93波_騒がしさの要因
門環町に入ったら、道の両脇に建物が並んで、街灯がついてる。だから明るかったんだし、町に入ったのはすぐ分かる。明るいとちょっとほっとするね。かなり疲れてるし、そもそも夜遅い時間になってるから、眠気覚ましにもなるし。
それで、と周りを見て、見回りをしている筈の探索者ギルドの人を探す、けど……誰もいない。町の端っことはいえ、普段なら夜でも車が通ってる筈なんだけどな。少なくとも、「シエルズメイド」の人達から、僕が聞いた話だと。
やっぱりオーバーフロウが起こったから、避難している人が多いから、見回りの人に迷惑をかけるのは良くないから、後は単純に外に近い場所は怖いから。そんな感じで、建物の中で静かにしてる人が多いって事かな。
「……どうしよう」
見回りの人も見当たらない、とは、思ってなかった。少なくとも、特殊スキルの百鬼夜行が使われた、っていうのは伝えなきゃ、と思ってたのもあるし。見回りをしてる人は、見回りが出来る……もしオーバーフロウで出てきて、警戒をすり抜けたモンスターと遭遇しても対処出来る、って事で、かなり強い召喚獣がいる筈だから。
だから、僕自身の安全を確保する、って意味だと、見回りの人に守ってもらうのが、一番早くて確実、だと思った。たぶんそこまで間違ってない、と思う。けど、その見回りの人がいない。
いやまぁ、門環町は大きい。それに、何度でも言うけど、まだオーバーフロウの最中だ。だから人手は足りてないだろうし、それなら見回りに回せる人数は少ないし、召喚獣は車より速く移動できるから、今見当たらなくてもおかしくない……のかもしれない。
「なら……僕が、お店か、ギルドに、行かないと……」
ブレス程ではないけど、魔力が減る感覚がある。って事は、わたげは今も戦ってるって事だ。思っていたよりもわたげが有利な戦いになってるみたいだけど、それでも角井さんは、育扉市のトップ探索者だった。って事は、実力は本物だ。なら、今まで倒して来たモンスターの数も、きっとずっと多い。
それを、わたげだけで全部倒すのは、無理。だから僕自身の安全を確保するのと同時に、一緒に戦ってくれる人を探しに来た、っていうのもある。だって、見回りの人は強い召喚獣がいる筈だし。
でも、しばらく待ってみても、全然人の気配はしない。見回りをしてない、って事ではない筈だから、これは……どこかで、騒動が、起きてる、とか?
「……百鬼夜行と、どっちが大変かな……」
と思ったけど、人がいないなら、僕が人のいる場所にいくしかない。もし他にも何かが起こっているなら、その対処で忙しいかもしれないけど。でも、百鬼夜行も、絶対に大変な事だし。
わたげも頑張ってくれているけど、それはそれで、知らせないっていうのは、違うと思うし。流石に、わたげだけで百鬼夜行を全滅させるのは、無理だと思うし。主に、僕の魔力的な問題で。
またごそっと魔力が減った感じがあるのに、深呼吸をして。とりあえず、ギルドに行こうと決めて、街灯のすぐ下から走り出した。もちろん、全力疾走とは程遠い、走るって言うか、速足ぐらいの速度だったけど。
――ドッッガァァアア!!
「わっ!?」
ただ、走り(?)だしてすぐ、近くの建物から爆発が起こった……んじゃない、なんか、こう、吹き飛んだ? のかな? もしくは、何かが突き抜けてきた?
と、ともかく。街灯の光からちょっと外れたところで、僕は止まっちゃったんだけど。一応その、たぶん、建物を吹き飛ばして飛んできた何かは避けた。避けたというか、当たらなかったというか。
でも、あの、建物を吹き飛ばしたって事は、周辺被害……なんて思っていたら、吹き飛ばされたらしい何かの方向から、声が聞こえた。
「っちぃ! あのクソアマ、なんつーもんを隠し持ってやがんだ!?」
「ゥグルルル……!」
声というか、怒鳴り声と唸り声というか……。
その声がたぶん、聞き間違えじゃなければ、反町さん。角井さんと同じく、光武さんのパーティメンバーだった、動物系の召喚獣をたくさん召喚していた人だ。
……同じパーティメンバーだった事と、今、このタイミングで、門環町で問題を起こしてる事。それはたぶん、偶然じゃない。というか、偶然だったら逆に怖い。
って事は……もしかしなくても、僕は危ないんじゃ……。