95波_引っかかり解消
ちょっと予想外の事が起こって、ぼーっとしてたけど。違う。僕は急いでたんだった。そう、わたげが頑張ってくれてるけど、それでもたぶん止めきれてない、百鬼夜行を何とかしなきゃいけないんだ。その為に、強い召喚獣を召喚できる人を探してるんだった。
でも、今ここには門崎さんがいる。なら、門崎さんに説明した方が早いよねって事で、角井さんに決闘を挑まれた事と、決闘には勝ったんだけど、角井さんが一度限りのスキルである「百鬼夜行」を発動したことを説明した。
もちろん、それを留めてる方法については、ちょっと迷ったけど説明した。風属性の宝石竜を召喚できるようになっていて、その子に頑張って貰ってる、って。
「なるほどねぇ。鈴ちゃんが弟子をとったって聞いた時は本当に驚いたし、魔力の量で納得もしていたけれど。本当の理由はそっちだったのね」
そう、門崎さんは納得してくれた。
ん、だけど。
「なら、私も紹介するわ。ジャヴィ、フルサイズで姿を見せて頂戴」
さっき、反町さんを捕まえた時にも呼んだ、たぶん名前。その声に応えて出てきたのは……それこそ、見上げるほど大きな、黒いドラゴンだった。
すごく、ものすごく大きい。近くで見たわけじゃないけど、それこそ、ローズさんよりもっともっと大きい。鱗はつやつやしてるけど、1枚ずつの縁に棘みたいなものがあって、分厚くて、何と言うか、その、色々な意味で、強そう……としか、言葉が出てこない。
え。いや、でも、待って。今、門崎さん、何て言った? ジャヴィ、は、たぶん、この黒いドラゴンの名前。その前。紹介するわ。じゃない。更にその前。私も。……私「も」?
って、事は、まさか。
「…………6人目、って」
「大正解。まぁ私はあの嘘つきな小物が入ってくる前に、魔眼スキルを習得して、装備職人に転職するって決めて『カラーズ』を抜けたから、それであの小物の被害に遭わなかったのだけど」
引っ掛かっては、いたんだ。宝石竜を召喚した人は6人。でも、光武さんが、詐欺みたいなやり方で権利を横取りしたのは5人。じゃあ、あと1人は誰で、どこにいるんだろう? って。被害に遭わなかったのなら、もしかして、まだ無事な宝石竜が、どこかにいるんじゃないかな? って。
「きっと必死になって探していたでしょうね。ま、だからこそ私は絶対に人前ではジャヴィを召喚しなかったし、殊更に魔眼スキルを強調して、そっちに注目を集めていたのだけど」
その、答えは……そういう事、だったらしい。あぁ、なんだ。詳しい筈だし、仲が良い筈だ。だってそれこそ、「緋薔薇の魔女」として籠家さんが有名になる、その前から知り合いだった、って事なんだろうし。
……まぁ。人前では召喚しなかった、ってだけで。誰もいないところなら召喚して、ダンジョンを攻略して、鍛えてたみたいだけど。だって、そうでもないと、こんな大きさにはなってないだろうし。見掛け倒しなら、あの大きなウルフを、胴体に致命傷が入ったとはいえ、一撃で倒すなんて事、出来ないだろうし。
宝石竜。宝石の名前がついたドラゴン。鱗と同じ、それより濃い黒色の目はじっと僕を見ている。……道路ですら狭いから身動きできないだけで、これ、自由に動けたら、僕、めちゃくちゃ匂いをかがれてたんじゃないかな? ってぐらい、視線を感じる……。
「さて。それじゃまずは「百鬼夜行」を壊滅させなくてはね。ジャヴィ、行くわよ」
「えっ」
「あら? 何か不安かしら?」
「あ、いえ、不安は何も無いんですけど……その、バレても、いいんですか?」
宝石竜の召喚主をしているからかなぁ……なんて思っていたら、門崎さんがそんな事を言った。声に応じて、たぶん、闇属性の宝石竜の、じゃびー? さんは、ずるっと自分の影に沈んでいった。あ、なるほど、そういう感じの。じゃあやっぱり、闇属性で良いのかな。
ただ、百鬼夜行は、大きな騒ぎになる。いくら今はあちこち忙しいし、夜中だとは言え、誰からも目撃されない、っていうのは、無理だと思う。僕もわたげを召喚するって決めるまで、わたげの存在をギリギリまで隠したいっていうのと、僕が召喚できる最大戦力だっていうので、大分迷ったし。
けど。門崎さんは、いつものように自信満々の笑顔で、こう言い切った。
「大丈夫よ。だって鈴ちゃんが、いかなる手段でも召喚獣に関する権利は受け渡しできない、ってルールを追加してくれたでしょう? もう誰も私からジャヴィを奪う事は出来ないわ。なら、隠す必要だって無いのよ」
あぁ、そっか。それは、そう。だから籠家さんも、ローズさんに乗って、堂々と動いてるんだし。
そうでもしないと、オーバーフロウで被害が出る、っていうのもあるだろうけど……そうだね。ここで百鬼夜行を止めないと、それこそ、オーバーフロウより大きな被害が出ても、何もおかしくないからね。
……ちょっと、たぶん、今のローズさんより進化してる、闇属性の宝石竜。じゃびー……? さんをぶつけるのは、いくら百鬼夜行であっても、その、オーバーキル、ってやつじゃないかなぁ、なんて、思ったりも、したけど。