三つの神域
シルバーは安堵の溜め息を吐いた。
「さすがブレイブですわ。予めメリッサと打ち合わせをしていましたのね」
床で寝ているダークを横目に、メリッサは首を横に振る。
「打ち合わせはありませんでした。蛍の光を出したのは一か八かです」
「え? ブレイブは考えがあるとおっしゃっていましたのに」
シルバーが首を傾げると、ブレイブは両手を腰に当てて胸を張った。
「ダークをうまく説得できれば大丈夫だと思ったよ」
「どう説得するつもりでしたの?」
「頑張って説得するつもりだったよ」
「それは考えがあるとは言いませんわ」
シルバーは額の冷や汗を拭った。
「結果的に穏便に収まりましたけど、危ない所でしたわ」
「みんな生き残って良かった」
ブレイブが深々と頷く。
シルバーは溜め息を吐いた。
「全員が生きているとは限りませんけど」
「安心してよ。みんなにヒーリングを掛けておいたから」
ブレイブは微笑んで周囲を見渡す。
「元気になった人は店内を片付けよう」
喫茶店内は悲惨な有り様だ。テーブルはひっくり返り、調度品が散在し、大量の血痕がある。誰も命を落としていないのが不思議なほど凄惨な光景であった。
ルルワが立ち上がって、ダークを指さす。
「気持ちはありがたいけど、この危険人物をなんとかして欲しいよ」
「メリッサのアイテム・ボックスに入れるのはどうだろう?」
ブレイブが問いかけると、メリッサは両腕を組んでうめいた。
「閉じ込めるのは難しいと思います。たぶん空間転移で脱出されます」
「アイテムボックスの中には数多くの武器も収容されています。持っていかれたら危険が増してしまいます」
アリアが口を挟んだ。
ブレイブは顎に片手を置いた。
「別の所に運ぶか?」
ブレイブが提案すると、ルルワはカインに視線を送る。
カインは苦笑する。
「別所に置いても、また襲ってくるだろう。縛り上げておきたい」
「それは可哀想だ。僕が見張るから、彼をこれ以上いじめないでくれ」
「いじめているつもりは無かったけどね……君の言いたい事は分かる。しばらく様子を見るよ」
ブレイブの視線が鋭くなるのを感じ取り、カインは数歩後退した。
ブレイブはダークのもとに歩み寄る。しゃがんで手を伸ばす。
その手を、シルバーが掴んだ。
「いけませんわ。あなたが近づくのは」
「なんでだ? 寝ているから大丈夫だよ」
「闇の眷属には決して触れてはいけない三つの神域がありますの。神域に触れた人間は命を落としてもおかしくないのですわ」
シルバーの眼差しは真剣だ。息を吞むブレイブに向けて、ゆっくりと口を開く。
「無言で佇むルドルフ皇帝、妙に上機嫌なローズベル様、薬を盛られたダーク・スカイ、次点に熟睡しているダーク・スカイですわ」
「次点なら問題ないよね」
「いいえ、お聞きなさい。熟睡しているダーク・スカイは、敵と認識している人間が近づくと恐るべき速さで切りつけますの。急所を突かれたら、ひとたまりもありませんわ」
「僕は切りつけられる恐れがあるのか」
ブレイブの返答に、シルバーは頷いた。
「ご理解いただけたのなら良かったですわ」
「でも、彼を安全に運べる人間がこの場にいるのか?」
ブレイブの指摘に、シルバーは口ごもった。
ブレイブは微笑みかける。
「切りつけられたら急いで離れるよ」
「お、お待ちなさい危険すぎますわ……!」
シルバーが止める間もなく、ブレイブはダークを肩に担いでいた。
「身長差のせいで足を引きづってしまうな。メリッサも手伝ってくれ」
「はい?」
メリッサは両目をパチクリした。
「私で大丈夫でしょうか?」
「君じゃないと切りつけられる恐れが高いだろう。僕が肩を持つから、足を持ってくれ」
「は、はい」
ブレイブとメリッサでダークを運ぶ。ルルワに仮眠室へ誘導されていった。アリアもついていった。
シルバーは呆けていた。
「……あの男はブレイブに気を許していましたの?」
信じられないと感じていた。
カインは怪しく笑う。
「意外とそうかもね。何かに利用できないかな」
「もう下手な小細工はおやめなさい」
シルバーに釘を刺されて、カインは肩を落とした。




