一つの決闘の終わり。しかし……
「インビンシブル・スチール、クルーエルティ・フォレスト」
エリックは鋼鉄のワールド・スピリットを放つと同時に、ダーク目掛けて走り出す。ナイフを握る両手に力を込めて、一気に距離を詰める。
轟音がして、地面に亀裂が入る。亀裂は見る間に広がり、地面から勢いよく木の根状の刃が伸びる。刃は、いっせいにダークに襲い掛かる。
ダークは薄ら笑いを浮かべる。
「コズミック・ディール、リバース・グラビティ」
数々の刃を反重力で弾き返す。
エリックの手札は読めていた。鋼鉄を巧みに操ってダークを惑わし、狙いすましたナイフで刺すつもりなのだろう。
「遠距離戦になれば、俺が有利だからな。突っ込んでくるしかねぇだろ」
ダークは反重力を維持しながら、エリックの気配を探る。
木の根状の刃が枝葉を伸ばすように、一瞬にして辺りを覆いつくす。
鋼鉄の森ができあがった。エリックはうまく身を隠している。鋼鉄はエリックを倒さない限り永遠に広がるが、下手に動くと鋼鉄の刃に切り刻まれるだろう。
ダークはせせら笑う。
「俺から動く必要はないしな。コズミック・ディール、ゼロ・オキシジェン」
周囲の酸素を奪うワールド・スピリットだ。酸素を奪われた人間は倒れる。エリックがどこにいても関係ない。
審判であるグレイとナイトも倒れる可能性はあるが、あとで助ければいいだろう。
案の定、鋼鉄の森が急速にしなっていく。術者の意識が遠くなっているのだろう。鋼鉄の森が崩れるのは時間の問題だ。
しかし、油断はできない。
ゼロ・オキシジェンはかつてエリックに使った事がある。何らかの対策をしている可能性は高い。
ダークは酸素を密集させた透明な球を、右の手のひらの上に集めた。
エリックはもうすぐ仕掛けてくるはずだ。
「俺が決闘に勝てばエリックを服従させられるが、やられたら元も子もねぇもんな」
エリックを殺す気で、攻撃するつもりだ。
鋼鉄の森がどんどん地面に溶けていく。
そんな時に、誰かが走る音が聞こえた。無酸素の状態にしては、勢いよく走ってくる。
ダークは酸素の球を、走る音に向かって投げつける。
「コズミック・ディール、オキシジェン・エクスプロージョン」
酸素の球は急速に熱を帯び、火炎球に変貌する。
そして、爆発する。
爆発する瞬間に、ダークの目に長剣を握る女戦士が映っていた。アリアが走りこんでいたのだ。
「クソ女、気を失っていたフリをしたな!」
ダークが苦々しく悪態を吐いた。アリアに気を取られた。エリックに対して無防備になってしまった。
ダークの右足に木の根状の刃が貫通する。
ダークは激痛に顔をしかめるが、追撃を警戒して両手にナイフを握る。
しかし、勝負は既に終わっていた。
ダークの背中に深々とナイフが刺さっていた。ダークが激痛に顔をしかめていた、ほんの一瞬の事だった。
ナイフが抜かれると、血が噴き出す。
ダークが地面に倒れる時には、鋼鉄の森は完全に地面に溶けて消え去っていた。
グレイが複雑な表情をしながら、決闘の終了を告げる。
「勝者ダーク・スカイ。エリック・バイオレットの反則負けとします」
「……どんな理由があっても、アリアの攻撃は俺に有利に働いたからな」
エリックの紫色の瞳は、冷徹にダークを見つめる。
「ダーク・スカイ、嘘だろ!?」
ルドルフが悲痛な声をあげた。
大剣を握りしめ、ブレイブを睨む。
「おまえを倒してとっととダークを助けに行く!」
ルドルフの雰囲気が変化した。両目をつり上げ、全身に禍々しい雰囲気を帯びていた。殺意と悲哀を感じさせるような、痛ましい表情をしている。
ブレイブの体力を削る戦法を変えるつもりだ。
ルドルフの大剣が真っ黒に染まる。同時に、どこからともなく不気味に低い音が聞こえだす。それが数多くの亡者の声だと分かるのは、ルドルフだけだ。
「本当は使いたくなかったが、やらせてもらう。俺のゴッド・バインドを味わうがいい」
「僕だって余裕がないよ。早くアリアを助けないと!」
ブレイブはアリアとダークに、ヒーリングを掛けていた。しかし、二人とも目を覚ます気配がない。
地面に大きな亀裂が入る。気を付けないと、奈落の底に落ちるだろう。
メリッサがアリアに駆け寄る。そして、安堵の溜め息を吐く。
「幸い息はありますが……ヒーリングが弱まっている気がしますね」
「ヒーリングだけではない。俺のワールド・スピリットも急激に弱まった」
エリックが淡々と告げる。
「世界の源が死にかけているのかもしれない。今から発動するのは、たぶんゴッド・バインドくらいだろう」




