世界を滅ぼす力
ダークはベッドに横たわったまま、口の端を上げて語り始める。
「まずは世界の源とワールド・スピリットに対する認識を共有するか」
「世界の源を用いた異能の総称がワールド・スピリットだという事くらい知っている。ブレイブ様も使っている」
アリアが冷淡に言い放った。長剣の柄から手を放したが、殺気は消えていない。
ダークは苦笑した。
「随分と端折られてるな」
「何が言いたい?」
「ワールド・スピリットはそんなに簡単なもんじゃねぇよ」
ダークの切れ長の瞳に、冷徹な光が宿る。視線の先には、スヤスヤと寝息を立てるブレイブがいた。椅子に腰掛けた状態でまだ寝ていた。
「端的に言うが、こいつの使うワールド・スピリットが世界を滅ぼす引き金になる危険性がある」
「は?」
アリアの両目はみるみるうちに釣り上がった。
「ワールド・スピリットはローズ・マリオネットだって散々使っている。ブレイブ様のワールド・スピリットだけが危険だと言われる筋合いは無い」
「私もそう思います。ブレイブ様のヒーリングは癒しの力です。世界を滅ぼすなんて考えられません」
メリッサも口を挟んだ。
ダークは露骨に溜め息を吐いた。
「こりゃ前提がだいぶ食い違っているな。てめぇらはワールド・スピリットの恐ろしさを感じてすらいねぇのか」
「感じておりますよ。天変地異を操るあなたのワールド・スピリットだって怖かったです」
メリッサが身体を縮こませると、ダークは呆れ顔になっていた。
「そういう意味じゃねぇよ。俺のワールド・スピリットは天変地異じゃなくて天体現象を操るもんだし」
「おまえのワールド・スピリットの事はどうでもいい。ブレイブ様のワールド・スピリットが本当に危険なら、理由を言え」
アリアの眼光は鋭い。常人が目にすれば恐怖のあまり逃げ出すだろう。
しかし、ダークは呆れ顔のままだった。
「いろいろ説明したくなるが、ブレイブのヒーリングの事だな。正確にはゴッド・バインドを伴ったヒーリングが最悪だ。世界の源を無尽蔵に疲弊させるぜ」
ダークの言葉に、メリッサは首を傾げた。
「ワールド・スピリットはもともと世界の源から来るエネルギーと聞いた事があるので、使いすぎると世界の源を疲弊させるのはなんとなく理解できますが……どうしてブレイブ様の力だけが危険だと思われるのですか? 皆さん強力なエネルギーを使いますよね」
「じゃあ聞くが、てめぇは植物を育てる途中でうっかり茎を折ったり、蕾を切ったりした時に、元の位置にくっ付けたらまた普通に育つなんて期待するか?」
「いきなり何を聞くのですか……?」
ダークの意図が分からず、メリッサは困惑する。
アリアはダークをにらみつける。
「バカバカしい質問だ。期待しないに決まっている。新しい種を蒔くか新たに蕾を付けるのを期待する方が、よほど現実的だ」
「ヒーリングはそのバカバカしい事に期待する行為だぜ。どれほどエネルギーを使うか考えた事はあるか?」
ダークはしれっと言っていた。
「ヒーリングは奇跡的な力だが、ワールド・スピリットの中でも特に世界のエネルギーを消費するんだ。ゴッド・バインドのせいで無尽蔵に使える分、始末が悪いぜ」
「そ、そんなもの……おまえだってブレイブ様の力を浪費させただろう!?」
アリアが怒鳴る。
「サンライト王国の跡地で人質を取って、ブレイブ様の消耗を狙っただろう!?」
「あの場で仕留めるつもりだったからな。失敗したのは悔しいもんだぜ」
ダークは乾いた笑いを浮かべた。
「とりあえず、ブレイブのヒーリングは危険だと分かったようだな」
「そんな……ヒーリングで世界を癒すはずが、世界を滅ぼす力になるなんて」
「なんでもやり過ぎはよくねぇって事だ」
メリッサの表情は青ざめたが、ダークの口調は軽かった。
「ヒーリングを抜きにしても、反抗勢力の旗印に使われるしな。闇の眷属にとって厄介もんだぜ」
「あんまりです……ブレイブ様は世界を救いたいだけですのに」
メリッサの声はかすれていた。
ダークはせせら笑う。
「本当に憐れなガキだぜ。報われねぇな」
「何か良い方法はありませんか?」
「何もないとしか言えねぇよ」
「あなた以外の人に知恵を借りる事はできませんか?」
メリッサが真剣な眼差しを向けると、ダークは溜め息を吐いた。
「ローズベル様も同じ事を言うと思うぜ」
「一か八か聞いてみてもらえませんか?」
メリッサに懇願され、ダークは愉快そうに両目を細めた。
「タダでやれるわけがねぇよ。俺にもメリットがないとな」
「ローズベルさんとお話してくださるなら、私の能力のすべてを捧げます。アイテム・ボックスの中身をいくら使っても構いません」
メリッサの瞳には、決意が込められていた。




