Hello,world! Hello,human! Ⅰ
草木はなく、水はなく、風も吹かない、広大な砂の大地。生の気配を感じさせず、時が止まっているのかと思うほどの暗闇と静寂に包まれた砂漠地帯。そこに、
ドン!
突然の爆音と、天にまで立ち上る砂の柱。
「ごほっ、ごほっ!虚の着地設定が甘いのが王の悪癖だったな……。私としたことが失念していた。」
地面に巨大なクレーターまで残した張本人が、一人呟きながら砂の壁から現れる。空を見ると、それが出てきた裂け目が今まさに閉じようとしてるところであった。
「やはり世界間の移動となると一度きり……常用はできんか。帰還方法はおいおい考えていくとして……」
右を見る。左を見る。暗闇に白く輝く光は行くべき道を指し示さず、どこまでも砂が続くだけ。
「ふむ、困った。人の気配がない。」
「此処は、どこだ?」
遡ること数刻。地下界層 東部統治領域、その外れ。
「……っ!」
激しい戦いの末、東部領主ユルルング・ウーリは膝を突き、周囲を覆っていた水の壁が崩れる。白銀の騎士ジェイクは静かに剣を鞘に納める。
「決着です、“東”。その体では満足に魔力を扱うことすら難しいはずです。」
「何……を、ふざけた、ことを。私を殺さず、勝ったつもりか……?」
ウーリは手に魔力を集め、放とうとする。が、手をかざした瞬間に光は霧散し、それが眼前の騎士へ届くことはなかった。
「さすがは羅針冥公、強敵でした。僕も光剣を抜かざるを得なかった。この剣には治癒不能の効果も付与されています。体への浅い傷ならともかく……」
ジェイクはその視線を、腰に納めた剣からウーリへと移す。
「その左角はもう治ることはないでしょう。あなた方魔族の術の制御の要にして弱点、それを破壊しました。その力はもう僕には通用しない。」
ウーリは敗北の事実を受け入れると同時に、得体のしれない言葉の響きにただ困惑した。
(ラシン……?目の前の男は何を言っている。その後もそうだ。我らをなんと呼称した?)
疑問を抱えながらも、ウーリの思考は直ぐに目の前の男と残された領民に向ける。
「業腹だが、そのようだ。私に貴様は殺せない。……であれば、今すぐこの首を落とし帰還するがいい。」
「!」
「何を驚いている。初めてなわけでもあるまいに。貴様らがジーベルト殿に行ったように、今度は私を殺して武勇を誇るがいい。」
「……誇り高い戦士なのですね。あなたは。」
「貴様の賞賛など受けん。だが……仮にもこれを誇りある行動と称するのなら、民に同じことはしてくれるな。北部はもう遅いだろうが、東部ならばまだ間に合う。」
ジェイクもまた、目の前の女の行動に困惑していた。魔族とは他者を顧みず自らの快楽のままに害をなす連中であると、そう信じて剣を振るってきた。しかしこの魔族は、自身より力の劣るものたちの為に自らの命を差し出せる高潔さがあった。
「僕は、あなたを殺したくはない。」
ウーリは何も返さず、ただ俯いていた。
「我々はとてつもない勘違いをしていたのかもしれない。人類と魔族は分かり合えるはずです。そうすれば、こんなことを行う必要も……ッ!」
瞬間、背後に現れる影。ジェイクの体は咄嗟に後ろに飛び退いた。今までに感じたことのない寒気に、彼は無意識に光剣を抜いていた。
「……王。」
ウーリが顔を上げ、影の主に呟く。
「ウーリさん、無事……ではないけど、よく生きていてくれたね。良かった。」
「魔族の王……!何故、此処に!?」
「何故もなにも、地下界層は僕が作った場所なんだから、そこを行き来できるのは当然でしょ。」
王は平然ととウーリのもとに歩を進める。
「……っ、止まってください。僕は彼女と話がしたい。勿論、あなたとも。あなた方魔族がどういう存在なのか、僕達は知る必要が――」
王は声の方を見向きもせずに、ただ一言
「邪魔。」
「……!!」
ジェイクは突然、自身の体が何十倍も重くなったかのような感覚に襲われる。ただの言葉、その重圧の前に彼は剣を構えることすら出来ず、立っているのがやっとの状態であった。
(これが魔族の王!なんて凄まじい力……!)
「問答無用でいきなり攻めてきて、そんな相手に『あなたのことが知りたいです』なんて言われてもはいわかりましたってなるはずがないでしょ。そんな考えができる理性があるのなら、どうしてこんなことしたのって話だし。」
口調は穏やかながらも、その言葉の端から激しい怒りに満ちていることは明白であった。
「帰ろう、ウーリさん。みんな心配してるよ。」
「ま……って、くださ……っ!まだ、話は……。」
「しつこいね。さっきも言ったけど、僕たちは君らを信用できない。話すことなんて何もないよ。」
王は初めてジェイクを一瞥した後、ウーリの肩に手を置く。次の瞬間二人の姿は消え、ようやく重さから解放されたジェイクはしばらくその場所を見つめていたが、息を整えると先行する仲間たちの下へと歩を進め――
「……なんだ、アレは!?」
ようやく、彼は異変に気付く。東部統治領域の更に向こう、地下界層の中心地帯。遥か遠くに位置するにも関わらずはっきりと見えるひとつの光球。直後、痛いほどの閃光。大地の中心で爆ぜた光は音もなく、衝撃もなく――そしてただのひとつの例外もなく、地下界層を飲み込んだ。
気がつけばとても間が空いていました。
本当に悪い癖ですね、なおしたいです。
速筆能力、欲しいですね…




