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熱血ヒーラー、世界を癒す旅に出る  作者: 今晩葉ミチル
サンライト王国の跡地
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サンライト王国の跡地

 メリッサが、エリックとシルバーに強引に白い外套を着せたところで、ブレイブたちは出発する。

 目的地はサンライト王国の跡地だ。ローズ・マリオネットの一員であるダーク・スカイと話し合うためだ。

 一行はシルバーの召喚した黒紫色の猛獣たちに乗る。先頭の馬二頭にそれぞれエリックとシルバー、中央のヒョウにブレイブ、最後尾の熊二匹にそれぞれアリアとメリッサが配置された。

 道中は会話がなく、重苦しい雰囲気に包まれていた。

 ブレイブを除いて、互いに敵であるという認識がまだ消えていないのだ。

 ブレイブが間を取り持って互いに攻撃しないと約束したものの、誰が反故にしてもおかしくない。アリアもエリックもシルバーも、殺気や敵意を隠さない。メリッサは縮こまっていた。

 一方で、現在争っても利益を生まないのを理解していた。移動手段を持たないアリアやメリッサも、ダークと会話だけで終わらない可能性があるため無駄に体力を消費したくないエリックやシルバーも。

 こんな状況で笑顔になれるのは、ブレイブくらいだ。

「みんなのおかげで少しずつ平和は近づいているよ! 頑張ろう!」

 ブレイブが元気よく右の拳を振り上げる。

 ほとんどの人間が眉一つ動かさない。

 メリッサだけがおずおずと右手を上げるくらいだった。


 なだらかな山を越えると、間もなくサンライト王国の跡地だ。

 たどり着くと、戦場の跡が色濃く残っていた。砕けて中身が剝き出しになった王城に、広がる瓦礫。かつて人が住んでいたことすら疑われるような有様だ。

 辺りは夕暮れから夜になろうとしていた。

 猛獣たちの動きを止めて、シルバーが口を開く。

「念のために申し上げたい事がありますわ」

 空気が張り詰める。良からぬ事を言われると思ったメリッサはヒィッと小さな悲鳴をあげた。

 シルバーは構わずに続ける。

「サンライト王国の跡地に向かう目的は、ダーク・スカイと話し合うという建前ですけど、きっと殺し合いになると思いますの」

「ダークは一筋縄ではいかないとエリックも言っていたし、厄介な相手なんだね」

 ブレイブの額に汗がにじむ。

 シルバーは溜め息を吐いた。


「厄介と言えば厄介ですけど、ダーク・スカイは私が勝負になるギリギリの相手ですわ。あとの四人は格が違いますの」


「四人?」


 ブレイブが両目をパチクリさせると、後ろからアリアが声を発する。

「皇帝、ローズ・マリオネットの司令塔、北西部担当者のローズ・マリオネット二人の事でしょう」

 アリアの言葉に対して、シルバーは頷く。


「その通りですわ。ルドルフ皇帝、ローズベル様、グレイ・ウィンドとナイト・ブルーの誰かが出てきたらどうしようもありませんわ」


「ルドルフ皇帝やローズベルが桁違いに強そうなのはなんとなく分かるけど、グレイやナイトという人たちと勝負にならないのか? ローズ・マリオネットという意味では同格なのに」


 ブレイブが疑問を呈すると、シルバーはうめく。

「質問が無神経すぎますわ」

「ご、ごめん。そんなに酷い質問だったか?」

「改めて勝負にならないと言わせるなんてあんまりですわ」

 シルバーの声が震える。悔しい想いをしているのだろう。

 ブレイブは両手を合わせて頭を下げた。

「そんなつもりはなかった! ごめん!」

「勝負にならないというよりは相性が悪い。シルバーのワールド・スピリットで倒すのは至難の業だ」

 エリックが口を挟んだ。

「猛毒が届きづらい相手だ」

「二人ともローズ・マリオネットの中でも特殊な能力の持ち主だと思っている。無数の糸と精神破壊だろう」

 アリアが真顔で言うと、シルバーが両目を見開いた。

「どうして分かりましたの!?」

「かつて得た情報のおかげだ。直接見たわけではない。おまえの反応で本当だと確信した」

「私のせいだとおっしゃいますの!?」

 シルバーは顔を真っ赤にして両手をワナワナさせた。

 エリックが首を横に振る。

「情報があったと言っている。俺たちがどんな反応をしても確信を持っただろう」

「そ、そうですわね……わ、私が失敗するなんてありえませんものね!」

 シルバーは震えながら高笑いをあげた。

「さっさとダーク・スカイを呼びましょう! 彼の事ですからきっと待ちくたびれていますわ」

「少し待ってほしい」

 エリックが馬から降りて、瓦礫の合間を歩く。目線の先には土で固められた小さな塚があった。浅い空洞があり、表面には手のひらの跡が幾つも重なっている。誰かの墓だろうが、決して精巧な作りとは言えない。

 エリックは塚の前で片膝をついて、祈りを捧げる。

 ブレイブは首を傾げた。

「どうしたんだ?」

「あの塚は、私が小さい頃に作ったものですわ。恥ずかしい出来なのですが、あれが精いっぱいでしたの」

 シルバーの瞳が揺れる。

「エリックから、バイオレットを悼んでほしいと言われて作ったものですわ。私がローズ・マリオネットになる前は、野花を摘んで置いたものですわ」

「俺はたまにしか来なかったのに、あんたはいつもここに来て祈りを捧げてくれたようだな」

 エリックが立ち上がる。

 シルバーは俯いて祈りを捧げる。

「あなたの想い人なら、素敵な人だったに決まっていますわ」

「そうだな。バイオレットは素敵な人だった」

 エリックがシルバーを見て、懐かしむように微笑む。


「ローズ・マリオネットとしてあるまじき行為だが、弔う事ができて良かった。決心がついた。そろそろダーク・スカイを呼ぶ」


 エリックは、襟元にくっつけた紫色の薔薇のブローチに手を添える。

 ブローチは淡く光る。


「コズミック・ディール、リバース・グラビティ」


 ガラの悪い男の声が聞こえたのと、ブレイブたちが異様な現状に見舞われたのは、同時だった。

 地面が砕かれ宙に舞ったのだ。ブレイブたちも、黒紫色の猛獣たちも宙に放り出される。重力が地上と反対方向に働いているようだ。

 地上では、黒い神官服をまとう男が低い声で笑っていた。細身で長身の、黒髪の男だ。ダーク・スカイで間違いない。

 ダークの切れ長の瞳と、宙に放り出されたブレイブの視線が合う。

 ダークは心底愉快そうに両目を細めた。

「死ねよ」

 重力が元に戻る。黒紫色の猛獣たちが地面に叩き付けられ、のたうち回る。

 人間が同じ距離落下したら、間違いなく命を落とす。

 その時に、エリックがワールド・スピリットを使っていた。

「インビンシブル・スチール、フォレスト」

 地面から生えた鋼鉄の木の根が、落下寸前だったブレイブたちを絡め取る。地面に叩き付けられるのを免れた。

 木の根はブレイブたちをゆっくりと地面に降ろし、地面に溶けるように消えていく。

 エリックは一点を見つめて全身を震わせる。バイオレットを弔った塚があった場所だ。

 塚は跡形もなかった。

「……何のつもりだ?」

「おいおい、俺が本気じゃないのは分かるだろ? ただの挨拶だ」

 怒りに満ちたエリックに対して、ダークは両手を広げて軽い口調で答えた。

 エリックはダークを睨み付ける。紫色の瞳は殺意を燃やしていた。


「死にたいようだな」


「冗談だろ、聞き分けろよ! ブレイブと話し合ってやるからよ」


 ダークが口の端を上げる。

「今のでビビったならそう言えよ。末代まで笑ってやるぜ」

「ちょっと驚いたけど、話し合うつもりがあるのなら良かったよ」

 ブレイブは微笑む。

 ダークの目は悪意と憎悪に満ちている。口の端を上げているが、打ち解ける気が無いのが分かる。

 それでもブレイブは笑顔を向けた。悲しい争いを終わりにしたいと思っていた。

「僕がブレイブ・サンライトだ。世界を癒したいと考えている。そのために君たちリベリオン帝国も協力してくれると嬉しいな」

「世界を癒してどうするつもりなんだ?」

「みんなが幸せになればいいと思う」

 ブレイブが流暢に答えると、ダークは片眉をピクリと上げた。

「みんなが幸せ? そんなものが本気であると思っているのか?」

「そうだよ。僕にできる事は少ないけど、みんなが力を合わせれば、きっと幸せになれる人は増えると思う」

「本気か?」

「もちろん」

 ブレイブの視線はまっすぐだ。

 ダークは口元に片手を当てて、視線を逸らす。

「吐き気がするぜ」

「気分が悪いのなら、すぐに休んだ方がいいよ。きっと長旅だったし」

「そんなじゃねぇよ。てめぇの存在は虫唾が走るぜ」

 ダークは数歩下がる。

「コズミック・ディール、テレポート」

 ブレイブとダークの間の空間が歪む。

 空間の歪みから、五人の男女が横一列に現れた。体格など身体的な共通点はないが、いずれも武器を持ち、緊張した面持ちでブレイブを睨んでいる。

 ダークはニヤ付いている。


「ボンクラと付き合うつもりはないぜ。敵味方問わずな」


「この人たちはいったい誰だ?」


 ブレイブが尋ねると、ダークは舌打ちをした。

「察しが悪い王子様だな。てめぇを殺そうとしている人間たちに決まっているだろ」

「みんな初対面だ。どうして僕を殺そうとするんだ?」

 ブレイブが五人の男女を見渡す。

 中央にいる斧を持つ大柄な男が、震えながら口を開く。

「俺がおまえを殺さないと、妻が殺されるんだ」

「人質を取られているのか!? どこにいる!?」

「……アステロイドだ」

「なんだって!?」

 ブレイブは両目を見開いた。

 アステロイドは北に位置する街だ。防壁と水路が発達していて、街全体が星の瞬きのような形を描いていると聞いた事がある。

 サンライト王国の跡地からかなり距離がある。走っていく事は不可能だ。

 ダークがほくそ笑む。


「ブレイブを倒せないと俺が確信を持てば、人質たちを殺させるぜ。ブレイブを逃がした時も同様だ」


「敵同士を戦わせ、味方を傷つけずにすむ。戦略としては間違っていない。だが、私にそれが通用すると思うのが大間違いだ」


 アリアが長剣を抜き放つ。

 ブレイブは慌てて両手をパタパタと振る。

「待ってくれ、アリア! 僕は余裕だ。お互いのために粘ってくれ!」

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