ヘンテコな集団⑱
はやい、はやい、はやい――!
景色が恐ろしい勢いで後ろへと流れていく。
ガルムの動きがすばやいせいで周りの輪郭がチラチラとし、いくら目を凝らしても焦点が合わなかった。
マリアは力なく、それでいて乾いた笑みを浮かべてポツリと呟く。
「……やっぱりこれになるのね。野生児といい、この人といい――公爵家の騎士は、揃いも揃ってこんな感じなのかしら……」
私の声は、この疾走する風の音にかき消され、ガルムの耳元までは届いていないことだろう。
本日何度目かのため息をつき、もう一度頭の中を整理した。
現状、ガルムという騎士は味方である可能性が高い。
もし、彼が敵の場合、私はすでに 詰んでいる(ゲームオーバー)。
であれば、味方という前提で話を進めよう。
ついでにガルムに頼んだ内容を再確認する。
・クラウスの元まで、私を連れて行くこと。
・彼が窮地にあった場合、加勢して敵を無力化してほしいこと。
一つ目は必須。すでに私の体力は燃え尽きている。
二つ目は保険である。先ほど傷だらけになっていたクラウスの姿を思い出す。
うん、大丈夫なはずだ。不備はないはず。
会話の内容を今一度思い返していたが。
そういえば、何が彼のツボに入ったのだろうか。
少し疑問には思ったが、それを考えるのは後回しにすることにした。
後にでもできるからね。するかどうかは別として。
さて、クラウスの所まではそう遠く離れていない。このあたりなはずだから、もうすぐ到着する頃合いだろう。
そんなことを考えていると、風の冷たさが和らぎ、頭上から声が降ってきた。
「おぉ、マリアお嬢ちゃん、目的地に到着したようだぞ。クラウスがまだやり合っているようだが、一旦降りるかい?」
「ええ、勿論ですとも」
そう言ってマリアは、ガルムの腕からゆっくりと地面へ降ろしてもらった。
まるで赤子に触れるような優しさを見せているが、それは先程乗せてもらった時にこそ発揮してほしかったものだ。
その配慮の遅さを内心で嘆きながらも、「有難うございます」と短く礼を述べた。
「はははっ! お嬢ちゃんは羽のように軽かったからな! むしろ、風に乗って吹き飛ばしちまいそうだったぞ!」
ガルムは豪快に笑いながらそう言ってくれたが、私にはそれ以上に引っかかることがあった。
――うん。どこかで聞いたことがある言葉だ。
ガルムさん。もしかして、もしかしての話ですが。
その台詞って、どこぞのナンパ騎士が言っていたのを真似しておりませんか。
あくまで、もしかしての話ですよ。
ただ、この話が正しかった場合、後で彼にたっぷりとお伝えたいしたいことがありますので。
そう、内心で静かに微笑んだ。
そんな不穏な空気など微塵も感じていないのか、ガルムさんは戦況を見て感嘆の声を上げた。
「おぉ~~。どうやら、クラウスの方が優勢のようだ」
ガルムの声につられて、マリアも反射的に視線がクラウスの方へと向かう。
捉えた彼は、先ほどの回避に徹した動きが嘘のように、軽やかに、それでいて大振りな攻撃を繰り返していた。
――でも、何かがおかしい。
ガルムも私と同じように感じたのか、眉をひそめ、鋭い視線は変えぬまま抑えの効いた声で呟いた。
「……いつものクラウスにしては、感情的すぎるな」
ガルムは一度深く息を吐くと、何かを覚悟したようにマリアの方を向き直った。
「ふむ。お嬢ちゃん!!」
「……なんでしょうか」
ガルムの鋭い視線が、今度はマリアに向かって突き刺さる。
私は身を固くしながら、彼の言葉を待った。
「願いの一つ、変更の許可を願いたい。あいつの様子が奇妙だ。クラウスのやつには、一度手を引かせよう。敵は我輩が責任をもって取り押さえる。それでも構わないか?」
彼が提案してくれたことは、私にとっても望ましい内容であった。――否、それこそが最善策だ。
「ええ。もちろん!!」
それからはご存じの通り、クラウスと再会を果たすことができたのだ。
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「――ということがありましたの」
説明しきった私の心は、満足感でいっぱいになった。
私は『どうです!』と言わんばかりにクラウスの方を見たが――。
「…………いや、どういうことですか?」
彼は完全に理解が追いついていないといった様子で、呆然と私を見つめていた。
――私の拙い説明では、どうやら伝わらなかったようだ。
(ガルム、来てちょうだい……!!)
私は精一杯、心の中で助けを求めて彼の名を叫んだ。
だが、そんな私の祈りを遮るように、クラウスがふと思い出したかのように口を開く。
「ああ。それとお嬢様。俺はまだ、貴女が武器を触っていた経緯について、詳しくは伺っておりませんでしたよね?」
その瞬間、私の背筋に凍り付くような戦慄が走った。
「ガルム、来てちょうだい!! 今すぐに!!!」
咽喉が張り裂けんばかりの私の叫びは、辺り一面に鳴り響いた。




