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帰り道②



クラウスに抱えられていた彼女はとても暇になってしまったので、面白半分に“囚人が一人、囚人が二人、囚人が三人……”と数えていたら、いつの間にかまた寝てしまっていた。

彼女曰く、疲れがあったからついつい寝てしまっていた、らしい。



あのあとマリア達一行は、迷路のように入り組んだ場所から脱却することができた。


変な軋みが聞こえながらもガタンと入口の扉をきちんと閉じる。


壊れていないかこちらがハラハラするほど、それは少々荒っぽくなっていた。

アルベルトもクラウスも扉の音が聞こえると同時に、号令がなった兵士のようにピタッと立ち止まる。


何かあったのか、と突如不安になってきた私は彼らの顔を下から覗いた。


――少なくとも周りに異変はないようだけど…私が見落としているだけかもしれない。


彼らの邪魔をしていいものかと悩んでいると…。


突然身体が大きく上下し、ドクドクとした振動を感じた。

すぐにそれが、クラウスの呼吸によるものだということが気づく。


なんとなく私もそれを真似して息をした。

夜の空気なんてそこまで珍しくもないはずなのに、何だか今夜は特別に感じる。

私の中に膨らんだ肺は、たっぷり吸い込むごとに詰まっていく気がした。


足を一歩、一歩駆け出すと、ぱっと光の道筋ができた。

ついつい足で駆け出したくなる、この仕様は魔道具によるものだ。



それはまるで月光のように道を青く明るく照らしていた。


思わず私は足を止めて、息を呑み、見つめてしまう。


暗い夜道をまた一つ、一つと灯していく火種かのように輝いていく様は私を圧巻させた。




"さぁ〜て、そろそろ行きますか"と、そんな声が聞こえてくるまで彼女の意識は戻って来なかった。

慌てて返事を返して、彼らのもとへと戻る。


"ゆっくりでいい"、"転ばないように気を付けて"と心から心配して言ってくれる騎士達。

本当に、この方達は優しい。

この優しさに触れるたびに、私の心が温かくなる。


ニコニコとした表情で彼女が近寄ると、クラウスの両手がそ~っとマリアのほうへと近づく。


"ああ、()()ですね?"


もはや、諦めと慣れである。

彼女は服の端々をヒラヒラはためかせながら、しっかりクラウスへと掴まる。


はい…分かってはいますよ?私の足では確実に遅いですものね…ウン…"、そう彼女は悟っていた。


――だけど、恥ずかしいことには、変わりないんですよ!!

あ゛あ゛〜この速さにもいまだに慣れていないわよ…。

いっそ、叫びたいよ〜。

もうちょっとだけ、ほんの少しだけでも遅くできないだろうか。

そうすれば、私の心にも余裕が生まれてくるのに…。


まるで強制ジェットコースターに連れてこられたみたいな気分なのだ…。

私、どちらかといえばジェットコースターは好きではないのよ……。

あの浮く感覚…考えるだけでも怖い。


走っている最中(走っているのはクラウスである)、アルベルトの低い声が響き渡る。


「クラウス」


「はーい。なんですk…」


「ここで曲がるぞ」


(ふぁ?)


「え?…このままいけば、公爵との時間も余裕で間に合いm………あれ?確かに、こりゃあ道を変えたほうがいいかも…」


「…ぇ……何か、あったの?」


「…この付近で、いざこざが起きている模様、です」


「うーん。そうですね。ここは迂回しましょうか。お嬢を危険なことに巻き込みたくありません」


「同意だな。安全なルートを模索するぞ」


彼らの中ではどうやら決定事項らしい。

私の頭上で彼らの意見が飛び交う。


その提示したどれもが安全なルートで私のことも考慮してくれているのは十分に伝わってきた…。

彼らにとってはただの仕事かもしれないが、それでも嬉しいことには変わりない。


だが、そんな彼らへの気持ちも理解したうえで私は問いかける。


「……“いざこざ”って、誰と誰がなのかしら?」


「……騎士と騎士だ」


騎士と騎士が争う?何故、そんなことに…。

事情を詳しく知らないマリアは、もうちょっと踏み込んだ質問をする。


「……え?騎士同士が?こんな人気のないところで?」


「正確には、黒騎士と白騎士っすね。毎度毎度、意見が合わなくて衝突して喧嘩沙汰でして……でも、確かにこんな場所でこの時間帯の喧嘩は珍しいですね。いつもはもっと…」


「クラウス…急ぐぞ。スピードを上げろ」


「えっ。あ、はい。お嬢、しっかり捕まっていてくださいね」


「ええ。分かりましたわ。…アルベルト、先ほど言っていた騎士達に何か変化でもあったの?流血沙汰とか…」


「…どうやら、相手が激昂して得物を抜いたようです。黒は二人、白は五人…」


それはどう考えても、こちら側が不利だ。

何をそんなに怒ることがあったのかも気にはなるが…。


「うわぁ~。マジっすか。洒落にもならないですよ、ソレ…俺らの方に疑いがかからないように注意して対応するのもいつも楽じゃない…しかも、もう一人の黒騎士は新人騎士ですよね?こっちはそう簡単にやられてあげられるほどやわじゃないとはいえ、無傷ではいられないっすよ…」


せめてその騎士達が無事であってくれ、と祈るばかりだ。

何かできることでもあればいいが、お荷物でしかならない私が悔しい。


「ああ、その通りだ。クラウス、お前はお嬢様と先に行け」


「はい!了解です」


彼らの会話を聞きながら、周りを一旦見渡す。


すると、照らされた魔道具の近くに私達以外の人影らしきものがマリアの目に映り込む。


騎士さん達はまだ気がついていないようだ。

動き出しそうなクラウスの服を少し引っ張って、人影の方へ指をさす。


「あっ!!待って、二人とも…あそこを見て!!!」


「……!?」


「あれは…」



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