



「――――様? ……お嬢様ッ!!」


「――ん?」


 不意に鋭い声で呼ばれ、私の意識が現実の方へと浮上する。

 ぱっと声がする方へと顔を向ければ、そこには私の専属侍女であるエルザがいた。

 

 物心ついた頃から私の傍にいてくれる彼女は、私にとって絶対的な支柱でもある。

 時に甘やかし、厳しくすべきところは厳しく。まさに理想を体現したような女性で。

 彼女が浮かべる柔らかな笑みは、私の一等お気に入りの瞬間だ。


 そんな彼女が見せる、柔らかな笑みとは正反対に、今は真ん中にぎゅっと眉を寄せ、隠しきれない暗い色が顔を覗かせている。

 その原因が私であることは明白だった。


「お嬢様……やはり本調子ではないのではありませんか?今日もお部屋でお過ごしになられた方が……」


「……いえ、外の空気を吸った方が気分転換になるでしょうし、いつまでも部屋にこもりっきりの方が不健康ですわ」


 彼女の提案をきっぱりと退けるために、はっきりと自分の意見を口にする。

 そうでもしない限り、過保護な彼らは私を外に出そうとしないだろうから。

 現にそのおかげか、エルザは依然として顔は曇ったままだが。


「……承知いたしました。朝食の準備も整っておりますので、温かいうちに向かいましょうか」


 彼女は折れるような形で引き下がってくれた。


(ありがとう、エルザ。流石にこれ以上部屋に閉じこもっていたら、私自身の体からキノコが生えてきそうだもの)


 そんな冗談を心の中で呟きながら、朝食の内容を手短にエルザから聞く。


「……今日は、雪を模したようなふわふわで真っ白いパンがお勧めで……あら、そういえば」


 生き生きと献立を語っていたエルザの話が、ふいに途切れた。

 「どうしたの?」と続きを促すと、彼女は何かを思い出したのか再び表情を曇らせ、言葉を選ぶようにゆっくりと声を紡ぎだした。


「もし外に行く際、特にお決まりの用事がございませんでしたら……騎士団の方へと足を運んでみられてはいかがかと」


「……勧めてくれる割には、エルザ、あまりいい顔をしていないのね?」


 言葉の通り、彼女はまさに『不機嫌』という感情をありありと表に出していた。

 ここまで露骨に顔に現れると、少々面白いくらいに。

 

 私の指摘に、エルザは深く頷きながら、言葉を続ける。


「その通りです、お嬢様。……正直に申し上げれば、私というより、騎士達たっての希望でして。是非とも、お嬢様にご挨拶願いたいと、今朝から……いえ、大分前から騒がしくて」


 そう呟く彼女は、ため息とともに疲れを吐き出しているようだった。


(どうやら、エルザには相当迷惑をかけてしまったようだわ……。大分前ということは、多分この二週間の間よね)


「分かりましたわ。ありがとう、エルザ」


 私が真っすぐに礼を伝えると、エルザから大好きなあの柔らかな笑顔が返ってきて、つられて私にも笑みが伝染する。



 ――さて、行ってみますか。騎士団へ!!







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