表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/100

94波_遭遇と合流

 良かった、って言っていいのか分からないけど、僕はその瞬間、街灯の光の範囲から出た、暗い場所に居た。それと、建物が吹き飛んだだけあって、土埃がすごい事になってた。だから、すぐに気付かれる、って事は無かったんだ。

 それでも、そのままじっとしてたら、見つかるまでは時間の問題。そして、見つかるのはたぶん、ダメだ。だから、僕はそろそろと、崩れた建物から離れる形で、別の建物の影に入ろうとした。

 だって、今の僕にパペットを召喚してる余裕はないし。それも角井さんと、一応は同格の探索者である反町さんを相手に出来る程の数なんて、絶対に無理。それでなくても町の中で、周りを気にしなきゃいけないのに。


「ゥル?」

「どうした? ……何かいるのか?」


 なんて思って、出来れば気付かれる前に、逃げられたらいいな、と思ったんだけど……そう上手くはいかないみたいだった。まぁ、そうだよね。反町さんを乗せた大きなウルフみたいな召喚獣は、ウルフ系だけあって、鼻がいいんだろうし。


「ああん? ガキ? なんでこんなとこに――」


 僕を知らないらしい反町さんに、一瞬、逃げられるかな、と思ったんだけど。大きなウルフが、僕を見て小さく唸った。召喚獣とその主っていう繋がりは、特別だ。だから反町さんは、大きなウルフが言った内容を、ちゃんと聞き取れたんだと思う。

 僕を見る反町さんの顔が、妙な物をみるものから、いいものを見つけた感じの……いや、違うかな。どっちかというと、いじめっ子が、いじめられっ子を見つけた時に近いかな。そんな顔に変わった。


「くっ、あっはっはっは! あの脳筋バカ、獲物に逃げられてんじゃねーかっ! あれだけえっらそうに、『あれは俺の獲物だ』とかなんとか格好つけてた癖に、ざまぁねぇなぁ!!」


 げらげらげら、と、笑っているけど、でも、僕を見る目は動かさない。その辺は、何と言うか、ちゃんと実力がある探索者なんだなぁ……って、思うんだけど。

 でも、その実力の使い方が、全力で間違ってるんだろうなぁ……っていうのも、角井さんとか光武さんとかを見てると、思う訳で……なんて思いながら、少しずつ下がろうとしたんだけど。動こうとするたびに、大きなウルフも動こうとするから、結局動けてない。

 今も、魔力ががくっと減る瞬間はある。だから、わたげは戦ってる。魔力も回復はしてるけど、それでも、がくっと減る瞬間に、僕がパペットを召喚したら。きっと召喚は不発になるし、わたげにも影響があると思う。それに、あの大きなウルフを相手に、10体とか、そんな数のパペットじゃ、壁にもならない。


「まぁだが、ここで俺がお前を捕まえれば、あの脳筋バカは悔しがるだろうなぁ……?」


 にやにや笑いながら、まぁでも反町さんは僕の事を逃がす気には、ならなかったみたいだ。まぁ、それはそうか。角井さんが僕の事を、そんな風に言ってたのなら。僕が籠家さんの弟子だっていうのも、まぁ知ってるだろうし。知ってなくても、「利用価値がある」ぐらいの判断は、出来るだろうし。

 手に持ちっぱなしだった杖を正面に構えるけど、反町さんの笑い顔は変わらない。まぁ、それはそう。だってどう考えたって、この距離なら、僕の召喚より、大きなウルフの攻撃の方が、絶対に速い。

 速い、ん、だけど。



 僕は、ちゃんと見てたし、聞いてた。反町さんと大きなウルフが……何かと戦って(・・・・・・)吹き飛ばされてきた(・・・・・・・・・)、っていうのを。

 って、事は。あの、大きなウルフでも、勝てない相手と(・・・・・・・)戦闘中だった(・・・・・・)って、事の、筈で。

 だから。だから、何とか。理由は何でもいいけど、時間さえ稼げれば。



 その何かが、追いつけるんじゃないかな?

 そんな僕の考えに、正解、と言うように。


「ギャンッ!」

「ぐあっ!?」


 ばくん、と、大きなウルフの身体。その真ん中が、影から飛び出した大きな顎に挟まれた。何か反町さんの足も巻き込まれてるように見えたけど、今のが致命傷だったらしいウルフが消える、その前に転がり落ちてたから、無事ではあったらしい。

 まぁ結構高さがあったウルフの背中から、たぶん受け身も碌に取れずに舗装された道に落ちたから、その、かなり痛いとは思うけど。……。うん。うめき声が聞こえるから、死んでは無いね。大丈夫。


「あら、鈴木君。こんなところにいたのね。探したわよ」

「……門崎さん?」


 ただ、さっきのにやにや顔から、ちょっと気の毒なぐらい真っ青な顔になった反町さんを見ていると、僕の後ろからそんな声がかかった。流石に聞き間違わない。「シエルズメイド」の門崎さんだ。振り返ったら、格好も昼に見たまんまだったし。

 こんなところに、は、僕の台詞のような気もするんだけど、「くそっ!」と叫んで反町さんが逃げ出したらしくて、そっちに視線を戻した。とはいえ、流石に召喚獣が居ない人間なら、パペットでだって捕まえられる。だから一応僕は、パペットを召喚しようとしたんだけど。


「ダメよ。逃がさない。ジャヴィ、捕まえて。蝶がまた飛んでいけるように、丁寧にね」


 門崎さんの指示の方が早かったし、その指示で、反町さんが、ぱっと姿を消したから、ちょっと何が起こったのか分からなかった。

 うん? 何がどうなってるのかな……?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ