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頑固な二人

$$$



そこにある緊張の響きは十分に感じ取れた。


辺り全体がまるでドライアイスに包まれたようだ。

少しでも息を吸えば、忽ち私の肺は凍りついてしまう。

そんなことを思わず錯覚しそうになるほど。



「………ああ、それとも…俺に刑罰でも言い渡しに来たのか?そいつはご苦労さんなことで…」



冷え切った空気は変わらないまま、彼の視線からはマリアを黙らせるだけの圧迫感があった。



「……いいえ、違うわよ。初めから聞いていたなら知っているかもしれないけど、私は本当に貴方と話をしに来ただけよ…」



——切実に、辛抱づよく



「…はなしに、ねぇ」


「……ええ、そうよ」



——心を通わせ



「………俺はあんたと話すことも知りたそうな情報ももってねぇよ」


「……」



——根気よく話しかければ



「…大体のことは、あんたのお父様とやらが教えてくれるだろうさ。なんなら、外で待っている優秀な騎士さんが知っているかもしれないぞ…」



——きっと



「ほら、こんな偏屈なところで探偵ごっこなんかやっていないで、子供は安全なところにさっさと帰りな」



——彼に言われた直後、自分の中にあった真っ赤に染められている最後の糸のきれる音がした。



「……だ・か・ら、話に来たって言ったでしょーが!!!もう、何回言わせるの!!このっ、この石頭!!!」


渦巻く煙のように自らの咽喉から漏れ出てくる憤りの声。

それに対し彼は、かっと見開いた眼の中に驚きの色を浮かべていた。


「…………………は?」


「カッチカチの石頭!!頑固!!親切!!分からず屋―!!!」


「いや、石頭は二回言っている…それに、一つ明らかに違うのが雑じっているぞ」


「わたし間違ってないもん!」


「………何言っているんだ…俺が親切なわけがないだろーが。よく考えなおせ?仮にも殺そうとしてきた相手だぞ…」


「考え直した結果だもん!その殺そうとしてきた相手が、私に危ないからさっさと帰れって警告してきた時点で手練れの暗殺者にしてはかなり親切だと、わたし思うけど?」


「ふん、そんなの優しいふりしてあんたに近づいて殺そうとしているだけかもしれないだろ」


「それも私に言うだけで、そんなこと貴方はするつもりもないでしょ」


「さぁ、どうだか」


とうとう堪忍袋の緒が切れた彼女の怒涛の言葉が部屋へと響き渡る。

何とかマリアを説得しようとしている彼の言い分は全て言い訳にしか聞こえない。

私の都合のいい耳はそのようにしか捉えられなくなってしまった。


頑張って反論したが結局のところ、はぐらかされてしまう。

自分の口がもう少し達者であればと思う今日この頃。


それでも最後の方は、はぐらかして言い返してはこない…つまるところ間違いではないことを意味する。

それだけでも一歩前進。

少なくとも会話できている状況だけでも、私はまだマシな方だ。

子供だからと思われて会話してくれない可能性だってあったことだろう。

その時はプライドなんて捨てて、本気で駄々こねを実行しようと決意していたことは内緒だ。



会話してみて気づいたが、彼は本音が言えないのではなく、言うことすらもできなかった環境なのかもしれない。

彼が言ったこと全て曖昧にぼかされている。

それでも例え、彼の捻くれた回答が返ってきたとしても私に言ってくれる言葉には彼なりの優しさが含まれていた。

彼は私を脅して早く帰らせようとしてくれたようだけど…生憎、中身は子供ではない。

なんだか、詐欺まがいなことしている気がして、彼女は罪悪感を覚える。

でもこれだけは、彼に伝えないと…


「やっぱり、あなた優しいわね」


「……あんた、話ちゃんと聞いていたか!?」


「ええ、勿論。貴方が親切だってことは勘違いなんかではなかったってコトでしょ」


「…………」


「……………………」



ひりついていた皮膚は、だんだん空気と調和がとれてきたように消えていく。



「………はぁ、あんたも大概、頑固だろ…あと、変わり者」


「あら?あなたがそれで認めてくれるのだとしたら喜んで私は受け入れるわ」


「おいおい、勘弁してくれよ!?」


「……ふふ」


「くっ、ははは…」


先ほどとは打って変わって、なんだか心臓がくすぐられたみたいに楽しくなってきてしまった。

笑うことを止められない。

彼も同じ気持ちだったのか、部屋の中が笑いへと変化する。


「はぁー、笑った…お腹いたい」


「ああ、そうだな……こんな…こんな笑うことになるなんて」


笑いが収まるころには、夜が明けたように晴れやかな気分になった。


私も大笑いしたから、普段使わない筋肉が悲鳴を上げている。

明日は、身体の節々が筋肉痛で動くことすらままならないことが決定づけた瞬間でもあった。

でも後悔はなかった。



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