残酷な答え
ダークの両目が見開いた。
「アイテム・ボックスか……随分と便利そうじゃねぇか」
「やめろ、メリッサ! こんな男に貴重なアイテム・ボックスを使わせる必要はない!」
アリアが怒鳴った。
「ブレイブ様の事は私たちで責任を持つべきだ!」
「アリアさんのおっしゃる事も分かります。ですが、私たちだけではどうしようもありません。借りられる知恵があるなら借りるべきだと思います」
メリッサの決意は固い。
しかし、アリアも譲る気配がない。
「闇の眷属の知恵なんて借りて、良い事はない。嘘を言われて、いい様に利用されるだろう」
「こんな時に嘘なんて言わねぇよ。ブレイブが騙されたと気づいて暴走したら始末が悪いぜ」
ダークは襟元の黒い薔薇のブローチに触れた。
ブローチは淡く光る。
「ローズベル様、お時間はよろしいですか?」
「あら? 生きていたのね」
間の抜けた声が返ってきた。ローズベルだ。
「さっき連絡しても返事がなかったのに」
「薬を盛られて眠らされていました。ご用があったのですか?」
「また後でゆっくりと話すわ」
ローズベルの上品な笑い声が聞こえる。
「あなたなら生きていると確信していたわ。そうそう、あなたの用事を聞きたいわ」
「世界を救うという、ブレイブの望みが叶う知恵が欲しいと言われました。良い方法はありますかね?」
「あなたがそんな事を聞くなんて、驚いたわ」
「アイテム・ボックスを使わせてもらうという交換条件を提示されましたから」
ダークはニヤ付く。
ローズベルはクスクス笑っていた。
「相変わらず人が悪いわね。私が何を言うのか分かるでしょう?」
「そうですね。俺たちにとって、世界を救うと言われれば方法は一つしかありませんね」
ダークとローズベルの声が重なる。
「ブレイブが死ぬ事」
沈黙がよぎる。
アリアは両肩を震わせ、メリッサは呆然としていた。
いくらか時が経つと、ダークが声を大にして笑った。
「ブレイブたちにとって都合が悪いでしょうけどね! 残酷な答えでしょう!」
「反抗勢力がそれで納得するなら、最初から争っていなかったわ」
ローズベルも愉快そうに言っていた。
アリアが長剣の柄に手をかける。
「やはり話し合いは無理だな」
「そうだな。俺の体力は充分に回復したし、いつ戦ってもいいぜ」
ダークが起き上がる。
アリアが長剣を抜き放つ。ありあまる殺気を放っていた。
「メリッサはブレイブ様が報われる方法を聞いた。それが無いなら、アイテム・ボックスを使わせてやる理由はない」
「まあ、そうなるよな」
ダークの切れ長の瞳に、鋭い光が宿る。
「どちらかが滅びるまで争いは続くぜ。ローズベル様、戦闘に入ります」
「了解。適当に生き延びなさい」
ブローチの光が消えた。
同時に、アリアが長剣を振り下ろす。
ダークがナイフを構える。殺し合いの準備はできている。
しかし、アリアの長剣とダークのナイフがぶつかる事は無かった。
長剣を振るうアリアの腕を、茶髪の少年が掴んでいた。
ブレイブが起きていた。椅子から立ち上がっていた。
「アリア、僕は話し合いを望んでいる」
「無駄ですよ、彼らはあなたの死を望んでいます!」
アリアは泣き叫ぶように言っていた。
そんなアリアに、ブレイブは微笑みかけた。
「大丈夫だよ。世界は本来優しいものだから」
ブレイブはアリアに微笑みかける。
「剣を収めてくれ。僕は話がしたいんだ」
「……ご命令であれば従います。しかし、どうかご自身を守る事を忘れないでください。あなたはサンライト王国最後の希望なのですから」
アリアは震えながら、長剣を鞘に収めた。
ブレイブは、アリアの腕から手を放す。
「僕はそんな大層なものじゃないけど、自分の身は自分で守るよ」
ブレイブは朗らかに笑って、ベッドで半身を起こしたダークに目を向ける。
「君たちが僕を殺したがっている理由が告げられたみたいだね」
「……てめぇに語るほどのもんじゃねぇけど、言ってやる」
ダークはナイフを構えたままゆっくりと話す。
「てめぇのヒーリングは、世界を支えるエネルギーを枯渇させる。世界を滅ぼす要因になるぜ」
「僕の力が世界を滅ぼすかもしれないのか」
ブレイブは深々と頷いた。
「使いすぎに気を付けよう。どんなに優れた薬だって、正しく使わないと毒になるんだ」
「……それだけでいいのか?」
ダークがブレイブに疑いの眼差しを向ける。困惑しているようにも見える。
「もっと恨み節を吐くと思ったぜ」
「僕の恨み節なんて聞きたいのか?」
「そんなリクエストをしたつもりはなかったぜ。てめぇと会話をすると調子が狂うな」
ダークはナイフを袖にしまって、バフッと乱暴な音をたててベッドに横たわる。
「なんかいろいろバカバカしいぜ」
「世の中そんなものだよ」
ブレイブが無邪気に笑う。
「君は立場があると思うけど、もっと素直になっていいと思う」
「ガキに諭される気はないぜ」
ダークは呆れ顔になっていた。
「もう少し寝かせろ。そうそう、たぶんメリッサが俺のズボンの裂け目を直したが、敵に温情を掛けるのは危険すぎると教えてやれ」
ダークはブレイブたちに背中を向けて寝息を立て始めた。
ブレイブは笑いをこらえられず、噴き出していた。
「メリッサの身を案じてくれたのか。優しいのに、素直じゃないなぁ」
「いまのうちに首を切り落としましょう」
「それはダメだよ、まだまだ話し足りないんだ」
アリアの提案を、ブレイブはすぐに拒否した。
メリッサは椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。
「勝手な事をしました。申し訳ありません」
「いいよ、僕は良かったと思う」
ブレイブはパタパタと手を振った。
アリアを除いて和やかな雰囲気になっていた。
そんな時に、廊下から慌ただしい足音が聞こえた。仮眠室にシルバーが姿を現した。血相を変えている。
「ブレイブ、お逃げなさい!」
ブレイブは首を傾げた。
「どうしたんだ?」
シルバーは顔色が悪いまま、口調を荒立てる。
「あの方が、ルドルフ皇帝が来ましたわ! あなたの命を狙っておりますのよ!」




