エピローグ後編~それぞれの家路~
ダークは溜め息を吐いて、メリッサを引っ張り起こした。
「ローズ・マリオネットから降りる事になった。当分の間てめぇを殺すのはナシだ」
「あなたが戦わずにすむなら、それが良いと思います」
メリッサが微笑み掛けると、ダークは舌打ちをした。
「戦況が傾けば、また戦うけどな」
「そうですね……仲間が命の危険に晒されれば、あなたは戦ってしまいますね。戦わずにすむ時代が来るのを祈るばかりです」
メリッサがゆっくりと立ち上がると、ブレイブは深々と頷いた。
「世界も人の心も癒したいね」
「お互いに交流できるのが理想ですね」
メリッサは遠い空を見つめた。
「いつか本物の蛍を見に行きたいです」
「見に行けばいいよ。リベリオン帝国の中央部にいるだろ? よろしく頼むよ」
ブレイブはダークの右肩をポンッと叩いた。
ダークは両目を見開いた。
「メリッサを中央部まで連れていけという事か?」
「ブレイブ様、いくらなんでも話が飛びすぎています! もっと段階を踏みませんと!」
メリッサは耳まで赤くなった。
アリアも首をブンブンと横に振る。
「メリッサの身が危ないです。サンライト王国の復興のために人員が必要ですし」
「メリッサならダークが守ってくれるだろう。サンライト王国復興のために、闇の眷属にも手伝ってもらおう。エリック、いいだろ?」
ダークは両目を白黒させた。
ルドルフは苦笑した。
「まあ、頑張れよ。応援する」
「いろいろツッコミたいのですが、疲れているのでまた今度にします」
ダークは、妙に上機嫌なローズベルや、露骨に嫉妬の炎を燃やすグレゴリーを尻目に溜め息を吐いた。
エリックは曖昧に頷いた。
「俺と仲間たちならサンライト王国復興に協力する。あまり人数を期待しないでほしい」
「いいよ、少しずつ復興できればいいから」
ブレイブは満面の笑みを浮かべた。
「帰ろう。それぞれの家路へ」
一時期のサンライト王国は悲惨な有様だった。
サンライト王国は瓦礫の山となっていた。王城は無残に中身が晒されていた。戦争の跡が色濃く残っていた。
しかし、ブレイブが帰ってみると、驚くほどに立派な王城が戻っていた。
国民とブレイブに助けられた人々が、力を合わせて復興させているのだ。
王城は朝日に照らされて、凛々しく輝いていた。
「すごい……」
ブレイブの両目が輝いた。様々な死闘を演じた事を思い出していた。分かり合えた人間がいた事も思い出していた。
「僕はよく生きていたね」
「本当にそう思います」
アリアが深い溜め息を吐いた。
かつてブレイブの首を切ろうとしたエリックは、自分の仲間たちにサンライト復興を手伝うように言っていた。かつてブレイブを猛毒で蝕んだシルバーは、今は東部地方で闇の眷属以外の人間たちと共存する方法を模索している。グレイとナイトも、北西部の平定に忙しい。
メリッサが行った中央部は、比較的安定しているだろう。
ブレイブは両の拳を振り上げた。
「さあ、これからもっと頑張ろう!」
「何を頑張るのですか? もう充分に頑張っていると思うのですが」
「サンライト王国が復興したら、もっともっと世界を知るために旅をするんだ!」
ブレイブの笑顔は輝いていた。
アリアは両目を丸くした。
「サンライト王国の事はどうなるのですか?」
「国民が守ってくれるだろう!」
ブレイブの輝く笑顔の前に、アリアは何も言わずに笑うしかなかった。




