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9波_ダンジョンの場所と最初の部屋

 押し切られた。


「……真面目にクリア直後の納品なんかしなきゃよかった……」


 深々とため息を吐く私の手には看板がある。私ではなく他の人にしろと言っているだけなのに、何故あんな捨てられそうな子犬のような顔をするのか。

 掴まれ続けていた腕の感覚がようやく元に戻る頃に、召喚部屋に行っていた木透さんと鈴木君が戻って来た。鈴木君は……あぁ、うん。首を傾げて腑に落ちない顔をしている。気持ちは分かる。

 召喚獣を召喚する時は魔法陣が現れて光るんだが、これが結構派手なんだよな。だが出てくるのは平均大人サイズのマネキンもしくはデッサン人形。指示を出せば動くが、それ以外は無機物らしくピクリとも動かずじっとしているから。


「ではこれが1級ダンジョンの座標です!」

「……思ったより近いな」

「どうします? タクシー呼ぶなら経費にしますけど」

「いや、歩いていく」

「分かりました! それでは籠家さん、よろしくお願いします! 鈴木君、いってらっしゃい!」

「い、いってきます……!」


 服の影で音もなくため息をつきつつ、端沼支部を後にする。その後ろをちょこちょこと鈴木君がついて来る足音が聞こえるが、本当にどうしてこうなったんだろうなぁ……。大体は木透さんの押しの強さのせいなんだが。

 1級ダンジョンがある座標は扉広場と呼ばれる場所の1つで、探索者向けに整備された、ダンジョンへ挑みやすくするための場所だ。広場と言いつつその広さには幅があり、遊具が1つか2つ程度の公園ぐらいのものもある。

 その設置間隔も公園のものに近く、何が言いたいかと言うと、近くにある場所なら歩いて10分もかからないって事だ。


「わぁ……!」


 後ろから、テンションが一段高くなった鈴木君の声が聞こえる。どうやら扉広場を見るのは初めてだったらしい。まぁそこここにあるとはいえ、用事が無ければ目にする事は無いか。

 だが、何故そこで私の服の裾を掴むのか。いや、ふらふらとどこかへ行かれるよりはマシだけど。そしてこれ見よがしに大きな看板を担いでいるから、周りからの視線もいつもと違い、納得と疑問が半々だ。

 まぁ干渉されないなら平和でいいか。と、好奇心が勝って周りの視線に気付いていない鈴木君を連れて、1つの扉の前に移動する。そして一応手順として扉の難易度を測定させて、扉の中へと入った。……後ろで扉が勝手に閉まった事にちょっと驚いていた鈴木君だが、その扉はいつでも開けられる。大丈夫だ。


「で、ここが攻略準備室だ」

「わぁ……」


 空気としては、コンクリートが打ちっぱなしの部屋に近い。何もない、だだっ広いだけの部屋だからな。テンションが下がるのも分かる。通路が1つあるが、探索者は基本的に、あの向こうへは行かないし。


「攻略を自分でやらないと「初心者石」は出てこないから、基本的に私は見学と解説に徹する。質問があったら聞けばいいけど、召喚獣への指示出しは自分で考える事。ここまではいい?」

「はい!」

「よし。ならここで持ち物確認。召喚媒体は持ってる?」

「この杖です!」


 鈴木君が掲げるのは、大事そうに持っていたシンプルな杖だ。端沼支部でのパペット召喚に使ったのだろう、ギルドからの支給品。何の効果もない、本当に召喚する事が出来るだけのものだ。

 まぁ今回はそれで何の問題も無い。なので、私も特に効果のない普段使いの杖をベルトから抜いた。


「ギルドで聞いたと思うけど、この攻略準備室は既にダンジョンの中って扱いになる。だから召喚獣の召喚も出来る。ここで召喚獣を召喚して、あっちの通路からダンジョンへ挑んでもらう訳だ。――【サモン:パペット】」


 杖を奥の壁に向けて召喚キーワードを口に出すと、白く光る魔法陣が現れた。その中に光が集まり、控えめに弾ければ、恐らくは鈴木君が召喚したものと寸分変わらない、シンプルな人形を1体召喚されている。

 しかし多分鈴木君のパペットと違い、私が召喚した方は、その場ですっと礼の仕草を取って見せた。よろしく、と言いつつ担いでいた看板を差し出すと、自分から近寄って来て受け取る。

 さて、と鈴木君を振り返ると……目を真ん丸に見開いていた。そんなに驚く事か?


「…………えっ。パペット、ですよね?」

「パペットだな」

「え、でも、礼して、自分から動い……???」


 ちなみに今は看板を掲げたり『てすてす。テステス』という文字を表示させたりしている。こっちに気付くと、ひらひらと手を振ったりしている。


「あっ、もしかして籠家さんが全部指示を」

「出してないが」

「えっ???」


 明らかに人間っぽいというか、生き物っぽい仕草をするパペットに鈴木君は混乱しているようだ。……ちょっと考えれば分かると思うんだが。


「鈴木君」

「あっ、はい」

「講習でも言っていたと思うが、召喚獣というのは成長する。だがそれは別に、戦って強くなることだけじゃない」

「えっ?」

「例えば、召喚主が相談している間は準備運動をして待っていろとか。召喚されたら一礼しろとか。そういう召喚主からの指示を受けて実行して、その蓄積も成長って言うんだ」

「…………、あっ」


 そこでようやく納得がいったらしく、こくこくこく、と高速で頷く鈴木君。そしてその会話に気付いたのか、私のパペットが『褒められました? 今自分褒められました?』と看板に表示してぶんぶん振っている。何で一言も喋ってないのにこんなにうるさいのか。


「……あと、パペットは召喚獣の中でもだいぶ特殊なんだ。だから、基本は1個体なのにも関わらず、複数体同時召喚できる」

「あっ、はい。それは聞きました。えっと……召喚獣は倒されると、召喚されてからそこまでの記憶を失いますけど、複数体同時召喚しておけば、召喚しなおさなくても記憶が引き継がれるって」

「ついでに言えば、1体がやられた時点で別の1体を送還すれば記憶は失われない。そこから再召喚すればいい」

「そうなんですね!」

「……まぁそういう特徴のせいか、1個体の筈なのに、複数の個性もしくは人格ってものが出来てきたりするんだが。今回は特に賑やかなのが来たな」

「特に賑やか……あー」


 看板をぶんぶん振るわ、目まぐるしく看板の文字を変えるわ、無駄にさかさか動くわで本当に動きがうるさい。他はもうちょっと大人しいんだけどな。再召喚するか?


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