決闘は続く
空が暗闇に支配され、湿った風が冷気を帯びる。
辺りは暗く、寒くなってきた。
そんな中でブレイブは走り続ける。リベリオン帝国の皇帝ルドルフを相手に、絶望的な戦いを強いられていた。
ルドルフが即死のワールド・スピリットを使っているせいで、思うように近づけない。一撃でも食らえば消滅する。禍々しい闇色の軌道が、幾度となくブレイブを阻んでいた。
しかし、ブレイブの瞳は光を失っていない。真っ直ぐにルドルフを見据えて、拳を当てるチャンスを窺っていた。
体力の限界を超えても走り続けるつもりだ。
そんなブレイブの熱い意思を察しているのか、ルドルフが不敵に笑う。
「いい目をしている。だが、このままでは俺に勝てないぞ」
「そんなの、やってみないと分からないよ!」
ブレイブは声を張り上げる。呼吸が荒く、胸が苦しくなるが、走り続ける。
ルドルフは酷薄な笑みを浮かべて大剣を振るう。禍々しい闇色の軌道が描かれ、ブレイブに襲い掛かる。
ブレイブは横に跳んだり地面を転がったりしてかわし、ルドルフに近づくが、大剣の刃も避けなければならない。その間に闇色の軌道がルドルフの元に戻ってきて、またかわす必要が生じる。
ブレイブはルドルフに一撃も加えられていないし、間合いに届いてすらいなかった。
自らの優位を確信しているのか、ルドルフがあざ笑う。
「強がっても状況は変わらないだろ。ヒーリングを使うつもりで、突っ込んできたらどうだ?」
「そんな事をしたら、世界が滅んでしまう!」
ブレイブは痛みで悲鳴をあげる両ひざをバシッバシッと叩く。
「ヒーリングは世界のエネルギーを枯渇させてしまう。正しく使わないといけないんだ!」
「意外と詳しいな。誰から聞いた?」
「ダーク・スカイだよ」
「そんな話をしていたのか! 隅に置けないな」
ルドルフは大笑いしていた。
「ワールド・スピリットのエネルギー源は、死んだものの魂の集合体という話も知っていそうだな」
「それは知らなかったよ」
「おっと、そうなのか」
ルドルフは朗らかに笑っていた。
「あの野郎、ワールド・スピリットについて中途半端に教えたな」
「教えてくれるのなら誰でもいいよ。詳しく聞かせてくれ」
「決闘中だぞ! めんどくさい」
ルドルフは大剣を再び振るう。そしてまた闇色の軌道がブレイブに襲い掛かった。
ブレイブは走って避ける。この攻防はいつまで続くか分からない。
そんな攻防を遠目で見守りながら、グレイが溜め息を吐いた。
「じれったいですね」
「そうね」
グレイの左腕を抱きしめるナイトが頷く。
「手を出してはいけないのは分かるけど、どちらも生き延びてほしい」
「てめぇらどっちの味方だ?」
ダークが舌打ちをした。周囲を警戒しながら、グレイとナイトの隣に立っていた。
「ローズ・マリオネットの目的を見失うんじゃねぇよ」
「ブレイブさんには多大な恩があります。僕の命を救い、ナイトさんが微笑むきっかけを作ってくださいました」
グレイは決闘を切なげに見つめる。
ブレイブは、呼吸も足取りも不安定なのに走っている。ルドルフが容赦なく大剣を振るう。
ブレイブは防戦一方だ。傍目には逆転の余地はない。
「殺されるまで走り続けるでしょう。僕たちも世界も救えると信じて」
「ブレイブ、今は嫌いじゃない。グレイほど好きじゃないけど」
「そうですね、僕も嫌いじゃないですよ。ナイトさんほど愛せませんが」
グレイとナイトは互いに見つめあって頷いた。
ダークは呆れ顔になっていた。
「もう勝手にしろと言いたいが、来たぜ。シルバーが」
ダークに視線で促され、グレイとナイトは同じ方向を見る。
黒紫色の猛獣たちが土埃をあげて迫っていた。先頭を走る馬に、銀髪の縦ロールを巻いた少女が乗っている。シルバーで間違いない。
その後ろに、メリッサが乗るヒョウと、アリアが乗る熊が続いていた。




