ピュアな心
「わんもあ?」
私のなけなしの言葉に、二人は首をかしげて反復する。
それは、先程まで物騒な雰囲気を纏っていたとは思えないほど、ただただ不思議そうに私の方を見つめていた。
こんなにも、こんなにも可愛らしいのに、悲しきかな。
彼らは、私の息の根を止めようとしている連中であった。(現在進行形)
全くもって、笑えない。
まぁ、それに関しては放っておいても良いことですわ。(※全然よくない)
だって、今はそれどころではないのだから。(※それは……そうだね)
そうです、皆様もお聞きになられましたよね?
ご存知のとおり、ルカが私のことを『友達』と、そうおっしゃいました、よね?
「……よっしゃあ〜!!」
あら、嬉しすぎて思わず声が出てしまったわ。
二人とも私の声に驚いたのか、身体をびくりと震わせたあと、こちらを凝視し続けている。
そんな異様な目で見なくとも……いや、こればかりは私が悪いですわね。申し訳ない。
ですが、今の私はオリハルコン。
マリアの気分は、まさに期待していなかったはずの賭けでぼろ儲けをした、いわゆるカーニバル状態であった。
たとえ、そう言ってくれた本人が私のことを奇異な目で見つめて、一歩、二歩遠ざかっていたとしても。
私は少なからず、ルカがそう言ってくれたことが嬉しかった。
そう、嬉しかったのは事実なのだ。
ただ一つの謎を除いて。
――はて、私達はいつから友達になったのでしょう?
マリアの顔がスンとした真顔に変形した。
友達に理論なんてもの持ってくるな、と言われればそれまでだが。
一度気になってしまえば、これまた悲しいことに人の性。
どうしても探求心が追いかけてしまう。
マリアは考えた。
特段、頭が良いわけではない頭で考えた。
その結果、思考は無事に変なところへと着地をはたした。
……もしかして、これが巷の噂で聞く『男の子の友情』だったりする?
(――って、わたくしは男ではありませんわ!!! ……いけない、いけない。一瞬でも納得しかけた自分がいる。……思った以上より、疲れているのかもしれないわね。)
私は一度息をついて、耳から聞こえてくる情報に意識を固める。
「……むむむ。なんか、今回のお兄ちゃんは意志が固そうだね」
「……まぁ、そうだな。今回は譲れないことなんだ。だから、ごめんな? ノアム」
「…………それ、最初から謝るつもりないでしょ? ……あーあ、ほんとはノアムも欲しかったのになぁ。でも、そっか。お兄ちゃんの友達なのかぁ~」
そっか、そっか。と言っているノアムはどこか不貞腐れたかのように、でもそれでいて嬉しそうにしながら頷きを見せている。
しばらくの間はそうしていたが突拍子もなく
「……うん!それなら仕方がないね!!」
と告げ、ルカに向かって「はい、どうぞ! 」と言いながら私を放り投げた。
刹那。身体が宙に舞う感覚と、抱きかかえられた瞬間温かみのある温度が身体を伝ってやってきた。
私は荷物か!! と文句を言いたくなったが、またノアムのところに戻るのは流石に嫌なので、口に出すのは止める。
私を投げた張本人はというと、目がまわりそうなほど身体を回転させており、鼻歌のようなものを歌っている。……かなり荒ぶってらっしゃる。これだけ見れば、ホラーとなんの遜色もないことだろう。
観察していたら、それが唐突に止まって、ノアムの顔に三日月の空白が生まれた。
「じゃあ、また今度、会える日を楽しみしているね、お姉さん!」
そういうと、黒い人影は空へと飛んでいってしまった。
嵐のように帰っていくノアムの姿をしばらく呆然と見つめていたが、私はふととある違和感を口に出す。
「また今度?」
「……たぶん、アイツはまたお嬢さんに会いに来る気だぞ。……それにしても、わざわざ指令を無視してまで、お嬢さんを優先するなんて……あんたは、ずいぶんと変なやつばかり好かれそうだな」
呟いた言葉に思わぬ返答があり、私は弾かれたように顔を上げた。
眼前にあったのは、子供ながらに恐ろしく整った顔立ちで――。
「ぴゃっ!?」
「……おっと!? 危ないじゃないか、いきなり。どうしたんだ? なにかあったのか?」
「あっ……いえ、ごめんなさい。抱えられているのを忘れて、驚いてしまって」
正確には、綺麗な顔が目の前に突然現れたから吃驚したのだけれど、それを言うには少しばかり恥ずかしい……。
それでも私のたどたどしい弁明に、ルカは得心がいったのように頷いた。
そのまま地面に降ろしたほうがいいかと聞かれ、私は間髪入れず首を縦に振った。
久方ぶりに己の足で立ち、私は背伸びをして、凝り固まった身体をほぐしていく。
どうやら身体が動けるのは、ルカが魔法で解いてくれたお蔭らしい。
ありがとう、ルカ。感謝しても、し足りないくらいだわ。
改めて謝辞を口にしようとすると、それよりも先にルカの口が動いた。
「……すまんな」
それは唐突な謝罪だった。
思わず理由を尋ねると、彼の端正な顔を少しだけ歪めて話し出す。
「あの場を凌ぐ嘘とはいえ、あんたを『友達』と呼んだからだ……ノアムは完璧に騙されたようだが、俺のせいでさらに興味を引いてしまったようにも感じる……だから、悪かった」
誠心誠意。
そう、彼は誠心誠意、謝罪していた。
決して彼は悪くないのだ。
だが真面目に謝れば謝れるほど、言葉の切れ味が増して私を傷つけていく。
それが本当の話だと、嫌でも分かる。
私は、その場に崩れ落ちたくなった。
ルカよ、騙されたのはノアムだけではなかったのよ。
――悲報です。私はルカと友達ではなかった。




