92波_夜闇の中の戦い
わたげが、特殊スキル百鬼夜行で召喚された召喚獣と戦っている間に、僕は、散歩よりはちょっと早い、ぐらいの速さで、門環町の方へ移動していた。まぁそうしている間にも時々、ごそっと魔力を持って行かれる感覚があるから、わたげがかなり全力で戦ってるんだけど。
まぁでも、やられてしまうよりはずっといい。いい加減距離を稼げたのか、それとも別の理由があるのか、百鬼夜行で召喚された召喚獣の悲鳴もあんまり聞こえなくなってきたから、この魔力が減る感じだけがわたげの生きてる証拠になりつつあるし。
でもこうやって、外の、普通の空間で召喚したら、普段のダンジョン探索が便利だったんだなぁって思う。だって、攻略準備室に居る限りは安全だし、召喚獣がどれだけ早く移動しても、見失う事は無いんだし。
「わたげには、一応、安全第一で、と、僕は安全な場所に移動する、って、伝えたから……大丈夫、だと、思うんだけど……」
ただ、うん。もうちょっと、体は鍛えようと思った。わたげの全力を支えるのが精一杯っていうのもどうかと思うし、わたげが頑張ってる時に、こんな、休み休みでゆっくりしか逃げられないっていうのは、やっぱりダメだろうし。
というか、あぁ、そっか。だから籠家さんは、あんな力があったんだ。僕が体を鍛えたいって言った時、ちょっと古いけど、たくさん使われた感じのトレーニング道具がさっと出てきたのは、何でだろうと思ってたんだけど。
今なら、分かる。知ってたんだ。オーバーフロウが起こったら、召喚獣だけじゃなくって、召喚主もたくさん動かなきゃいけないっていうのを。それも、僕は他の人に運んでもらったけど、籠家さんはローズさんに乗って移動して、あちこちで降りて、あの暑い中でローズさんの全力を支援して、ってしてたんだろうし。
「すごい、なぁ……」
息が切れる。一度立ち止まって呼吸を整える。移動だけじゃこうはならないから、これは魔力が少なくなってるせいだ。やっぱり、わたげが全力で戦うと、ちょっと支えきれないな。
それでも、だいぶ門環町の近くまで来た。遠くに見えてた灯りは、信号機だったみたいだ。それが分かるぐらいには来れた。そして今はオーバーフロウの最中だから、念の為、町の周りを見回ってくれているギルド職員の人がいる筈だ。
深呼吸をしながら周りを見る。とりあえず、それっぽい姿は見えない。後ろを見る。……あ、魔力がまた持って行かれるのと同時に、緑色の光が見えた。わたげ、ブレス使ったんだ。上から下に、角度をつけてたから、地面に落とされたって訳じゃなさそう。たぶん、まだ大丈夫。
「……そう、言えば。あんまりこう、遠距離攻撃を使う感じの召喚獣は、いなかったような……」
鬼系の召喚獣の強みは、大きな体と強い力。それを生かす接近戦。少々の攻撃じゃ足止めにもならない上に、相手の攻撃は防御ごと叩き潰される。ダンジョンの中で、モンスターとして出てきた時は本当に強かったから、知ってる。
でも逆に、細かい事が苦手で、あんまり器用な事は出来ない。得意分野と不得意分野が、かなりはっきり分かれてるし、分かりやすい。まぁ、パペットで攻略する時は、その接近戦しか出来なかったから、大変だったんだけど。
で。遠距離攻撃っていうのは、どうしたって器用さが必要になる。遠く離れたところに狙いをつけるっていうのは、手元の微調節が本当に大事だから。それでも、パペットを投げてきた時みたいに、やろうと思えば出来なくはないんだろうけど。
「…………。わたげが無事なら、それが一番だよね。うん」
しょうがないね。戦いってそういうものだし。だからこそ、宝石竜はとっても強いって話になるんだし。それこそ、初心者にはあまりにもどうしようもなさすぎて、細かい情報を見せたら心が折れてダンジョンに行けなくなる人が出てくるぐらいに。
うん。籠家さんがドラゴンに詳しいなって思った時に何かつぶやいてた気がして、改めて木透さんに聞いてみたんだよ。初心者には、あんまりにも強すぎる相手の情報は見せないようにしてるんだって。
まぁ、僕も、わたげと同格の相手が出て来たらものすごく大変だろうし。正直、ローズさんと戦うなんて事になったら、どうしようもない。わたげもたぶん、逃げ回れたら上出来、なんじゃないかな。あれが本物、って考えたら、まぁ。