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熱血ヒーラー、世界を癒す旅に出る  作者: 今晩葉ミチル
最強のローズ・マリオネットたち
35/62

破壊された精神で

 ダークが辺り一面に酸素を集めるワールド・スピリットを放った。酸素を圧縮し、爆発させるワールド・スピリットを使うつもりなのだろう。

 一方で、白い靄は広がり続ける。視界はどんどん悪くなる。ダークは靄ごと辺りを消し飛ばすつもりなのだろう。

 不思議な事に、立っている人間たちの足元から影が伸び、特有の形になっていた。倒れているブレイブと、上空にいるグレイとナイトの影は無い。

 エリックの影は終始辺りをキョロキョロと窺い、シルバーの影はエリックの方向をジッと見つめている。実際の二人はそんな動作をしていない。ダークと、上空にいるグレイとナイトを交互に見据えている。人影は、本体と全く違う形を作っているのだ。

 ダークの影は相変わらず泣いているままだ。ダーク自身は殺意で瞳をぎらつかせているのに。

 そんな中で、エリックは両手にナイフを構えて走り出した。同時に、木の根状の鋼鉄の刃でアリアに絡む糸を切り刻んだ。

 アリアは放心した。

「まさか私を助けたのか?」

「ダークのワールド・スピリットは危険だ。止めるのを手伝ってほしい!」

 エリックはアリアの方へ振り向きもせずに、一方的に言い放った。走った勢いそのままにダークに切りかかる。何の備えもなく近づけば崩壊星に吸い込まれただろうが、木の根状の鋼鉄がエリックの足元に巻き付いていた。

 エリックのナイフと、ダークのナイフが鋭い金属音を打ち鳴らす。

 互いに一撃で終わるはずはない。エリックのナイフは目にも留まらない速さで、ダークの首元、脇腹、足など至る所を狙いすまして切りつける。対するダークのナイフは切りつけてきたナイフをいなしたり、乱暴に弾き返したりした。

 常人には鋭い金属音の応酬しか分からないだろう。

 しかし、アリアには彼らの応酬が見えていた。


「とてつもない速さと技だな」


 勝てる気がしない。

 脳裏にそんな言葉が流れ、背筋に悪寒が走る。

 ダークは明らかに倒さなければならない相手、エリックはいつ敵になってもおかしくない相手だ。とてつもない脅威からブレイブを守らなければならない。

 アリアの足元から人影が伸びている。人影は怯えるように自らの身体を抱え込んで、震えている。アリアの深層心理を表しているかのようだ。

 アリアはいつも怖がっていた。闇の眷属からブレイブを守り抜けるのか、サンライト王国の復興はできるのか。途方もない使命に、震えが止まらない日もあった。虚勢を張ってやり過ごすしかない時もあった。

 本心を語るなど夢のまた夢であった。

 しかし、ブレイブやメリッサと旅をするのは、大変であるがやめたくない。


「こんな所で終わるわけにはいかない」


 アリアは長剣を握りしめた。

 エリックの腹がダークに蹴り飛ばされる。そして、エリックの身体が白い糸に絡まれる。

 エリックの身体が動けなくなる。ダークの表情に微かな安堵が浮かぶ。

 今だ。

 アリアの意識が弾けた。ダークの横から切りかかる。目にも留まらない速さだ。

 しかし、ダークは予測していたのか、後方に跳んで距離を取る。アリアの長剣は黒い神官服の袖をかすめる程度だった。

 間髪入れずに、ダークのワールド・スピリットが放たれる。


「コズミック・ディール、オキシジェン・エクスプロージョン」


 刹那、アリアの耳から世界から音が消えた。目の前が急激に歪む。

 そして、轟音と爆風が辺りを包み込む。

 高圧の掛けられた大気が一気に爆発したのだ。

 辺りの草原は跡形もなく消え去り、焦げた大地がむき出しになる。

 白い靄も崩壊星も消えていた。

 ほんの一瞬の出来事であった。

 ダークは溜め息を吐く。

「……終わったか」

 立っている人間は見当たらない。


「エリックやシルバーも消し飛んだだろうなぁ……あいつらと過ごした日々も面白かったが、仕方ねぇか」


「そんなに残念がる事ですか? 裏切者を始末しただけですよ」


 上空からグレイが声を掛ける。

 ダークは舌打ちをする。


「残念なんて感じてねぇよ」


「寂しいのですね。あなたの影は泣いているままですよ」


 白い靄が消えて、闇色の空の下では見えづらくなっていた。

 しかし、泣いている人影は確かに存在している。

「ブレイブのゴッド・バインドが生きているのか!?」

 ダークは驚愕の表情を浮かべてナイフを構える。

 何者かが、信じられないほどの速さで殴りかかってきた。


「ボクは……いやす。ボクは……」


 そう呟いていた。右腕をナイフで刺されて、血が流れるのをそのままにして、ダークの胸元に殴りかかっていた。

 拳が届く寸前で、ダークは殴りかかってきた人物を蹴り飛ばした。

 ブレイブだった。

 白い糸が絡まる。ブレイブは身動きが取れなくなる。

 戦況は圧倒的にローズ・マリオネットたちに有利なはずだ。しかし、余裕の態度を浮かべている人間はいない。

 ナイトが震えて、グレイの左腕を掴む手を強める。

「怖い……精神が破壊されたままワールド・スピリットを放っている」

「ゴッド・バインドが発動しているのでしょうね。ナイトを怖がらせるなんて大罪です。すぐに退治しましょう……!?」

 グレイの目の前で、ナイフが振るわれる。

 グレイは大慌てで後ろに跳ぶ。ナイトもついていくように跳んでいた。

 木の根状の鋼鉄がすぐ足元に広がっていた。白い糸とは違う足場が作られていたのだ。上空の安全圏は消えたのだ。

 ブレイブに絡む糸は、切り刻まれていた。

 グレイは苦々しく呟く。

「エリックさん、どうして生きているのですか?」

「たぶんブレイブのヒーリングのおかげだろう」

 エリックは淡々と告げて、鋼鉄を蹴る。勢いよくグレイと距離を詰めて、切りかかる。

 グレイは白いステッキでナイフを受け止めた。

 カツンと乾いた音を立てて、ナイフは弾かれる。

 エリックに幾つもの白い糸が向かい来る。エリックは身を翻してナイフを振るい続ける。

 グレイとナイトが更に後ろに跳んで、距離を置く。

 ナイトが苦渋の表情を浮かべる。

「一本でも届けば、精神破壊ができるのに」

「焦ってはいけませんよ。勝機はあるのですから……!?」

 グレイが両目を見開いた。

 四方に猛獣が出現したのだ。シルバーのワールド・スピリットだろう。

「デッドリー・ポイズン、ヘイトレッド・ファウンテン」

 猛獣たちが猛毒の液体となり、グレイたちに噴出する。

 グレイは糸で自分たちを引き上げて、上空に逃げた。

 その上空に、鋼鉄を足場にしたエリックが待ち受けているとも思わずに。

 グレイの顔面が青ざめる。

 エリックに気づいた時には、既にナイフが胸深くに刺さっていた。

 グレイは血を吐いた。糸を支えられなくなる。地面へ落下していく。

 エリックは冷徹に見つめていた。

「ブレイブに治してもらえ」

 エリックの声が聞こえたのか、グレイは含み笑いをする。

「ナイトさん、僕を壊しなさい」

 思わぬ言葉を掛けられて、ナイトは困惑する。


「なんで? おまえを壊すなんて絶対に嫌」


「このままでは勝てません。僕を壊してうまく使いなさい。意地を守らせなさい。これは命令です」


 ナイトのオッドアイが揺れる。

 ナイトのワールド・スピリットは、ナイトが触れているものの精神を破壊できる。グレイの糸を間に挟んでも可能である。

 精神を破壊された人間が元に戻った事はない。ブレイブを除いて、相手のワールド・スピリットを操る事も思いのままだった。

 二人が最強のローズ・マリオネットとして闇の眷属に認められた所以だ。

 それ以上に、グレイと過ごした日々は満たされていた。

 幼い頃に残酷な虐待を受けていたが、グレイと一緒に逃げだした。力をつけて、虐待してきた人間たちを殺したのは爽快だった。

 その後も、互いを認め合って成長する日々は楽しかった。

 もう終わりになる。

 そう命令されたのだ。

「ソウル・ブレイク、デスペア」


 ナイトの瞳に涙がこぼれる。


「みんな壊れてしまえ……!」

 白い糸が、繭のようにナイトを包み込む。地面に落ちる衝撃から守るようだった。

 ナイトはグレイを守るように、グレイの身体を抱きしめていた。

 二人が地面に落ちると同時に、膨大な数の白い糸が辺りに広がった。

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