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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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異世界転生・転移関係

同人作家、異世界に転生する

「さーて」

 迷宮から帰還、報酬も確保。

 この先数ヶ月は働かなくて済む。

 あとは筆を手に取り紙と机に向かうだけ。

「やるか」



 異世界転生してきて19年。

 迷宮に挑んで稼ぐようになって5年。

 そこそこのレベルになり、稼ぎも手に入れた。

 そうなればやる事は一つ。

 本作りである。



 もちろん、ご大層なハードカバーの書籍を作るわけではない。

 紙を束ねただけの簡単なもの。

 ホント言うよりは紙の束という方が近い。

 いわゆる、薄い本。

 それが転生者が行ってる作業。

 前世に続きこの世界でのライフワークである。



 すなわち、同人活動。



 前世の日本において、転生者は同人作家だった。

 とはいえ、鳴かず飛ばずの底辺。

 ネットにあげていた絵や漫画はそれなりに評価されたが。

 結局、プロにもなれず、同人界隈でも底辺だった。



 そんな転生者は僅かな稼ぎで生活を支え、趣味に全てを捧げていた。

 オタクの鑑というか、駄目人間というか。

 両者の特性を存分に発揮した彼は、描きかけの原稿の上に突っ伏する最後を遂げた。

 趣味に準じた者としては天晴れというべきだろう。

 人間としてはどうなのだろうと疑問符が付くにしてもだ。



 そんな彼は前世の記憶を持ったまま転生。

 迷宮と怪物の存在する異世界にて再び生まれた。

 この世界でも彼は、好きな事に人生を注ぎ込む事にした。



 幸い、この世界には迷宮がある。

 怪物がその中にいる。

 怪物を倒せば金が稼げる。

 食い扶持にはこまらない。



 しかも。

 ここが重要なのだが。

 やろうと思えば稼ぎは青天井。

 いくらでも積み上げる事が出来る。



 その理由はレベルだ。

 この世界、ゲームのようにレベルが存在する。

 能力を上げる事が出来る。

 そして、レベルを上げれば怪物を倒しやすくなる。

 稼ぎをより多くする事が出来る。



 なので同人作家だった転生者はひたすらレベルを上げた。

 上げるに上げて、稼ぎを簡単に確保出来るようにした。

 本当はすぐにでも紙と筆を手にして本作りをしたかったが。

 まずは先立つものが必要だ。

 なので最初のうちは泣く泣く怪物退治に勤しんだ。



 そうしてレベルが順調にあがり、一人で日当数万円は確保出来るようになった。

 ここまでくればしめたもの。

 同人作家の転生者は稼ぎで宿の個室を確保。

 紙と筆も大量購入。

 自ら缶詰になる幸せな日々に突入していった。



 なお、この世界では宿の個室は贅沢品である。

 一泊値段はかなりのものだ。

 そこに長期間にわたって泊まってる転生者は良い客になっていく。



 だいたい、一か月ほど迷宮で稼ぎ。

 それから数ヶ月にわたって本を作る。

 このくり返しが男の基本的な生活形態になっていた。

 なお、一か月を費やす迷宮探索では、こもりっきりで過ごす事になる。

 奥に進めば滞在期間が増えるのが迷宮探索ではあるが。

 ほぼ単独で迷宮に籠もる転生者は、やはり変わり者とみられていった。



 そんな転生者は、一か月の労働機関を経て、再び宿屋に戻ってきた。

 紙もインクも予備の筆も確保。

 あとは描いて描いて描き続けるだけ。

 この一か月の間、本作りが出来なかったフラストレーションを叩きつけていく。



 そんな男の作ってる本は、ギャルで美少女で萌えなものだった。

 前世に続き、今生においても業を貫いている。



 そうして描かれた16ページの原稿。

 これを魔術式複写機によって大量生産。

 とりあえず50冊ほどの薄い本を作り出す。



 出来上がれば提携してる雑貨店に持っていく。

 試しにもっていったら店主が気に入ってくれた。

 出来るだけ卸してくれないかと頼まれた。

 願いを聞いて男は出来上がった本を雑貨店にもちこんでいった。



 これがかなり売れる。

 たいていは完売だ。

 日本円にして1000円ほどの販売価格なのにだ。

 しかも、一巻あたり500冊は売れる。

 これが前世だったらと思う事は何度もある。

 だが、ここまで売れるのも、競合相手のいないこの世界だからというのも分かってる。



 漫画のない世界だ。

 小説だってほとんど存在しない。

 そもそも、書物というのは貴族の贅沢品のようなものだ。

 一般庶民が手に取る事はない。



 そんな世界に、それなりに上手な絵による物語が登場したのだ。

 興味を持つ者が大量発生した。

 市場規模が小さいので販売部数はそれほど多くはないが。

 なにせ、今のところは迷宮前にある都市の中でしか出回ってないのだ。



 人口数万の都市での話だ。

 その中で、本や物語に興味がある者はまだそう多くはない。

 必然的に市場規模も限定される。

 むしろ、一巻当たり500冊も売れてるだけでも脅威といえる。



 今後、話題が更にひろがっていけば、更に売り上げも上がるかもしれないが。

 新聞も電話もない世界だ。

 情報伝達に時間がかかる。

 上手くいっても、結果が出るのは当分先になる。



 それでも男は構わなかった。

 売れると思って描いてるわけではない。

 好きでやってるのだ。

 生活がかかってるわけではないからのんびりやっている。



 そもそも、食っていくための手段としては効率が悪い。

 1000円の本が500冊売れてるのは脅威ではあるのだが。

 これでえられるのは50万円ほど。

 紙代とインク代と印刷代でほぼ消える。

 この世界、まだまだ紙もインクも高い。



 それなのに、一か月に一冊は新刊を出している。

 ほぼ無収入なのにだ。

 これを趣味といわずして何という。



 それでも転生者は後悔しない。

 好きな話を描いて、好きなだけ本を作る。

 それを求めてる者がいる。

 オタクとしてやり甲斐を感じる。



 そんな男はただひたすらに新作を作りつづける。

 売れるかどうかではない。

 やらずにはおれないのだ。

 男にとって筆を止める事の方が苦痛だ。

 頭に描いたお話を紙に記さない方が地獄だ。



 だからこそ血眼になっても描き続ける。

 睡眠や体力減少、腱鞘炎などを治療魔術でなおしながら。

 一日24時間を最大限に使いながら。

 食事も持ち込ませ、ただひたすら机に向かう。

 席を立つのはトイレにいく時だけだ。

 これだけはさすがにどうにもならない。



 そんな転生者は、ただただ描き続けていく。

 自分の欲望のままに。

 あふれる妄想を形にしていく。



 右手に筆。

 目の前に紙。

 頭に妄想。

 心に熱狂。



 転生者は止まることなく描き続ける。

 薄い本が作りたいから。



 そんな情熱も数ヶ月ほどすると止まる。

 生活費が尽きるからだ。

 そこで、泣く泣く迷宮へと向かう。

「なんで金がなくなるんだ!」

 馬鹿げた怒りを抱えながら。



「いっそ、レベルをもっと上げるか……」

 そしてもっと多く稼ぐ。

 稼いで執筆時間を多くとる。

「それか、迷宮入りしてる時間を増やすか……」

 単純にそうすれば稼ぎも増える。



 ただ、そうなると一時的に迷宮にいる時間を増やさねばならない。

 レベルをあげるために、稼ぎを増やすために。

 それはそれで本末転倒になってるような気もした。



「とりあえず、稼ぐか」

 結局どうするかは決める事も出来ず。

 この時も迷宮へと入っていく。

 そこに徘徊する怪物を求めて。



「待てええええええええ!」

 迷宮の中で転生者は叫ぶ。

 遭遇した怪物に向かって。

 なぜか逃げだす背中を追って。



 それはそうだろう。

 転生者の鬼気迫る顔と、漂う異様なオーラ。

 それを察した怪物は戦慄をおぼえた。

 こいつはまともに相手をしてはいけないと。

 生存本能が理性に告げていく。



 それに従って怪物は逃げるのだが。

 転生者が逃がすわけもない。

「俺の!

 金!

 稼ぎ!

 生活費!」

 転生者の目には怪物がそううつっていた。



「薄い本の、原材料!」

 間違ってはいないだろう。

 正しいかというと悩ましいが。



 そんな転生者は今日も迷宮を徘徊する。

 泣く泣くレベル上げを実行し。

 少しでも奥へと進み。

 より強い、より稼げる怪物を倒すために。



 やがて転生者は、一か月の迷宮探索で一年分の生活費を確保する。

 そうしてほぼ毎日を執筆作業に費やすようになる。

 そうして出された欲望の塊たる薄い本は、更に知名度をあげ、多くの人間が手にするようになっていく。



 ここから一般大衆にも創作文化がひろまっていく。

 俺もやってみたい、私もやってみようという者が出現していく。

 そうした者達が転生者に合流し、共に迷宮に挑むようになっていく。

 そんな創作仲間との集団を、転生者はサークルと称した。



「この世界でも同人サークルが作れるとは」

 感無量。

 自分に続く者達の姿を見る転生者の目から、一筋の涙がこぼれた。




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