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自白


 つーかまった。つかまった。それなら次は、わたくしが鬼側ですわね。

 

 ――なんて冗談を言える雰囲気では、ありませんわ。


 そんな冗談を一つでも飛ばしてみなさい。

 ながーいお説教に加えて、私の愛するお菓子たちが貴い犠牲を払うことになりますわ。

 ただでさえ怒られる心当たりしかありませんのに!!

 これ以上、なにを犠牲にする必要があるというのかしら?

 

 ついつい今後のことを想像してしまった私は諦めともいえる吐息を一つこぼし、彼の名を呼んだ。


「クラウス。……()()逃げないから、この手を離してくれないかしら?」


「うーん。お嬢の要望でも、それはちょ~っと、聞けない相談っすねぇ。今しがた逃げていた前科さえなければ、その検討の余地もあったかもしれないですけど……」


 要するに、絶対に逃がさない、ということね。

 前方だけではなく背中からもひしひしと圧を感じながら、私は脳を動かしていく。

 

 追手の彼らが私の味方だと確定したはいいものの、ルカは今後どうするつもりで私にあんな提案をしてきたのかしら?

 あのときは暗殺者か疑うくらいの優しさに感動して忘れてしまっていたけれど。

 もしかして、そんな場合ではなかったのかしら?


 もともとルカが不利になる提案ではあった。

 それはあくまで彼が約束を守るという前提があってのこと。

 騎士たちよりも先に気配を察するほど敏い彼が――プロの暗殺者(推測)であるルカが、本当にその事実に気づいていなかったのかしら?

 たとえ、当初は分からなかったのが事実だとしても、逃走の最中に察していた可能性が高いわね。

 

 ――それならば、なぜ彼はあんな提案を?


 浮かんだ疑問を解消するために私は目を凝らして、あたりをざっと見渡した。

 視界は真っ暗闇ではない。

 だが、燃え盛る炎に囲まれていた時と比べてしまうと、どうしても心許ないのだ。


 というか、こんなにも視界が悪い中、互いに位置を把握しあっていた彼らは、もしや人間を卒業しているのかしら!?

 私が後ろを振り返ったときは、たまたま魔光灯に照らされた時だったから分かりましたけれど、それ以外なんて暗闇といっても過言ではない場所がほとんどでしたわよ!!

 

 殺気といい、戦闘といい、あなた達は人間離れしすぎです!

 それとも、これが普通ですの? この世界での常識なの?

 もしも、これが「異世界だから」なんてアンサーが返ってこようものなら、私もいよいよ覚悟を決めなければなりませんわ!!


 彼女の覚悟を周囲が知れば、必死にその事実を否定するだろう。

 だが、あいにく口から出していないその決意は誰にも止められることはなく、順調に進められていくのであった。

 

 この一日の出来事によって、彼女の誤った決意はさらに強固なものとなってしまった。

 彼女の父である公爵は泣いてもいい。全力で泣いていい。


「――それで……なぜ、キミがお嬢様と一緒にいるのかな?俺の脳内では、さっきまでお嬢は別の野郎と一緒にいた気がしたんだけどねぇ……」


 クラウスから、ハハハ、といい加減に付け加えられたような浅い笑いが漏れる。

 振り向けば、冷気をこめた眼差しを向けられるのは間違いない。

 なので、マリアは振り向けない。

 振り向かない!!


 そんなマリアの思考をあっさりと振り払うように、ルカが振り向く。

 つまり、必然的におんぶされている私も強制的にそちら側を向くということで――。


「……みすみす、その大事なお嬢様とやらを攫われた奴に、俺が教えることは何一つない」


 (ひぇ、煽ったぁ~~!! 怖い状態のクラウスを、さらに煽ったぁ~~!!!)


 私は恐る恐る視線を這わせ、クラウスの方を――見てしまった。

 彼は作り笑いの顔から感情をごっそりと薙ぎ落し、見るものに寒気を抱かせる「無」の顔へと変形していた。

 瞼は瞬きすらしていない。じっと見つめる行く先は私ではないが底知れぬ恐怖を感じた。

 これを至近距離で浴びているルカは大丈夫なのでしょうか? 私には無理です。

 

 この終わりなき沈黙を破ったのはアルベルトの一言だった。


「クラウス」


 一言、呼びかけられた彼はハッと我に返り、何事もなかったかのように笑顔で話し始める。

 それは先ほどまでしていた顔とは全くの別物であった。


「――あぁ~、エリックやガルムはもうすぐで追いつくと思いますよ。ガルムには微塵も期待しておりませんけど、エリックならば確実にここまで辿り着くでしょうから、そこに関しても問題ありません。負傷なども気にする程のものではありませんから心配無用っす……」


 ……待ってください、クラウス。今の発言は流せませんわよ?

 つまるところ、傷はあると自白しておりませんか?? ちょっと、クラウスさん??

 

 クラウスは話していて、先刻の私との会話に思い至ったのか、彼は若干マリアから視線を外した。

 それは罪悪感からなのか、少なくとも彼があのときのことを覚えているのが分かる。

 

 私はそれを理解した瞬間。

 先ほどまで彼を怖がっていたのが嘘かのように、私の口からするすると言葉が零れていった。


「……傷があるの? その黒いのに隠れて? 新たにできた傷なの? それとも――その前から?」


 怒気が混ざった低く鋭い声は、まるで別の誰かに声を借りたみたいだった。

 私の怒り具合が伝わったのか、クラウスは焦ったように弁明の言葉を重ねる。


「えっ? ……あ、いえ、この黒いのはさっきの化け物を切ったときに浴びてしまいまして……避ければよかったのですが、あのときはさっさと殲滅しようと実行した結果でして……。あ、でもでも普段は避けてますからね!? 血が付着するのは俺も嫌ですし、避けられないわけではありませんから!! 本当ですから、ね!!!」


(うんうん。弁明するところは間違えているし、そんなことを聞きたいわけではないのよ、クラウス。傷は。傷の話は???)



 ――――どうやら、話すことは沢山ありそうですわね、クラウス??




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