99波_これまでの事
「うーん、大体は分かったのだけど、まず鈴ちゃん」
「ん」
「言い方というタイミングがあんまりにもあんまりだったと思うわ」
「えぇ……」
「普段から言葉が足りないって言っているでしょう。今回もそれよ。反省しなさい」
「ぐ……」
「で、鈴木君」
「えぅ」
「壁丘養護院の状況は調べたし、あなたの事情的に仕方ない部分はあるけれど、男の子があんまりわんわん泣くものじゃないわ」
「う」
「そんなつもりは無かったのでしょうけど、それでも一応言うのなら、涙を武器にするのはあんまりお勧めしないわね」
「……はい」
その後、僕と籠家さんは、門崎さんに怒られていた。まぁ、それはそう。お店の奥の方とはいえ、ちょっと騒ぎが大きくなってたみたいだし。この怒られる部屋に移動したのも、人が集まって来てすごい事になりかけてたからだし。
……身長と格好だけみたら、籠家さんの方が年上にも見えるんだけど。籠家さん、僕の2つ上だし。たぶん、門崎さんの方が上なんだろうな。まぁ、それはそう。お店を経営するのは、未成年じゃ無理だろうし。
「んもう、鈴ちゃんは本当に。あなたも誘拐組だっていうのは分かってたし、元々人見知りだし、ローズちゃんの事で関わる人が少なかったのは分かるけど! もうちょっと社会を学びなさい!」
「…………」
「こら! 目を逸らさないの! 自覚はあるって事でしょう!」
ん?
「……今回だって、どうせ全員ローズ目当ての奴らばっかだったろ……」
「だからと言って全員切り捨てようとしないの! ちゃんとお友達になってくれる人だっていたかも知れないでしょ!」
ん、んん? え、何? ちょっと待ってほしい。何か気になる事言ってた。門崎さんが。え? 籠家さんが、何て? まぁ、人見知りなのは何となく分かってたけど。
なんか、聞き覚えのある単語が聞こえた。ゆうかいぐみ、って、それってもしかして、籠家さんも、神様に誘拐されて来た、って事? で、ここにいるって事は、もしかしなくても、親に迎えに来てもらえなかった……って、事?
「自称光武なんかを担いでた奴らが上にいる状況でか?」
「んもう、本当にあの小物は! 鈴ちゃんの人見知りと人間不信が悪化してるじゃないのなんて事をしてくれたのかしら!」
すっかり拗ねた感じの籠家さんはまぁ、ともかく。門崎さんまで話がそれてるけど……そうだったの?
って事は。もしかして、僕にとっての籠家さんみたいな人が、光武さんに騙されて、亡くなったか、育扉市から出て行った人達、だった……?
「でもね鈴ちゃん、流石に人生諦めて隠遁するのは早いと思うのよ」
「暮らすのに困らない程度には稼いでる」
「御前試合の常連になれとは言わないけど、他の人と協力攻略するぐらいはいいと思うわ」
「ローズがモンスター諸共召喚獣を焼くから無理だな」
「それを言い出したら終わりじゃないのよ。せっかくローズちゃんと出会えたのだから、ある程度は良い出会いもあると思うわよ?」
「あのクズ親から引き離してくれたことは感謝してるが、あの色々雑な神には碌な期待はしてない」
あ、あぁーたぶんこれそんな感じだ。で、そんな感じの人の1人で、まだ育扉市に残っているのが門崎さんなんだ。あ、うん、それはまぁ確かにこう、頭が上がらないというか、怒られても仕方ないというか、その上で何かあった時に頼りにするのは、それはそう。
……ところで。
僕と籠家さんは、怒られるって事で、正座をさせられてるんだよね。
そして今、門崎さんは籠家さんを怒る方に集中してて、僕の方は全然見てないんだけど。
「私との出会いも悪いって言うの?」
「その後の事を考えるに、そこで出会い系の運は使い切ったんだろ」
「もー本当にこの子は!」
…………そろそろ、足の感覚が無くなってきてる、から。ちょっと、大変な事に、なりそう、なんだけど……な?
幸い、って言うのか、その後様子を見に来た「シエルズメイド」の従業員の人に、僕の足が限界な事を察して貰えて、一旦お説教はストップになった。……籠家さんはけろっとしてたけど。すごいなぁ。
「魔力で強化すれば何も問題ないな」
「鈴ちゃんはもうちょっと素の状態で体を鍛えなさい。ひょろひょろになっちゃうわよ?」
「ちゃんとトレーニングは続けてるし、そもそもこんなに身長はいらなかった」
「あら。私に喧嘩を売っているのかしら」
「限りなく本音で交換できるものならしてほしいんだが?」
……まぁどっちにしろ、ちゃんと身体は鍛えようと思った。身長は伸ばしたいからね。とりあえず、籠家さんぐらいには。
ただそこで仕切り直しになって教えてもらったんだけど、やっぱり聞き間違いとかじゃなくて。籠家さんも、誘拐組の1人だったみたい。ただ僕と違って、籠家さんは、いきなりダンジョンの目の前に放り出されたらしいけど。
「流石に死ぬと思って、行き先も何も考えずに飛び出した直後だったからな。何かズレたんじゃないか」
「えぇ……」
「ちなみに鈴ちゃんの親は、ある意味保護した私達で対処しておいたから、もう大丈夫の筈よ」
……うん。僕は何も気づいてない。
対処、って言った時の門崎さんの顔が、こう、迫力があって黒っぽくみえた事になんて、気付いてない。知らない。うん。