96波_作業消化
その後? あぁ、まぁ、うん。やっぱりダメだったよ。まぁ、それはそう。闇属性の宝石竜を、真っ暗な夜の、真っ暗な場所で相手にするのは。僕はわたげに、宝石竜を召喚できる人が応援に行くから、ちゃんと空に逃げてるんだよ、って、伝えておいたけど。
何が起こっているのかは全く分からなかったけど、酷い事になってるんだろうなっていう事だけは分かった。だって、百鬼夜行で召喚された召喚獣とモンスターの悲鳴が、すごい事になってたからね。……ちょっと、夢に出そう、って、思ったりもしたし。
「あら? ジャヴィ、そんなに手応えが無かったの? ……もしかして、後輩が大半を蹴散らした後だったのかしら」
なんて、門崎さんは言ってたけど、どうだろう、ね? 百鬼夜行が最初のまま、いや、僕が何もせず放置して、取り巻き召喚を使える召喚獣がたくさん小さい召喚獣を召喚してても、誤差だった気がするんだけどな……?
それはともかく。一応決闘に負けたから、角井さんは百鬼夜行の後をついて行く形で育扉市の外に向かおうとしてたところを、門崎さんの宝石竜、じゃびーに捕まえられて、そのまま一気に育扉市の外へ運ばれていった。真夜中なのに放り出されて、外の人達に迷惑がかからないかな? と思ったんだけど、決闘で追放者が出た時は、それがお知らせされるんだって。
だから、迎えに来る人は絶対に待機してるし、角井さんは、その、トップ攻略者って意味だけじゃなく有名だったみたいだから……その辺、迷惑にはならない、って、門崎さんは言い切ってた。
「ところで鈴木君」
「はい」
「じゃびーじゃないわ。ジャヴィよ」
「じゃ……じゃ、び?」
「ヴィ。日本人がやらない発音ではあるけど、通称とはいえ名前は大事だから、ちゃんと発音して欲しいわ。ほら、やってみて」
「び……ぶ、び?」
「ヴィ」
その間、発音の練習をしていたのは、うん。他にやる事も無かったし。
それから、もう夜中だからって事で、僕はわたげを送還。門崎さんに送ってもらって、「シエルズメイド」のお店に戻って、避難してきた人でいっぱいの筈なのに、借りた時のままの部屋に戻って、朝まで寝てた。
……思ったより疲れてたのと、たくさん魔力を使ったのと、後は、普通に夜遅くだったのとで、起きたら、すっかり太陽が昇ってて、皆動いてたけど。
とはいえ、籠家さんとローズさんだけじゃなく、門崎さんとジャヴィさんも動き始めたから、あっという間にオーバーフロウを起こしたダンジョンはクリアされていったし、外に出てたモンスターはどんどん倒されていったみたいだ。うん。宝石竜ってすごいね。
「ほらやっぱりスペシャルでスーパーな召喚獣を召喚してたじゃないですか! 私の勘は当たるんですよ! いやまぁ籠家さんが「緋薔薇の魔女」だった事とそうなる経緯を考えたらそりゃまぁ隠しますよねとも思う事は思うんですけども!!」
……ちなみに、僕ももうわたげの事を隠さず、わたげに乗せてもらって育扉市の中を、文字通り飛び回っていたりした。人手が、足りないからね……。
探索者ギルドにわたげの事を説明して、黙っててごめんなさい、って言いに行った時の木透さんはそんな感じだったけど。やっぱり籠家さんって前例があった事と、光武さんのやってたダメな事が知れ渡ってる、っていうのは大きかったみたいだ。
本来ならもうちょっとこう、厳しめの罰則があったらしいんだけど、このオーバーフロウの対処に尽力する事、で、実質、何も言わないでくれたから。
「オーバーフロウの例外条件、光武さんは御前試合で優勝してないんだから、無かった事にならないかなぁ……」
「キュゥ? キュー」
「わたげは、広い空を飛ぶの楽しい? そっか。……でも、オーバーフロウが起こると、たくさんの人が家に帰れなくなっちゃうし、色々な物が壊れちゃうからね。怖いし、不安だし、やっぱり、オーバーフロウは起こらない方が、いいと思うんだ」
「キュウ……」
「分かってくれた? ありがとう。ダンジョンにも、広い場所はあるからね。その時は、思いっきり飛んだらいいよ」
「キュァ!」
…………えっ。
僕を乗せて飛ぶのが、楽しい?
いや、それは嬉しいんだけど、確かに飛ぶのは気持ちいのもそうなんだけど、どうしてダンジョンの奥に人も入れるって知って……ローズさんに聞いた? いつの間に。