第二十四話 ガナルカナルの戦い1
1942年7月20日 アメリカ合衆国上院議会海軍委員会
「そもそもあなた『戦争をしない』と、そう仰っていましたよね?」
共和党のチャールズとかいう上院議員が壇上から偉そうに指摘する。
「太平洋で行われている戦闘は日本側が先制攻撃を行った防衛戦争である事は周知の事実だ」
「その先制攻撃だってあなたが承認したハル・ノートのせいじゃないですか!しかもそれを提案したのはソ連のスパイのハリー・ホワイト財務次官補じゃないですか」
確かにアカの工作に乗せられてハル・ノートを日本側に提示したがお前らだって宣戦布告を承認したじゃないかと心の中で呟く。
だが少なくともスパイだと教えてきたのが日本であるとバレてないのは幸いだ。
「どの様な経緯であれ、日本並びにナチス・ドイツ、イタリアが民主主義と合衆国民の資産と生命に対して脅威であるのは周知の事実だ、ソ連に対してもレンドリースの停止と合衆国内での工作活動の非難を行っている」
「それは国内の善良な市民によるデモをテロと断じ、FBIの国家防衛部を使って弾圧する理由にはならない。どこかの女性下院議員は『女は戦争に行けないから、私は他の誰をも戦争に行かせることができない』と言っていたがそんなに戦争がしたいならばまず大統領から行くべきだ」
よく口の回る奴だ…と思いながら話を続ける。
「大統領令9066号の発効を始め現時点で合衆国は反攻の準備を進めている。更に、私はここに議員諸君に約束しよう。現在ガダルカナル沖にいる連合軍が直ちにソロモンを奪還し、現地の住民を解放すると」
議員達はまだらに歓声を上げ、手を叩き始める。ドーリットルの時だって成功したら士気はかなり上がるとCIAは読んでいたんだ。
ガナルカナルだってあまり有名な島ではないとは言え現在の合衆国を包む厭戦気分を一挙に消し去ってくるだろう。
傍聴席の記者が一斉にペンを走らせる。翌朝の見出しは「ソロモン奪還」になるだろう。チャールズは最後の一撃を放つ。
「大統領、もしガダルカナルで敗北した場合、貴方は責任を取りますか?」
議場が静まり返る。ルーズベルトは一拍置いた。
「私の責任の取り方はこの戦争に勝利する事だけだ」
同日同時刻、アメリカの遥か西方。現地時間午前4時
巡洋艦サンフアンを始めとするアメリカ、オーストラリア海軍合計82隻の艦船の放つ砲弾の雨の下にヒギンズ・ボートが荒波を進んで行く。
合計20000の海兵隊員はその殆どが軍事訓練を終えたばかりの新兵で装備も旧式のM1903、弾薬も僅か10日分しか携帯していないとは言え、その膨大な上陸船艇の群れは見た者に戦闘での連合国の勝利を確信させる規模の物だ。
船艇に乗る海兵隊員達も初めて経験する戦場を前に興奮し、手元の小銃を強く握りしめる。
彼らは知らぬ事であるが相対する日本軍の部隊の大半はミッドウェーの制圧と共にミッドウェー飛行場建設の為、同諸島に派遣されたものの後に米軍によって命名されるソロモン諸島のヘンダーソン飛行場と同名の飛行場、ミッドウェー飛行場の修復が早期に完了した為、同時に進行している米豪分断作戦の支援を目的とする飛行場を建設する為に派遣された第十一設営隊の隊員。
東日本全域から集められた土木関係者や自動車技師や鍛治職人、果ては港湾労働者等から徴用された者である。
警備に当たる第八十四警備隊と呉第三特別陸戦隊も見張に当たる一部の隊員を除き就寝中であった物だから突如行われた艦砲射撃によって頭上で炸裂する砲弾の餌食にならない様壕で隠れる事しか出来ない。
連合軍の上陸船艇は次々と接岸し、兵士や荷物を降ろして行く。
ヘンダーソン飛行場に星条旗が掲げられるまでそう時間は掛からなかった。
この世界ではドーリットル空襲が失敗して以降アメリカは目立つ勝利をしてないので厭戦論が広まってもおかしくはないのかなーと思いつつ…まあその結果史実で90日から60日に短縮された準備期間が更に縮められんですが。
それにしても1942年頃に行われた第77回上院議会でチャールズという名前の上院議員は共和党所属者だけでもニューハンプシャー州、オレゴン州、イリノイ州の4州から当選していたので、確かに英米圏で良くありそうな名前だけどこんなに同じ名前の人いるのか…と驚きました。日本でいう山本とか伊藤みたいな名前なんですかね?
ちなみにサラッとソ連へのレンドリースが打ち切られてますが影響が出始めるのはドニエプル川の戦いやバグラチオン作戦からなので今の所特に影響はありません。




