表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生した令嬢はゲームの内容を知らない!!~平凡に過ごせればそれで良し~  作者: 銀花うさぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/32

過去の自分



まさか、自身より年下の女の子に言われる日がくることになるとは想像してもみなかった。


彼女と話すたび色がかわるがわる変化して、それに伴うように自身の中の感情の色がますます激しくなる。


そうこうしているうちに俺の中で何かが弾けたのが分かった。


ダムが決壊するように記憶の洪水が頭のなかを駆け巡る。

流れてくるその中に細く小さく、最も一番嫌いで馴染み深い声が聞こえてきた。



“やめてくれ”


“たすけて”


幼い頃の俺の声。

声をだせないくせにずっと無駄に叫び続けた。

とても弱く脆かった、あの頃。


あのときの俺は、何もすることができなかった。

みんなが殺された、あいつらに。

いくら、自身が動けない状態だったとしても結局は動くことができなかった。

あのときに唯一できたのは、眺めることだけ。


村が燃えるさなか、お母さんが何か言っていた。

それがお母さんに会えた日の最後の瞬間だった。

とても暖かい言葉をくれた。

それなのに思い出せない。

なんで…一番大切だった、はずなのに。

大切だからこそ、忘れたくないよ。



“それ以上見たくない”


“なんで、おれだけ、のこったの"


"おとうさん、おかあさん、たすけて"


村の殆どがあいつらに壊された。

居場所も家族も仲間も。

俺一人が残ってしまった。


壊れた映像はとどまることを知らない。


“こっちに、こないで"



“まだ、しにたくない”


”やめろ”と自身は叫んでいるのに。

忘れていた方が痛くないのに。

思い出した方が辛いのに。



“もうお願いだから、俺の事なんてほっといてくれ”


“いやだ。ここにいて。おれを、おいていかないで”



過去の自分と今の自分が重なり合う。



悪寒のような小刻みな身震いが絶えず足の方から頭へと波動のように伝わった。

俺は動かない足と足に意味もなく力をこめ、両手の指先をぎゅっと握りしめる。

寒いためにそうなるのか、何故そうなるのかも分からなくなってしまった。



——いや違う…


本当は俺の脳が身体が感情が受け付けたくないだけ。

俺はこれを昔からよく知っている。

なぜなら、これは



「あなた、もしかして怖いの?」



——恐怖だ




$$$



私の言葉にふいっとラムネの玉が咽喉につかえたように彼は黙ってしまう。


彼女は突如黙り込んだ彼に違和感を覚え、座り込んで下から顔色を窺うと、もともとの白い肌はさらに拍車がかかって、まるで病人かのように真っ青だ。

目はあちらこちらに向いて、全く焦点が合わない。

彼の背中を触ると、氷の板のように冷たく強張っていた。


明らかに体調が悪いだけではない彼の様子に、マリアはできるだけ優しく声をかけるが…

「はあ、はぁ、はあ」

と、まるで陸の上で生きることができない魚のように繰り返し繰り返し息を吸っていた。

私の声はどうやら届いていないようだ。


すぐに牢の外にいるクラウスに伝えようとマリアは立ち上がった。



すると…ぷつぷつと途切れた小さい声が彼女を呼び止める。


「いやだ…ここにいて。おれ…を、おいていかないで」


親からはぐれた幼子のような震わした声に足を止めて、思わず傍へ駆けよる。

死後硬直のように張り付いている彼の手を無理にはがして、貝のように固く閉じられたその手を包み込むように握りしめた。


「大丈夫。大丈夫だよ。私はここいるから」


「…………っ」


彼が落ち着くまでしばらく手を握り続けた。

彼の恐怖心を分けてもらって、少しでも負担が減るように祈りながら。




タイミングを見計らって、もう一度彼に声をかける。


「ねぇ…もしよければ、あなたの名前を教えてくださらない?私はマリアって言うの」


「……おれのっ……な、まえ?…そ、んなものない…あんたの、すきなよう、によべ」


「……意識が戻って!…好きなようにか…うん、分かった。じゃあ~…」


「…………」


マリアの声掛けにより彼は少しずつ意識を取り戻したのか、顔色が悪いながらも途切れ途切れに言葉をつむぐ。


彼が話してくれそうな話題を探していたら、ふと彼の名を尋ねていないことを思い出し、話しかけた。

返ってきた返答には安堵したが、彼自身が話すのではなく彼女自身が話すことになってしまった。

なおかつ、名前まで決めることに。

仮の名前とはいえ、そうそう簡単には思い浮かばない。


一先ず意識が戻って安心したわ…顔色が悪いことには変わりないからまだ心配だけど…。

彼のなまえ、名前か…私にセンスなんて一欠けらもないのだが…いくら、仮の名前とは言いつつも本当に彼はそれでもいいのだろうか?


名前を考えながら、私は冷たくなっている彼の手をぎゅっと握りしめた。

知恵を振り絞りだせ、マリア(わたくし)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ