89波_決闘、決着
これは、後で分かった事なんだけど。
角井さん、というか、『グリッターズ』の人達、最強パーティーって呼ばれてた5人の、リーダーの光武さん以外の4人は。初心者石を集める詐欺みたいな方法で召喚獣を増やしてたらしいんだ。
なおかつ、召喚獣が居る状態で召喚すると、同系統の召喚獣が出てきやすいらしい、っていうのも、ほぼ確定。だから御前試合の時みたいに、それぞれ系統が同じ召喚獣が並んでた、って事みたい。
なんでそんな事を確認したかって言うと、多いな、と思ってたんだよね。角井さんの召喚獣が。だって召喚は10分に1回。角井さんは1体ずつの召喚だけど、それでも……3時間も決闘が続いてたんだから。
「……。なんか、倒すまでに時間がかからなくなってきた?」
周りを見ても、すっかり夜になっている。決闘フィールドの薄青く光る境界線の向こうに、星が光っていた。すぐ近くに門環町があるから、そんなに数が多くなかったけど。
1日中動いていたから、正直、とても眠いし、しんどい。ダンジョン攻略の時は、椅子に座ったりストレッチをしたりしていたから、立ちっぱなしではなかったし。パペットがある程度自分で判断して動けるぐらいに成長していて良かった。
それでも、決闘は続いてる。パペットも戦ってる。だったら、召喚主の僕が眠ってしまう訳にはいかない。それに、敗北条件に気絶があるからね。眠ってしまって、それが気絶にカウントされたら、せっかくここまで戦ってきたのが無駄になっちゃう。
「まぁ、召喚獣がたくさんいても、どれだけ鍛えられるかは別の話だし……」
というか、パペットとわたげしか召喚獣がいない僕だって、既にいっぱいいっぱいになりつつあるというか、パペットを鍛えるのがちょっと大変になってきてる。主にわたげが強すぎて、わたげに合わせるとパペットが付いていけなくなるし、パペットに合わせたらわたげの訓練にならないから。
だから、魔力的な意味でも、これ以上召喚獣を増やすつもりは無いし、たぶん増やせない。そもそも、召喚石って普通にしてたらまず出て来ないみたいだし。……召喚獣は、送還したら疲れも取れる筈だから、どれだけ連続でダンジョンを攻略できるかっていうのは、召喚主側の問題の筈なんだよなぁ。
それでも、深呼吸をしたり、目をこすったりして、次の召喚タイミングを知らせるカウントダウンがゼロになるのを待ってたんだけど。
〈――角井研の召喚可能召喚獣が存在しない為、決闘終了。勝者、壁丘鈴木。敗者である角井研は、速やかに育扉市から退去する事〉
次の召喚タイミング。10分に1度のそれが来たところで、神様の声が聞こえた。
ん? と思ったんだけど、聞き間違えでは無かったらしくて、勝手にパペットが送還されていった。その後で、決闘フィールドを示す薄い青色の幕みたいなものも消えていく。
……いや、確かに、戦闘の音が止まるのが早くなってきたなぁと思ったけど……終わり? あれ? いや、確かに、勝つつもりではあったけど、かなり厳しいというか、勝率そのものは低いつもりだったんだけどな……?
「……。召喚タイミング、限定しておいて良かったなぁ」
まぁもっと言うなら、角井さんが付け足した「必ず同じ数の召喚獣を召喚する事」っていうのが首を絞めたんだろうけど。流石に、ここまで召喚した召喚獣を、全部一度に召喚されてたら負けてただろうし。
戦力の逐次投入、っていうのが、あんまり良くないって言われる理由で、連携の力がすごいって言われる理由だよね。僕がやったのは、徹底した各個撃破。それだけなんだから。もちろん、それだけの間戦闘を継続できる戦力、パペットの数を揃え続けられる、魔力があってこそなんだけど。
そう。結局僕がやったのは、魔力の量によるゴリ押しだ。ものすごい力業だ。そしてそれは、決してあんまり褒められた方法じゃない。だって僕が努力して掴み取ったものではないから。最初から持っていたものを振り回しただけだから。それは、絶対、忘れちゃいけない。
ただ、それはそれ、として。
「今更だけど、勝手に角井さんを追い出して良かったのかなぁ……」
一応、育扉市の代表をやってた、最強パーティの1人なんだよね。
そのリーダーの光武さんが、その、控えめに言って大変な事になったから、たぶんここから先、代表扱いは出来ないだろうけど。