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暗殺者の定義



「お嬢さん、そのまま静かにしていてくれよ」


 そう言いながらも、ルカはさらに私を己の近くへと寄せる。 

 手首を掴まれてぐいっと強い力で引っ張られた。

 私の身体は当然流されるままに、そのまま斜めによろけて彼の体にぶつかった。

 

 でも、彼の目線は変わることなく、無反応であった。

 それぐらい焦っているのかもしれないけど、ルカよ。一つだけ思い出して。

 私の声は出ないのよ、それをお忘れではありませんこと?

 

 声の不自由さに不満が募る中、ルカは小声でぼやきはじめた。


「身一つで拘束されていたから武器もねぇし、確実に逃げる一択だろ、こんなの。――だが、そうだな……。お嬢さん、ちょいと俺の提案を聞いてくれないか?」


(いいわよ!何かしら?)

 私は即座に首を縦に振った。

 そんな私の様子を見て、彼の目が一瞬だけ丸くなる。


「――ああ、そうだった。今は口が聞けないのか。すっかり忘れていたよ……まっ、聞き流す程度で構わないからさ」


 ルカはそんな軽い口調で言ったが、そのわりには念を押すように私に「聞いていてくれ」と告げる。

 とりあえず私は素直に頷いておいた。

 すると、ルカの顔色が心なしか明るくなり、表情も和らいだ。


 彼は私と影がある位置を交互に見ながら話し出す。

 まだその目の奥には警戒の色が見え隠れしていた。


「――あそこには少なくとも三人以上は彷徨いている。あくまで人影だけだが、あれが敵か味方かは分からん。ほかの可能性だってあるしな――まぁ、どちらかにとっては敵だということには変わりない、が……この場所じゃあ、どうせ俺達の姿はばっちり見られそうだな。遅かれ早かれ、俺達の気配にも気づかれるだろう」


 淡々と言い切った彼の目が私を捉える。


「――そうなるくらいだったら、俺らが先に仕掛けて、相手をおびき出せばいい。……おまえさんが気負うことはないぞ。仕掛ける、つっても簡単だからな。俺があんたを背負って逃げればいい、それだけさ。まっ、一人や二人くらいなら、誰なのかを視認できるはずだ……だから、今だけでいい。――俺と一緒に逃げてみねぇか?」


 そう真摯に伝える彼の言葉が、私の鼓動を速くする。

 ほんとに、なんでこの人、暗殺者をやっていたのかしら?

 殺されそうになった私が言うのもなんですけど、ちょっと優しすぎませんかね?

 これが正真正銘の屑だった場合は、私を見捨てて囮にしそうなもんよね。

 

 ルカは私が何の反応も見せないせいか、少々慌てながら言葉を紡ぐ。

 その様子はどこからどう見ても、融通の利かない子供を宥めているときの大人と一緒であった。



「お嬢さんにとっても利があるし、俺は幼子を見捨てるなんて目覚め悪りぃ選択肢をとらなくて済む。それに、あれがお嬢さんの味方であればその場で解放すればいい。もし違うなら門まで送り届けるよ。どうだ、悪くない提案だろう?」


(ほんとに、なんでこの人、暗殺者をやっているのかしら!!!)


 あまりに好待遇な条件すぎて、思わず叫びそうになった。

 しかし、私の声は依然として音にはならない。

 無念。無念すぎて泣けてきそうだわ。


 なぜか心配そうに見つめている彼の腕を掴んで、私は肯定を示す。

 それが伝わったのか、彼はどこかホッとしたような顔をして、背を向けた。


「さぁ、後ろに乗ってくれ」

 

 その移動方法が、お姫様抱っこではないことに安堵しつつ、私は彼の首に手を回し、その背に身を預ける。

 ルカは手際よく私を支えて、ぐいっと腰を浮かせた。

 そうすると、視界が高くなり、一段と近く彼の言葉が聞こえてくる。


「しっかり捕まっていてくれ。走っている間は喋るのもダメだ。……舌を噛むと痛いからな。」


 ……オカンか。

 思わずそうツッコミたくなったが、声もでないし、怒られそうだわ。……いや、拗ねるかも。

 そうしている間にも「じゃあ、いくぞ」と耳元から聞こえ、冷たい夜風が顔にあたる。

 

 ふと夜空を見て、あれからどのくらいの時間が経っているのかと考えた。

 当然、父との約束の時間はとっくのとうに過ぎている。

 そのことをマリアは思い出し、今度は違う意味で身体が震えた。

 

 その思考から避けるように私はルカの肩にうずめて、せめて風が顔に当たらないように凌ぐ。

 ジェットコースターほどではないが、ルカも速いわね。

 少なくともその身体で、人間一人を運んで走っている時点で十分すごい。

 

 そんな関係ないことばかり考えていると、ルカの嬉しさが混じった声が私の耳まで届く。

 

「お嬢さんッ、見えるか?どうやら釣れたようだぞ」


 そう言われて、私は後ろを振り向いた。

 ルカの言うとおり、ぽつぽつぽつと、三人見えて。


 ――まって、べつに私自身、視力がいいわけではないけど、いくら何でも黒すぎないかしら?


 徐々に近づいてくる、黒光りの集団はそれぞれ何か言っている。

 耳を澄ましてみると、


「――おい、待てッ!!逃げるなと言ってるだろうがッ!!!――くそっ。ホントに、いつまで逃げるんだよ……まぁ、どこへ向かおうが、力尽きて動けなくなるまで追いかけてやる……絶対に逃がさないからなぁ!!!」


「――お嬢様!今すぐその男から離れてください!!今ならまだ、その男の命を奪うだけで済みますから!!――抵抗すればするほど、手加減ができなくなるので、はやくっ、はやくとま――!!!」


「聞こえてるだろ?聞こえてるよな?なぁ、聞こえているだろ。聞こえていますよね――き……」



 私はそっと、振り返った首を元の位置に戻した。



 ――――えっ?なにあれ、怖すぎ。




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