異世界召喚
「健~アンカーを取ってくれ。」
「なんだよ、もう手持ちがないのか?」
「すまん。山頂に付いたらコーヒー淹れてやるよ」
「それより チートで作った蕎麦の種だよ。エアーズロックの上に早く撒きたいぜ」
「我が信仰のため」
「ワガ信仰のために!」
オレはコントローラーを操作して友達にアンカーを手渡す。
オレ達が挑戦をしている岩山はオーストラリアのエアーズロック。
登ることが禁止された聖地であり、危険な絶壁を登ることが出来るのだからいい時代になったものだ。
まあ バーチャルなんだけど、信仰もバーチャル宗教だ。
友達が山頂に最後のアンカーを差し込んでロープを掛ける。
後から俺もロープをよじ登った。
「ここが山頂か~ ヤッホー!」
「ヤッホーってなんだよ? 笑えるぜ」
見渡すとほかの人たちが見える。
記念撮影をする人。
寝転んで日光浴を楽しむ人。
ペットを連れてきて遊ばせている人たち。
山頂にいきなりテレポートしてきた連中だろう。
楽しみ方は人それぞれなのだ。
オレ達は信仰の名のもとに、山頂へ登り、ちょっとだけチートを施した蕎麦の種をまいて祈りをささげるのだ。
「うわゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 助けてくれ健!!」
後ろを振り向くと友達が落ちていく。
アンカーに括りつけてあったはずのロープが外れてものすごいスピードで落ちていく。
このままではGAMEoverだ!!
「死なせるか!!!」
オレはロープを掴んだ。
そして引っ張り上げていく。
「もう少しだ。 もう少し、、頑張るんだ」
グイグイと引き上げていくと友達の肩を掴むことが出来た。
気合物とも引き上げた。
精一杯にコントローラーのボタンを強く押したそのとき。
友達が思いもよらない事を言い出した。
「偽善者め。オレの代わりに落ちやがれ!」
オレの視界が逆転する。
友達がオレを引っ張って落としたのだ。
転げていくオレ。
「目が回る」
減っていくLIFEゲージ、、
辞めてくれよ、デスペナか!
視界がグルグルと回転をする中で走馬灯が駆け抜けた。
それは友達と出会ったころの話だった。
※※※
「1、上を見るな下を見ろ」
「2、カップ麺は1日一つまで」
「3、布団?布団はもう一つのオレの部屋」
「4、みんなでアホになろう」
以下略、、10の戒めとし、それらは10戒めとして石板に記す。
1枚100円
このときオレは宗教にハマっていた。
宗教と言っても高額なお布施が必要な新しいタイプの宗教ではなくて、ネットで誰かが面白半分に作ったくだらない宗教だ。
でも 当時、悩みを抱えていたオレはそんな宗教でも慰められた。
くだらな過ぎて 逆に腹がよじれるほど笑ってしまった。
「この化学の発達した時代に まったく、、、あははは」
悩み事が辛すぎて涙が出てこれなかったせいだろうか、涙腺に痛みを感じた。
「いてて、、生きることは辛い事だから、、」
でも アホみたいなことをやりたい人たちが沢山いて、くだらない事を共感しあえるなら手間もかからずお手頃でいいじゃないかと思った。
「仲間を探さないと」
そうやって出会ったのが今の友達だった。
ハンドルネームは「月の影」だったけど、友達はイジメを受けていた人間で、オレにだけイジメの事について話してくれた人間でもある。
仲良くなって 世界を二人で半分こすればいいという事に気が付いた。
「オレ達だけの世界だ」
「ああ ありがとう 健」
何億、数千万、、数万、、そんな人間は把握できるわけもなく。
オレ達は大抵が5~6人の社会を生きている。
職場・家・コンビニ、、、場面が変わるだけで、つねに5~6人の世界。
じゃあ 数人のいい人達で囲まれてしまえばオレ達は幸せなんじゃないか?
「そう思っていたんだ。落とされるまでは。。。」
うわゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
走馬灯から目が覚めると地面の上で足をじたばたさせている自分に気が付いた。
自分の体を確認した。
「ううわぁぁぁ」
伸びをした。
どうやら生きているようだ。
アイテムも確認してみる。
体に触れるテント一式。
腰に当たるなんちゃって宗教の書かれた石板。
それからゴーグル、、、ゴーグル?
目の前に手をやってもゴーグルの感覚はなく。
むしろオレの手が見えた。
「ゴーグルを掛けていないのか?」
VRゴーグルは ゲーム内で耐えきれないショックを受けたときや外部からの衝撃を受けると解除される仕組みになっている。
だから 部屋の天井が見えるはずなんだ。
でも 目に映っているのは青い空に緑の森と岸壁。
「どうなっているんだ??」
どうなっているんだ?
ガサガサ
茂みが揺れたと思ったら、男たちが現れた。
映画なんかで着ている甲冑を着た男たちやローブを着こんで大きな杖を持ったウィザード風の男たちだ。
彼らはオレを見つけると 驚きながらも少しずつ近づいてきて。
しまいには立ちひっざを付いて懇願してきた。
「どうかお城までいらしてください」
と。
転落したときに酔ってしまったせいだろうか、ここがゲームの延長先なのかどうかもわからない。
クラクラとした感覚が残る頭をさすりながら、男たちについていく事にした。
森を抜けるとお城と城下町が見える。
大きさはそれほどでもないが造りが美しい。
素材も厳選してこだわりぬいて造ったのだろう。
城下町では楽しげに遊ぶ子供たちや洗濯をする女たち。
集合用の巨大な窯でピッザやパンを焼く風景がオープンしたばかりのオンラインゲームさながらの活気だった。
石畳の坂道を登っていくとお城に到着した。
大きなベットのある部屋に通されて、しばらく待つように言われてから体感的に2時間ほど。
城は前に造ったことがあったので興味はあったが金の装飾の施された家具の方には興味はなく、時間を持て余してしまったが、しばらくしてようやく王様が会ってくれる事になった。
「ようこそ。わが城へ」
金と白の木製の扉を開けると部屋には豪華な食事が並べられており、中二階のテラスでは音楽隊が囲むように楽器を奏でだした。
「お初にお目にかかります。私はアイビーと申します。このような場所に招かれて感謝はしておりますが突然の事ゆへ、困惑もしております。
なぜこの場に招かれたのか理由をお聞かせ願えませんか?」
オレはゲームの中では「アイビー」と名乗っている。
「アイビーと申すか?よい名じゃ。
実はな。異世界より特別な力を持つものを召喚する儀式を行ったんじゃ。
この国を救う勇者となってもらうためにな」
「勇者ですか?では 魔王に苦しめられていると?」
「いいや。この世界に魔王はおらん。
広大な未開の地より魔物が溢れだす。
それが街や村を襲うといったところじゃな
予測が難しいだけに 厄介なのじゃよ。
だから力と知恵を貸してほしいという訳じゃ。
返事は急がぬ。今日はアイビー殿のために宴を用意した。
思う存分楽しんでいってくれ かっかか」
現実味はないが料理はうまい、お酒にも酔うことが出来るので現実に近い事には違いないがバーチャル世界に入る前にお酒を飲んでいたかもしれない。
ただ、、 この世界がVRではないと気づいた。
SEXをしたのだ。
そして宴が始まって、ほろ酔いになったころに大臣のすすめで可愛い子を選ぶように勧められた。
何のけなしに直感で選んだのだが、その先は言うまでもないだろう。
「ここは天国だった」
VRでは決して再現できない体験。
ゲームの世界がどんなにリアルになろうとも、生命を誕生させることはできない。
その魔法とゆうべき現象をオレは体験した。
「お名前を教えてください」
女は、、ハニカミながらそう言った。
「アイビー」
「ああ アイビー様。愛しい。愛しい。アイビー様、、」
何度も名前を連呼された。
3日後。
「あなたのお力を示していただきたい」
大臣にオレの力を示すように言われた。
3日間が夢の世界なら、夏休みが終わった瞬間が今だろう。
勇者の力が示せるなら示したいところだがオレにはそんな力はないようだ。
部屋で一人になったときに、思いつく限りのことを試してみたが何の変化も起きなかったんだ。
「まだ 無理だ」
「そうですか・・」
大臣は無言で去っていった。
でも 背中は語っていた。
「力を示せ」
その夜は、女が二人になった。
さらに3日後。
「あなた様のお力をお示しいただきたい。
これだけのもてなしを受けておいて、もしや 無能力という事はありませんな?
もしもそうであれば、牢屋に入ってもらいますぞ」
最初は大臣だけだったのにい兵士二人を携えてやってきた。
武器や杖などもひとしきり用意され、屈強な兵士たちはすでに剣を抜いている。
もう逃げられないぞ。
オレは手に平を前にかざした。
「うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
念力?魔法?手からひねり出せるすべてのものを出してみたけど、汗以外には出てこなかった。
兵士たちはポカーンと口を開けている。
大臣も汗がホホを流れていた。
「精霊だ」
「精霊でございますか?」
「ああ オレはパートナーがいないと力が発揮でなない」
適当な事を言ってみた。
別にお金が必要だ。でもよかったけど「精霊」って無理そうじゃない?
「は、、はは、、 精霊でございますか?かしこまりました。」
「マジか!」
3日後、本当に精霊が用意された。
トンボのような羽を持った小さな精霊を大臣は連れてきたのだ。
でも 精霊だという割には自信がなさそうだ。
「どうした?」
「精霊は私には見えません。
鳥かごには確かに精霊が入っているそうですが」
簡単に言えば一般の人には見えないものらしいし声も聞こえない。
鳥かごを覗き込んでみた。
「私 リーゼよ。よろしく。
ねえ、鳥かごから出して!出してくれたらあなたを助けてあげるわ」
オレは鳥かごの扉を開けてあげるとリーゼは飛び出して自由になった。
「ふふふ じゃぁ 手をかざして」
言われるがままに大臣に向かって手をかざす
すると ものすごい風が飛び出して大臣は吹き飛ばされ後ろにいた兵士たちに抱きかかえられた。
「これがオレの力だ」
大臣はよろめきながらも立ち上がる。
「ははぁ~ 勇者様」
リーゼがオレの周りをクルクルと飛んで回ったが誰も気づいていないようだ。
「約束は守ったわよ。 バイバイ」
リーゼは外へ飛んでいった。
その夜の事だ。
悲鳴が聞こえたと思ったら焦げ臭い匂い。
窓の外ではオレンジ色の炎の光が見えた。
しばらくすると再び叫び声が聞こえてくる。
きやぁぁぁぁぁ!
城に魔物が攻めてきたのだ。
王様や大臣が部屋に入って来てオレの後ろに身を隠した。
魔物が部屋に入ってくる。
キマエラだ。
オレは身構えた。
だか キマエラはオレとは目を合わせることもなく距離を詰めてくる。
怯える王様たちにオレは突き飛ばされてしまい勢い余ってキマエラに抱き着いてしまった。
「あれ?」
何かがおかしい。
なぜ 噛みつかれない?
キマエラの視線もオレではなく遠くを見ているようだった。
「もしかして 魔物にはオレが見えないのか?」
見えないだけじゃない。
抱き着いたのだから触られた感触だってあるだろう。
それもないという事なのか?
王様たちはキマエラから逃げようと壁に張り付くように遠ざかったのだが
キマエラは口から火を吐き出して王様と大臣を燃やすとそのまま部屋から去っていった。
「オレは――オレの能力は魔物に襲われない能力だったんだ」
百鬼夜行のごとく、魔物たちがはいかいをしているがオレだけは襲われない。
オレを癒してくれた女も発見したが、助ける暇もなくその牙に襲われてしまった。
オレは魔物を殴りつける。
しかし 魔物は気づかない。
どんなに殴られても、倒されても再び起き上がるとやっぱり無視されるようだった。
そして夜が明けた。
お城は焼け落ちた。
小さなお城だったが城下町も教会も焼き尽くされていた。
湖は紫色の毒の沼になり、宿屋にはキマイラの魔物が鎮座していた。
「この街はもうダメだ」
城は魔物に占拠されているようだった。
もう ここでは暮らせない。
街をさまよったら小さな女の子を発見して冒険が始まるという音もない。
「うふふ これからどうするの?」
「リーゼじゃないか。逃げたんじゃないのか?」
「アイビーが気になって戻ってきたのよ」
オレは風の精霊と二人きりになってしまった。
装備しているものはテント一式と石板だけだった。
夕暮れになっていずれは夜がやってくるだろう。
「キャンプしようか?」
「いいわね」
オレは城を出て山に登った。
そして今日からキャンプ生活を始めることにした。
※※※ 一か月後
「あの・・一晩泊めていただけませんか?」
キャンプ生活を始めて1ヵ月がたったころ、このキャンプを訪ねてきたものがいた。
「ギルドからの依頼でお城を調査に来たんです」
それは 3人組の男たちだった。
「へぇ 近くに街や村なんてないみたいだったけどギルドからね」
「ええ。長旅でしたよ。早速休ませていただけませんか?」
オレはテントに男たちを招き入れると水を汲みに行くといって離れた。
「あの人達・・」
リーゼが風に乗せてささやいてきた。
「ああ わかってるさ」
水汲みから帰ってくると岩場の影から人が飛び出してきてオレの首元にナイフを突きつけてきた。
「城から逃げてきたのだろうが悪く思うな。
道案内をしてもらうぜ。へへへ」
「じゃぁ 次の朝に出発しよう」
「なんだ? やけに物分かりがいいじゃないか?
城は魔物の巣窟。
お前は最悪の場合、魔の野のエサになるんだぜ」