表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
熱血ヒーラー、世界を癒す旅に出る  作者: 今晩葉ミチル
最強のローズ・マリオネットたち
31/62

白い貴公子とオッドアイの少女

 日の光が赤くなり、辺りは夕闇に包まれようとしていた。

 グレゴリーは高笑いをあげる。

「最強のローズ・マリオネットたちがくれば、あんたたちなんて目じゃないわ!」

「……あの二人が来たら私は相手になりませんわ。すぐに片を付けて逃げましょう。デッドリー・ポイズン、ヴェリアス・ビースト」

 シルバーの表情が苦渋に満ちる。虚空から数匹の猛獣が現れると、街道中が悲鳴に包まれた。凶悪な目つきでうなる猛獣たちを目にして、恐怖を抱いているのだ。

 グレゴリーは、きゃあっと、わざとらしく悲鳴をあげて、右手を広げた。

「ひどいわん、か弱いあたしに攻撃しようだなんて。お仕置きしなくちゃ。フィンガー・クリエイト、アイシクル・ビーム」

 グレゴリーの右手から、五つの青白い光線が放たれる。大気が強烈な冷気を帯び、一瞬だけツララを垂らす。冷気に巻き込まれた猛獣たちは、瞬時に凍り付いた。

 グレゴリーが勝ち誇った笑みを浮かべる。

「獣ごときにあたしは倒せないわよん!」

「デッドリー・ポイズン、ヘイトレッド・ファウンテン」

 シルバーは、グレゴリーの言葉に耳を貸さずに次の手段に出ていた。

 猛獣たちがヘドロ状に変化し、禍々しい紫色の液体となり、見る間に氷を溶かす。紫色の液体は猛毒を含んでいる。氷から解き放たれて、噴水を放つ。

 まともに浴びれば全身が溶けて死に至る。そんな猛毒が勢いよくグレゴリーに迫る。

 グレゴリーに迎撃の手段はない。グレゴリーの絶叫がこだまする。

 勝敗は決したかのように思われた。


 しかし、表情を青くしたのはシルバーだった。


「嘘でしょう……?」

 茜色の空を見上げて、両手で口を覆う。

 上空で、不思議な現象が起こっていた。


 グレゴリーが宙づりになっていた。白い糸に全身を絡め取られて、ぷらんぷらんと揺れていた。


 そのさらに上空で、一組の男女が浮かんでいた。


 白い貴公子服を着る少年と、青いドレスに身を包む少女だ。少年は肩で灰色の髪を切りそろえて、微笑みを浮かべている。少女は肩で黒髪を切りそろえて、青と黒のオッドアイで冷徹に地上を見下ろしている。

 少年は、端に青い宝石の付いた白い杖を右手で握っている。杖から数えきれないほどの白い糸が伸びて、不安定ながらに彼らの足場を組んでいる。彼の左腕はオッドアイの少女が抱きしめている。

 シルバーはガクガクと震え出す。


「グレイ・ウィンドにナイト・ブルー……もういらしているなんて」


「そんなに怯える事もないでしょう。仲良くしてくれれば攻撃しませんし、反抗しても苦しみはすぐに終わります」


 白い貴公子の少年、グレイ・ウィンドは温かな眼差しを浮かべる。

「シルバーさんの扱いは保留となっているので、すぐには攻撃しません。ご安心を。しかしながら、他の三人はそうはいきません」

「待ってくれ! 僕に敵対する意思はないよ!」

 ブレイブが声を張り上げた。

「君たちの主張は理解できるけど、争わない道を模索してくれないか!?」

「あなたがブレイブ・サンライトさんですね。噂に違わぬ悲しい平和主義者ですね」

 グレイは憐みの視線を浮かべる。

「リベリオン帝国北西部担当のグレイ・ウィンドと申します。ローズ・マリオネットの一員です。会話する機会は少ないでしょうけど、あなたの事は覚えておきましょう。忘れるまでは」

「同じくリベリオン帝国北西部担当のナイト・ブルー。ローズ・マリオネットの一員」

 ナイトの口調は抑揚がない。冷徹な眼差しをブレイブに向ける。

 ブレイブは両手を広げて、努めて笑顔を浮かべる。

「自己紹介をしてくれてありがとう。君たちの言う通り、僕がブレイブ・サンライトだ。世界を癒したいと考えているんだ」

「世界を癒す……不思議な言葉ですね」

 グレイはクスクス笑う。

 ナイトは溜め息を吐いた。

「くだらない。癒せる世界なんて無い」

「そんな事はないと思うよ。世界はもっと優しいものだ。君たちも体感してほしい」

 ブレイブは必死に語り掛ける。


「家族や仲間と触れ合う時だって、もっと安心していいはずなんだ。いつ誰に襲われるかなんて考えなくていいはずなんだ」


 ブレイブにとって至極当然の言葉だった。

 しかし、グレイとナイトの表情が一変した。

 二人とも瞳をぎらつかせている。殺意にまみれている。

 冷たい風が吹く。

 グレイが瞳をぎらつかせたまま、怪しく笑う。


「面白い事をおっしゃいますね。僕たちを不愉快にさせるのが目的なら、最高の冗談ですよ」


「ねえ、グレイ。ブレイブ嫌い。早く殺そう」


 ナイトの恐ろしい提案に、グレイは頷く。

「殺しましょう。グレゴリーさんも協力してくれますよね?」

「え、ああ、まあ」

 唐突に話を振られたグレゴリーは、宙づりのまま曖昧に頷いた。

 地上では、人々が蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っていた。苛烈な戦いになると予想されたからだ。

 慌てふためく人々の悲鳴や足音を聞きながら、アリアがメリッサから長剣を受け取っていた。今までアリアの長剣はメリッサのアイテム・ボックスに入れられていたが、メリッサが急いで取り出したのだ。

 アリアは長剣を構えて、ブレイブに視線を送る。

「できるだけあがきますが、勝つ方法はないでしょう」

 上空にいる敵たちに聞こえないように、小声で言っていた。

「今回の戦いは絶望的だと考えてください。いざという時には、私を見捨ててお逃げください」

「やりようはあるはずだ」

 ブレイブは額に汗を滲ませながら、両手で拳を作る。

「彼らが上空に立っていられるのは、大量の糸で足場を作っているからだ。足場は地上のどこかにつながっているはず。それを壊せばいいんだ」

「都合よく糸を切れるか分かりませんが、やってみましょう」

 アリアは大地を蹴る。勢いそのままに、建物から上空へ伸びる白い糸を断ち切る。

 あまりに手応えがない。

 宙づりのまま、グレゴリーが高笑いをあげる。

「あんたたちに届く位置だけに、足場と地上の接点を付けるはずはないでしょう! おバカさんたちねん」

「余計な事はおっしゃらないようにお願いします。ブレイブさんたちにヒントを与えるでしょう」

 グレイは微笑んでいるが、瞳が鋭く光っている。

「この場であなたを地上に落とす事は簡単です。余計なマネはお控えください」

「わわわ、分かっているわよん! ちょっと口が滑っちゃったのん」

 グレゴリーは大慌てで両手をワタワタと振る。

 ナイトは心底くだらないものを見る目になっていた。

「言い訳はいらない。グレイが指示した事だけやって」

「さすがはナイトさん、僕の言いたい事が分かっていますね」

 グレイは満面の笑みを浮かべた。

「グレゴリーさん、あなたのワールド・スピリットで地上を蹂躙してください。人々の住める地域が多少狭まっても構いません」

「分かったわ。フィンガー・クリエイト、スコーチング・ビーム」

 グレゴリーは舌なめずりしながら、右手を広げた。指先から青白い光線が地上に伸びる。刹那、大気が熱を帯びる。灼熱の光線はブレイブたちに容赦なく襲い掛かる。

 地上の建物がいくつか光線に貫通される。

 シルバーは震えながら、懸命にワールド・スピリットを放つ。

「デッドリー・ポイズン、ヴェリアス・ビースト」

 虚空から生まれた猛獣たちが建物の屋根に飛び乗ったり、ブレイブたちの上へ跳び上がったりした。猛毒たちは盾となったのだ。光線とぶつかって消滅する。


「相手が強いのは分かっておりますが、戦うしかありませんわね!」


 自らを奮い立たせるように、シルバーが声を張り上げた。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ