ヘンテコな集団⑥
私でもイメージしやすそうな魔法は今の所、炎、雷、水、闇、光ぐらいかしらね…。
このなかで岩に破壊してくれそうものは、炎や水くらいかな?
だけど、ヒヒヒ爺さんは水魔法を唱えていなかったから必然的に消去法で炎魔法となる。
炎魔法ならイメージもしやすいから、ある意味完璧だ。
炎魔法を使うとすれば、岩を壊すのではなく溶かす方向に転換したほうがいいだろう。
岩が解ける温度は岩の種類によって異なるが、それ以前の問題がいくつか残されている。
まず岩を溶かすほどの高温魔法を私は唱えることができるのか?
今更、ものすごく今更だが、知識ゼロ、想像力100パーセントの私がどこまでやれるのか…。
寧ろ、どのくらい試すことができる?私の限界値はどこまで?
あれこれと試したい欲を必死に抑えて、何とか思考だけは正常に保たせようと努力する。
そうこうしているうちに興奮で胸辺りが早く脈拍をうち、私の体温もだんだん上昇していく。
私自身が荒波に揺らされているかの如く、感情が激しく揺れ、口角も自然と上がっていく。
そんな暴れ狂った己に対して一言こう思う。
——まぁ、出来ない可能性のほうが高いけどね……
急速に頭が冷えていく感覚に襲われた。
ナイス、ファインプレーだ私。
冷静を保つことが必要だったとはいえ、背筋に氷をあてられたかのように一時感覚が凍り付いた。
自身のコントロールに成功した彼女は、息をついて、意識を体の方へと集中させる。
全身の冷えた血が再び稼働し始めたのを身体で感じながら、炎魔法を放つために岩の方に手を向け、大きなエネルギーを放つための準備を整える。
深呼吸を一つ。
ヒヒヒ爺さんの魔法の倍…いや、それ以上熱く、もっと溶かすことができる魔法は…マグマ!
「まぎゅま!!!」
……………………やべっ、大事な場面で思いっきり噛んでしまったわ。
私もしかして、緊張すると舌を噛む癖でもあるのかしら?
少し意識しながら声を出すことを、人知れず心に決めるマリア。
周りには誰もいなかったので聞いた者はいないはずだ。…もし、居るならばちょっと個人的にお話したいのだけれど…居るはずないわよね?
なんにせよ、舌が若干ひりついて痛いし、ただでさえ正規な呪文を唱えていないのにこれじゃあ魔法が発動できないわよ……。
舌が痛いけれど、喋れない程ではない。
少し時間が経てば、すぐに治りそうなくらいのものだ。
だけど、今回ばかりは時間が惜しい。
仕方がない、もう一度、試そう。ダメだったら魔法は諦めよう。うん、そうしよう。
彼女は顔を赤くしながら、ゆっくりはっきりと唱えるために口を大きく開け息を吸い込む。
すると、突然、岩の方へ向けていた手から、赤い焔がまるで生きているかのように揺らめく。
やがて、それらは球体と言えるサイズまで大きくなり、ある程度の大きさで止まるのかと思いきや、マリアの予想を裏切り、全然止まる様子がなく、それどころかみるみると大きく、大きく膨らんでいく。
——あれ、これ不味いよね?でも止まんない…止め方が分からないよ…どうしよ……待って。それよりも、なんで発動しているの?私まだ呪文らしきもの唱えてない、わよね?……あれ?
あれよあれよと考えている間に、さらにさらに膨らんでいく熱き球体。
このままでは不味いと彼女は考え、そして
「うぅ~、もうっ、もうっ!自棄糞ですわ!!!えいっつ!!!!!」
ぶっぱなすことにした。
幸い、マリアの意思を聞き入れてくれたかのように炎の塊は手から徐々に離れていき、呑むこんでしまうくらいの大きさの炎は岩を包み込んだ。
さて、ここで一つ。目的を思い出そう。
まず魔法を発動させること。これは絶対条件。
尚且つ、岩を溶かすくらいの威力であること。これも絶対条件だった。
これらの条件を達成できたのは十分素晴らしい功績なのだ。
だがしかし、マリアは別の意味で汗が流れ落ちそうであった。
「………………………あんなに激しく燃えているけど…クラウスの剣は大丈夫、よね?」
その問に答えられる人は、誰一人いなかった。




