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リベリオン帝国の中央部

 リベリオン帝国の中央部は、広大な高山と底知れない崖で隔離されている。北側に細々とした山道があるくらいで、通行手段はほとんどないと言ってよい。その特殊な地形は、他国との交流を妨げるが、住民を守るのに有利に働いている。

 一年中太陽の光が届きにくい地域である。広大な高山は常に雪を被っている。

 そんな地域にも動物や植物が育つため、人間も住んでいる。

 その人間たちは闇の眷属と呼ばれる。かつて世界を滅ぼしかけて、世界中を敵に回した部族である。

 闇の眷属は常に戦う事を意識している。争いに巻き込まれる覚悟をしている。住居は石造りで、寒さや物理的な攻撃に強い。三角屋根で、雪が積もればすぐに落とせる。地下には秘密の通路があり、各々の家に行き来できる。情報交換や増援がやりやすい。


 集落全体が要塞となっていた。


 集落の真ん中あたりに、ひときわ高く広い建物がある。他の住居に比べて頑丈な造りになっている。

 リベリオン帝国の皇帝ルドルフを含めて、重要人物が住んでいる。闇の眷属にとって王城であり、敬愛すべきシンボルだ。

 中に入れば、穏やかな光が廊下を静かに照らしだす。光はこの地域に住む特殊な蔦が発しているものだ。生物を感知すると光る習性がある。

 奥まった所にある階段をのぼり、さらに奥に行くと王室と呼ばれる部屋がある。そこも静かな光に照らされ、浅く広い階段が二段ある。

 階段の先には玉座がある。玉座には大柄な男が座り、玉座の傍に華奢な女が立っていた。

 男は黒い短髪で、黒い鎧を身に着けている。玉座に大剣を立て掛けて、不敵な笑みを浮かべていた。

 この男こそルドルフ・リベリオン。リベリオン帝国の創始者であり、皇帝である。


「ダーク・スカイの報告が楽しみだな、ローズベル」


 ローズベルと呼ばれた赤いマーメイドドレスの女は、自らの結い上げた黒髪をそっとなでて、溜め息を吐いた。

「私は緊張しております。ルドルフ皇帝がまた不用意な発言をしないかと」

「安心しろ。荒れた状況なら慣れている」

「そろそろ場を無駄に荒れさせない方法を身に着けてくださいね」

 ローズベルの眼光が鋭くなる。

 ルドルフは悪びれる様子もなく穏やかに笑った。

「俺もあの男も、大概の事でくじけないから大丈夫だ」

「ダーク・スカイにあまり無茶をさせないでくださいね。あれで苦労しているのですから」

「本人は楽しんでいるのだから良いだろう。さて、そろそろ来るかな」

 浅く広い階段の傍に、空間の歪みが生じる。誰かが空間転移してくる前兆だ。

 次の瞬間に、虚空から人影が現れて、倒れこんだ。仰向けに倒れこんだのは、黒い神官服を着た長身の黒髪の男だ。全身は汗びっしょりで、呼吸は荒い。片手で胸を押さえて苦しそうである。

 リベリオン帝国中央部担当者のローズ・マリオネットであるダーク・スカイである。


「報告します。ブレイブ・サンライトに負けました」


 苦々しい口調である。切れ長の瞳は怒りと殺意にまみれている。

 ルドルフは苦笑した。

「その様子だと、こっぴどく負けたようだな」

 ダークは舌打ちをした。

「てめぇの声掛けが無かったらゴッド・バインドの足しになるつもりでした。負け犬に何のようですか?」

「おまえにはリベリオン帝国中央部担当者としてまだ活躍の場があるだろう」

「例えば?」

 沈黙が走る。

 しばらくしてから、ローズベルがわざとらしく咳払いをした。

 ルドルフは鷹揚に頷いて口を開く。

「まあ、少し休め」

 ダークは両目を吊り上げて、右手で床を叩く。ドンッと派手な音が王室中に響いた。

「まさか昔馴染みだから助けたってわけじゃないですよね!? 他の連中に示しが尽きませんよ!」

「はは、真面目だな」

「図星かよ、視線をそらさないでください!」

 ルドルフは額に汗をにじませたが、ローズベルの鋭い視線を感じて笑顔を繕う。

「まあ落ち着け。そもそもどうして今回は失敗したのか、冷静に考えろ。今後の参考になるように」

 ダークは全身をワナワナと震わせた。

「畜生、あの野郎……エリックの奴、裏切りやがって」

 ブレイブのゴッド・バインドが強力なのは分かっていた。

 サンライト王国跡地戦の肝は、ブレイブを消耗させると同時にダークのワールド・スピリットを温存する事だった。人質を使って敵同士を戦わせたのはその為だ。

 しかし、思わぬ邪魔が入った。

 エリックが人質を助けに行ってしまったのだ。そのせいでダークに対するシルバーの攻撃が誘発されたと考えていいだろう。

 ルドルフは深々と頷いた。

「そうだな。おまえの作戦は完璧だった。もう五人テレポートできたら勝てたかもしれないけどな」

「うるせぇですね、一人を空間転移するのにどんだけ労力を使うと思ってやがりますかね?」

「冗談だ、元気そうで何より」

 ルドルフが朗らかに笑うと、ダークは呆れ顔になった。

「俺が元気に見えるなら、てめぇの目は病気ですよ」

「おまえの敬語は相変わらず違和感があって気持ち悪いな」

「皇帝なんですから我慢してください、この野郎」

 ダークのこめかみが怒張し、口の端が引くつく。

 ルドルフはニヤついていた。

「三人しかいないんだ。こんな時くらい、昔のように話さないか?」

「丁重にお断りします。なんのために皇帝とローズ・マリオネットの役割を決めたのですか?」

「真面目で頑固だな。そんなおまえがいるからリベリオン帝国は守られている」

「ご冗談を。俺がいなくたって何とかしてください。ゴッド・バインドは強力なんですから」

 ゴッド・バインド。

 この言葉を聞いた時に、ルドルフの表情は変わった。穏やかな笑みが消えて、真剣な表情になる。冷たい雰囲気を纏う。

「そうだな……リベリオン帝国は俺が守らなければならない」

「今さら言うべき事ですか? 呆れますよ」

「決意を新たにするべきだ。俺はどんなに汚い手を使ってでも、闇の眷属を守らなければならない」

「汚い手にこだわりすぎると、仲間から嫌われますよ」

 ダークは遠い目をしていた。


「エリック・バイオレットもシルバー・レインも、優れた才能を持っていましたが敵と行動を共にしています」


「敵に回ったというのに、褒めるんだな」


「相手の戦力を正しく認識するのは基本ですよ。二人の才能は侮れません。だからこそ、始末する時には俺にやらせてください。汚れ役は好きなので」


 ダークの切れ長の瞳に、鋭い眼光が宿る。

 ルドルフは両手を叩き、声を大にして笑った。

「よし、おまえの役割が見つかった! 絶対に生き延びろ!」

「はしゃぐ事ですかね? まったく、仕方のない皇帝ですね……」

「皇帝とはいえ、俺も人間だからな。みんなで頑張ろうって聞いているか?」

 ルドルフの問いかけに返答は無かった。

 ダークは両目を閉じて、虫の息になっていた。気を失っているのだろう。

 ローズベルが溜め息を吐いて、両手をパンパンと叩く。使用人が素早く現れて、ダークを担架に乗せて運んでいった。

「しゃべらせすぎです。一目で重体と分かったでしょう?」

「そうだな。だが、俺自身の失言を挽回できたのは大きい」

「ダーク・スカイが生きる目的を見つけたのは良かったですけどね。あとはエリック・バイオレットとシルバー・レインをどうしましょうか?」

 ローズベルが尋ねると、ルドルフは顎に片手を置いた。

「任せる」

「承知しました。まずは裏切り者として名指しされたエリック・バイオレットの話を聞いてみましょう。彼にも言い分があるかもしれません」

「二人いっぺんに呼ばないのか?」

「個々人の思惑を知るために、まずは一対一でお話してみます。必要があればシルバー・レインも呼びましょう」

 ローズベルの提案に、ルドルフはふむふむと頷いた。

「さすがはローズ・マリオネットの司令塔だな。頼りにしている」

「勿体ないお言葉です。それでは、準備をしてまいります」

 ローズベルは深々と頭を下げて、優雅な足取りで王室を後にした。

 ルドルフは立ち上がって、革帯を使って大剣を背中にくっつけた。その目には並々ならない決意が宿っていた。

「念のために俺も戦闘準備をしておくか」

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