デジャブ
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「…うぅ~………ぁ…」
気持ち悪さがまだ残っている中、私は朧気に目を開ける。
三度目の正直とはいうが…これは流石に気絶しすぎではないかしら?すごくデジャブを感じる。
カーテンの隙間からこぼれ落ちた透明な光たちは、まるで毛布から出たくない私を呼んでいるかのようだ。
この静けさの中に浸っていると、子鳥達の歌声も耳に届く。
「やっぱり、まだ気持ち悪いな…」
ゆっくり身体を起こすも、乗り物酔いをしたような感覚が未だに残り続けていた。
少し経つとだいぶ落ち着いてきたので、くるりと周りを見渡すと自身のいつも使っている部屋ではないことに気づく。
「あれ?ここ、どこだ。私の家のどこか、だよね?……待って、これ見覚えがあるような…」
部屋のドアを開けると、お父様が使われている複数の持ち物が数々見受けられた。
私が描いた絵も飾ってあったので、ここはお父様が使っている部屋で間違いないだろう。
「………ん?あまりにも自然に置いてあったから、すぐには気づかなかったけどこの絵、ここに飾ってあったの!?この絵、下手っぴだから私が恥ずかしくて絶対に飾らないで、とあれほどあれほど、言ったはずな、のに………うぅ~…」
一瞬、お父様への怒りが込み上げてきたが、すぐに恥ずかしくなり私の頬は徐々に熱くなった。
——これもすべてお父様のせいだわ。
「……それにしても私…毒殺、暗殺、前世の記憶…一晩だけなのにいろいろなことがありすぎだわ……殺そうとしてきたあの子だって、あの後どうなったのかしら…どこからどう見ても姿は子供サイズだったし、あの状況でお父様が放置することもありえないだろうし…」
彼女の眼は本が積まれているテーブルを見つめ、ごちゃごちゃとなった自分の考えを纏めようと、じっとしている。
(私の前世といっても、そこまで全部を思い出したわけではないが…)
まさか、私自身が前世のゲームで登場したマリア・グラツィアに転生するとは思ってもみなかったな…。
「転生するものも構わないし、別に平凡に過ごせたら私はそれで良いし…だけどさ、一つ言わせて?こういう令嬢転生ものは普通、恋愛ゲームが定番でしょーが!!」
そう私、佐藤明里が転生したのは恋愛ゲームではなく、RPG…『貴方の心の赴くままに~光の旅~』
略して、心旅だったのだ。
前世、死ぬ前にかなり流行っていて、少なくともつい時間を忘れてしまうほど私もやり込んでしまった代物だ。
だがしかし、前世の私は剣やら魔法やらレベル上げばっかりしていたせいで、ストーリーの方を全くと言っていいほどやっていない。
一応ストーリーもきちんとあった、存在はしていたのだ。
吐き出す息が、ため息の重さへと変わる。
「うぅ~…だって楽しかったから、ついつい手がレベル上げの方へと……それに、このゲーム自体の趣旨がそもそもそういうものだもん…ダカラ、ワタクシワルクナイ…」
彼女の唸りがあたりの空気を間断たなく皺立たせる。
ゲームをしているとき、誰もが自分の未来のためにプレイする人なんてそうそういないことだろう…。
【心旅】の内容としては確か…主人公はとある森の湖で目を覚ます。だが主人公には頭に穴がぽっかり空いていたかのように記憶がなかった。どうすればいいのか当方に暮れたところ、その一部始末を見ていた湖の妖精が主人公に旅をしたらいいのではと提案。そこから記憶喪失の主人公の旅が舞台の幕を開ける。
他に情報は……広告の途中で“ヴァレンシア王国”の学園に通うシーンもあったはず…。
マリアの若い頭脳は、機械のように正確に動作し、歪んでいた歯車がかっちりと嵌まった。
(…うん?…ヴァレンシア!?待って。それって今、住んでいる私の国の名前では!?)