第二十二話 原子力の目覚め1
下書き2本分も消えた…
1942年7月1日
この日、主任探索レーダー士から装備技術部原子爆弾開発課の技術企画官になった磯部一等海上保安士は、原子爆弾の開発への協力を取り付けた京都の帝大の伏見教授や他の原子爆弾開発課の面々と共に空軍の導入した新司偵に乗って岡山県と鳥取県の間に有る人形峠に来ていた。
伏見「まさか日本にここまでガイザー管が反応する鉱山が有るとは…」
教授の言葉に部下も話し出す。
「良く人形峠で比較的ウラン含有率の高い花崗岩が採れるって知っていましたね」
「学校の学生時代に専門科目の教官が授業の終わりにいろんな事を話してくれてな、『どこぞのテロリストが原爆を作る為にここに行った事が有る』っていう話を思い出したんだ」
「なるほど」
そんな話をしていると伏見教授が不安そうな表情で磯部に話し出す。
伏見教授「しかし、本当にあなた方の原爆は日本が作る唯一人を殺さない原爆になるんですか?」
磯部「ええ、陸軍と海軍は原爆を作れる程のウランを手に入れる事は出来ませんからね、原爆を作れるのはうちだけです。そして我々はこの原爆を抑止力として使う気だ。」
伏見教授「それなら良いですが…」
正直私は、厭戦者として大学の研究室に引き篭もっていたものだから「原爆の開発に関われ」と協力を要請される事は無いと思っていたし、仮に言われても学問が戦争に使われるのは嫌だから断る気であった。しかし、目の前の磯辺とか言う下士官は「相互確証破壊等と言ってアメリカが今開発している原爆を撃たせない為の抑止力として原爆を作るから戦争に使うわけではない」といった。
アメリカも原爆を作るのならせめて双方が使わない制度が作られて欲しいものの目の前で
「これで原爆を作れる」
なんて話している男の姿を見ていると本当に抑止力として使うつもりなのだろうかと疑念が湧いてくる。
そんな事を考えていると載っていた機体は出雲の大社基地に着陸した。
そして翌々日から私達は東郷池の近くに作られた研究施設で原爆の開発を始めた。ウランの濃縮にこそ時間が掛かるものの原爆自体の設計や中性子源、爆薬等の設計はウランが無くても出来る。しかし、磯部という男は普段その研究施設ではなく東京で過ごしている為、何をしているのかが分からない。
同じ原子爆弾開発課に在籍している海上保安官等の話では
「場を盛り上げる事の上手い人」
や
「お調子者」
と評価されておりなんとなく軽い人間の様に思えるが私からは根暗な人間に見えた。とにかく人類の歴史上で最強の兵器を作るからには使い手の事を知っておきたい。
伏見教授がそんな事を考えている頃、磯部は霞ヶ関の海軍省で海軍大臣の嶋田氏と話していた。
磯部「嶋田さん、6航戦の雀翔と瑞勇を海保に譲って頂きたい。」
嶋田「雀翔と瑞勇を?急に来て何の話をするかと思えば…そもそも空母は海軍が運用するから兵器として扱える。なぜ警察機関に過ぎないと主張する海保がそれを求める?」
磯部「海保は設立されたばかりで今は巡視船しきしまの他に徴収した小型船が複数隻しか在籍していません。今後ドーリットル空襲等の用に沿岸部が攻撃された時、従来の船舶では物資の運搬や負傷者の収容に限界があるものの空母ならその飛行甲板を広大な集積空間として使う事が出来ます。あれらの船は機関系統に互換性もありませんし操艦にも問題が有る。海軍としても運用に難があるでしょう?」
嶋田「だが、その空母は……」
確かに機関系統にも操艦にも問題が有る。だが軍艦は海軍の象徴であり鹵獲艦とは言え他の機関に移す事は許されないだろう。
磯部「海軍のプライドが許さない、と?」
嶋田「そういう訳ではないが海軍が使える戦力を失う事は避けたい。」
磯部「そうですか…残念です。では、私はこれで失礼します。」
その言葉と共に磯部は立ち上がった。
嶋田「あぁ、分かった。客様がお帰りだ、見送ってやれ。」
嶋田はそう言って部下を呼んだ。
磯部「そういえば海軍は不正に申請した予算で巨大な軍艦を作った様ですね。そんな事知られたら大蔵省を始めとする中央省庁は勿論、海軍の航空機乗りや将校からも非難されるでしょうね」
嶋田「強請るのか?」
磯部「ただの与太話ですよ。」
磯部の恐喝に嶋田は
「分かった」
と小さな声で言った。
磯部「ありがとうございます。」
嶋田「ただしどう使うかは海軍に教えろ。そして要請があったら可能な限りでも良いから海軍の指揮下に入れ。」
磯部「まあ良いでしょう。」
その言葉と共に磯部は、今度こそ嶋田の呼んだ部下と共に海上保安本庁舎に戻って行った。




