98波_これからの事
結局その後、僕の誘拐未遂まで起きた事で、籠家さんと僕は「シエルズメイド」に、就職する事になった。流石に元々装備屋さんとして有名な上に、今回の事で、最高段階まで進化した宝石竜を召喚できるって分かった門崎さんに喧嘩を売る人はいないみたいだ。
まぁ就職すると言っても、実質名前だけなんだけど。お仕事の内容は、地下の部屋に出てくるダンジョンを攻略して、クリアストーンや素材を集めてくるっていう、今までと変わらない事だし。
「ま、ほとぼりが冷めたら解雇してあげるわ。2人の家も手入れの人を派遣してるから、安心して頂戴」
「助かる」
「ほとぼりが冷めたらだけどねぇ?」
「……」
みたいな会話があったらしいんだけど……うん。まぁ。その。宝石竜を召喚できる師弟、っていうのは、きっと、どんな人も、いつまでだって欲しいんじゃないかな、って気は、するし……。
流石に木透さんは、オーバーフロウが終わったら、端沼支部に戻っていった。それはそう。だって木透さんが配属されてるのは、端沼支部なんだし。……あの家に帰れないのは、ちょっと寂しいけど。
まぁ、門環町に来た時に、木透さんが探索者ギルドの方であれこれした結果、籠家さんは探索者ランクを、ゴールドまで上げてた。僕は試験を受けてないから、ブラックのまま。わたげの事は伝えたけど、そこから、探索者ギルドには近寄ってないからね。そもそも「シエルズメイド」のお店から出られないし。
「誘拐されかけるとは思いませんでした」
「誘拐されてたら、ランクもゴールドにさせられた上に独り立ちも勝手に認証されて、どこかのクランに所属する事になってただろうな」
「うわぁ、迷惑でしかない……」
泥棒かな? と思ったら、僕が目当てだなんて、流石に思わない。……まぁ、門崎さんは予想出来てた事らしいし、誘拐しに来た人は捕まったんだけど。
籠家さんの予想に、絶対に嫌だなぁ、って思いながら返事をしたら。
「……。クランへの所属はともかく、ランク上げと独り立ちは別に良かったんじゃないか?」
何か、思ってなかった事を言われた。
ん? え、あれ? 聞き間違いかな? 独り立ちは良かった、とか聞こえたような?
「何で、独り立ちが? ……はっ、はもんですか!?」
「どうしてそうなる。単に、わたげを隠す必要が無くなったんなら、私を隠れ蓑にする必要もなくなっただろうって話だ」
籠家さんを隠れ蓑に。
そう聞いて、やっと思い出した。そうだった。僕が籠家さんの弟子になれたのは、初心者石でわたげを召喚して、わたげを隠しながら育てる為に、パペットを召喚獣として鍛える事になって。そんな戦い方を教えられるのは、籠家さんぐらいしかいないから、だった。
だったら、確かに。わたげを隠す必要が無くなったのなら、籠家さんの弟子で居続ける必要は、無い。の、かも、知れない。わたげも、そこそこは強くなってきたし。
でも。
「…………僕、お邪魔ですか……?」
「ちょ、待て、何で泣く!?」
「嫌です……僕、籠家さんの弟子がいいです……」
「どうあがいてもまともな生活してない上に召喚獣もじゃじゃ馬なのにか!? 独立した方が絶対いい生活送れると思うから言った訳なんだが!?」
びえ、と、自分でもびっくりするぐらい涙が出たし、籠家さんが慌てるって珍しい状態になってたのも気付かなくて。当然、僕が泣き出したのに慌てた籠家さんが大声を出したから、「シエルズメイド」で働いてる人が様子を見に来て、そっちはそっちで慌ててたらしいんだけど。
……後から考えたら、たぶん、僕は、保護者で面倒を見てくれた籠家さんを、親みたいに見てて。神様に誘拐されて、でも迎えに来てもらえなかったっていうのが、そのまま、親に捨てられた、って思ってて。
だから、「また」親に捨てられる。っていうのが、トラウマになってて。それが刺激された、って事になってた、ん、だと思う。
「嫌ですー! 籠家さんの弟子がいいですー!」
「初対面の時から思ってたが鈴木君は何でそんなに懐いてくるんだ!」
まぁその時は、そんな事は分からない。だからその後門崎さんがやってくるまで、僕は泣いてたし籠家さんは慌ててた。