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不運な誕生日会

$$$


「…うっ…あたま、いたい…」


「お嬢様!?意識がお戻りに!?お待ちください!今、お医者様を急いで呼んでまいります!旦那様、お嬢様が目を覚ましました!!!」


「…………………………………え?」


ピリッとした頭の痛みによって目を覚まし、それで起き上がった私を二度見して、メイドさんは慌てて何かを喋った後、あっという間にドタバタと扉の方へと姿を消していった。

彼女はその一連の光景をただぼんやりと眺めることしかできなかった。

それでも必死に脳を回転させようと、既にキャパオーバーな頭を動かす。


(なに?理解が追いつかない…どうして私はベットの上に?うーん、何故か起きたと思ったら頭が異常に痛いし、メイドさんも何処かに行ってしまったし…)


マリアは部屋中にいきわたる様、大きく胸で深呼吸を鼓動と共に響き渡らせる。


待って…一旦、落ち着こうか…状況を整理してみよう。



$$$



時は少し遡る…。


マリアの誕生日、一週間前。

彼女の父、グラツィア公爵は早朝から誰が見ても上機嫌であった。

グラツィア公爵とすれ違うたび鼻歌が聞こえてきて、公爵邸にいる人たちも公爵の機嫌が良い理由を少なからず察していた。


公爵の機嫌が良い理由はたった一つ、彼が溺愛している娘の誕生日間近であるからだ。

態々誕生日のニ週間前から休暇を取り、その期間にあるはずの仕事を先にすべて終わらせていた。

最後は、パーティの手筈を整えるだけだった。


出来事があったその日、グラツィア公爵は親族宛に招待状を書いている真っ最中であった。


急遽、我らの国王からのお誘いが使者を通して家にやってきた。

ながーい内容をざっくり説明すると、”マリアの誕生日、王宮でパーティを開くから挨拶に来てほしい。ブライアンこれ一応国王命令だから無視するなよ?”という言伝であった。

国王からのお誘いがきた時点で、マリアは断る選択肢を考えていなかった。

だがそれだと家族水入らずで過ごすにはどうあがいても日程が重なってしまうため、家での開催日は変更せざる得なかった。


「グラツィア宰相殿!国王様からの手紙をこれですべてでございます。必ずマリア嬢と来られたし、との伝言つきであります。なので…………ヒエッ」


その時のお父様、使者からの話をずっと無言で聞いていた…。

そしていつもの完璧なポーカーフェイスなぞ、あたかも存在していなかったかのように何処かへと消えて、代わりに彼が張り付けていたのは般若の面であった。

せっかく、ここまで来てくれた国王様の使者もお父様のこわーい顔を見て完全に怯えてきってしまっている。


まさかお父様…陛下相手にそんな怖い顔をいつもしているわけではない、よね?

そんなことはしていないと信じたいが、もしも国王相手にこれくらいの無礼を働いたとしても父様ならば大丈夫であろう。

何故なら、グラツィア公爵と国王陛下は幼馴染で古くからの付き合いだからだ。

そのせいなのか、お互いに遠慮がない。



そういえばつい最近も、父様にこんなことをにこやかに告げられた。

”今後の友達づくりのときはこれを参考にするといいよ、例えば、”突然無茶ぶりをしてこない奴とか、ずる賢くない奴とか、自己中心的な奴……”などなど。


きりがない言葉の数々はほとんど国王のことを指し示す言葉達で、私達の周りにいた執事さんや騎士さん達はだんだんと顔色が悪くなっていた。

この姿の公爵に慣れている方たちは苦笑していたが、その時の私は引き攣っている顔をしていたであろう。

ちなみに、その日も陛下の巻き添えにさせられて皺寄せの対処を終わらせてきた日だったらしい。

お母様に愚痴をこぼしていたところもかなりの頻度で見かけていた。


私から見ればそんな関係性も少し羨ましいと思う。

私にもいつか出来たら良いな、友達とか親友とか。

もしかすると公爵令嬢なら、友達百人ソングが余裕で歌えるようになるのかしら?

夢の希望をふくらませるマリア。


そんなことを娘が考えているとは思いもしないグラツィア公爵はどんどん不穏な言葉になっていく。

彼は大きく顔を顰めた。

角度を変えて覗くと、別の人間の顔のように変形しているように見える。

それほどまでに、顔中の筋肉が極限近くまで引き伸ばされていた。

お父様に毎度こんな顔をさせるのは陛下だけかもしれない。


『は?…ふざけるなよ…折角、マリアと一緒に過ごせる時間だぞ!それに、そんなところへ行けば間違いなくマリアに変な虫がつく…それを……それを…………はぁ…断ったらアイツ、駄々をこねて誤魔化すつもりか。いい加減子供でもあるまいし、この無茶ぶり命令をする癖を毎回やめろと言っているのに…アイツ、態とこんなギリギリになって予定を教えただろ…絶対に……だから私が王宮から家に帰還するとき、二ヤニヤと気持ち悪い顔をさらしていたのか。なーにが、”グラツィアの奥方とマリア嬢によろしくね”だと!!ちっ。面倒くさいことをっ…てっきりアイツは自身の息子たちと……』


と、このようにズラーリとぶつぶつ呟いていて顔を歪ませていた。

肺やら胃が思わず悪くなりそうなほどの悪態をつく公爵。

これ以上は眉間に皺が増えてしまうわよ?お父様…。


この他にも何か言っていたような気もするがこれ以上は思い出せn………。




――いや、一つだけ印象に残る会話があった…。



「…我らが天使マリアよ。マリアはどうしたい?アイツのパーティに行きたくないなら私が即断ることもできるよ?」


「えっ!?宰相殿!?お待ちください、それでは!」


「周りの声なぞ、無視してかまわないよマリア。元はアイツが無茶ぶりしてくるのが悪い。嬉しい楽しい天使の誕生日会だったはずなのに、無理やり自身の欲望のために横やりを入れようとした何処かの誰かさんのせいで間に合いませんでした、とそこの使者が言えばいい」


「さ、宰相殿ぉ!?」


使者さんへの対応と私への対応のさが寒暖差を感じさせるレベルで酷かった。

私には温かみのある笑顔と言葉でさえ溶けそうなくらい柔らかな眼差し。

使者には突き放した表情で無視しながら、時折冷たい焔がちらりとちらつかせる。


公爵の本気度が伝わっているのか、使者は顔を両手で覆って神に縋るような目線で私を見ていた。


「だから、大丈夫だよ?マリアの誕生日会なのだから行くもいかないも好きにするといい」


「……いえ、大丈夫です、ご心配ありがとうございます、お父様。そのパーティ、出席させていただきますわ。国王様にもどうかよろしくお伝えくださいませ」


「…本当に大丈夫かい?」


「ええ。この前にお話したとおり、私も少し頑張りますわ」


「…うん、分かったよ。マリアが決めたことなら反対しない…でも、本当に嫌であれば私が何とかするからね……何も心配しなくてもいいよ……………………ふぅ、わざわざマリアが居る時に伝令兵をよこしてくるなんて…」




——あいつ、後で覚えておけよ…。




伝令兵は私が出席するということを知ればあからさまに、ほっとしたような顔になった。

だが、お父様の最後にポツリと呟いた言葉を聞いて、先程の慌てていた状態へ逆戻りとなった。

顔色がコロコロ変わって一周回って面白いタイプの人間だ。


それに比べてここは雪山なのかしれないと、すぐ傍にいる公爵の背負ったオーラから感じ取る。

…私は、満面の笑みで言い切ったお父様なんて見ていなかったことにした。

だから、この会話も…キノセイダ…うん、ナニモ、オボエテナイヨ?


…案外、一番振り回されているのはお父様方のお付きさん達なのかもしれない…。

いつもお疲れ様です。今度、差し入れでも持っていこうかしら。


幼馴染で宰相って…とても良き関係のようだ…色んな意味でね。

マリア、改めて覚えたよ。

お父様は怒らせちゃダメ!絶対に、ってことを。


その後、近いうちにもう一度認識を改めなくてはいけないことを、このときの彼女はまだ知らない。



…話しが大幅にズレたね…


そんなこんなで、私は王城へ父様と母様と行くことになったのだ。

お母様は私が行くことになった経緯を知っているのか、曖昧に笑いながらも”楽しんでおいで”と言ってくれる。

一方父様は、馬車の中で国王様の名前を聞くたびに仮面をかぶった顔のままで笑っていた。




——今は遊々と過ごしているといいさ。マリアの誕生日だからね。今日は何もしない。精々、明日を楽しみに待っていろよ?ハインツ


まの悪い私は、笑ったままのお父様が口から何か言っていたのを見てしまった。


…私はスゥーと両目は閉じた。

始めからそうしておくのが胃にやさしいかったルートであろう。

もうその願いは聞き届けられないことがとても、とても残念だ。



………ああ、そうだ、パーティ……思い出した。


その後、マリアと母様は予定通り王城に登城した。

父様は緊急の用事が増えて後から合流することになった。


ダンスやら挨拶やら、やるべきことを私はサッサと終わらせて、人がいないバルコニーの方へ移動しようと思ったんだ…。

けれど、思った以上よりも人に話しかけられ結局バルコニーまでたどり着けなかった。

そのうち私は少しお腹が空いてしまい、ちょっとだけでも何かお腹に入れようとチョコレートケーキを口にした…。


そうしたら、立ち眩みが起きて、自力で何故か立つことができなくなってしまって、そのまま…私は倒れてしまった、のだろう。


倒れる最中、お母様の私の呼ぶ声が聞こえた気がした。

王様も一瞬にして顔色が青くなり、他の人達もかなり騒めいていた気がする。

そこから先、意識が混濁していたため何が起こっていたのかは分からない。


少なくともそうして考えると、先ほどのメイドさんの慌てようにも納得がいった。

私が食べたチョコレートケーキに即効性の毒でも盛られていたのであろう。

…心配、かけただろうな…




そんなことを思いふけっていると、ガシャンッと何かが割れた音がした。

割れた音が近い。

私のすぐそばに何かがいる。


彼女は驚いて音がした方へ顔を向けると…



一人、誰かがそこにいた。



「………」


「……………………………えっ…あなたは、誰?」


「………」



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