85波_決闘条件
僕が決闘を受けた。だからそれが目的だった以上は当然なんだろうけど、「シエルズメイド」の探索者の人達は、すっかり角井さんの意識から外れたみたいだ。何か、ぼんやり青く光るボールみたいなものを取り出して、上に高く投げたら、決闘フィールドが展開されたのは驚いたけど。
その後も、じっと僕の事を見てて、他には視線も向けない。……全員大人だから、きっと僕が今からするのが「時間稼ぎ」だっていうのは分かってくれる筈。もちろん、僕が勝てるなんて思ってないだろうし。
正直、わたげを召喚しても勝てるかどうかは分からない。だって、戦う力は本物だろうから。宝石竜と戦った経験もあるだろうし。わたげはまだ経験不足だし、そもそも僕の魔力が持たない。短期決戦で勝てる相手じゃない。
「ルール1。召喚は10分に1回とし、回数の引継ぎは無し」
「追加。必ず最初に召喚したものと同じ数の召喚獣を召喚する事。残り召喚獣の数が足りない場合は除く」
「……僕に決めさせてくれるんじゃないんですか?」
「口を出さないとは言っていない。嫌なら拒否しろ。その分だけこちらがルールを決める権利を得るがな」
と言う訳で、時間を稼ぐ為にルールを決めようと思ったんだけど……これ、実際拒否できない奴だよね。なんというか、勝つのが好きというより、弱い者いじめが好きなんじゃないかって気がしてきた。
たぶんにやにや笑っているらしい角井さんを見て、これは実質ルールを捻じ曲げられかねない、っていうのをはっきり感じる。いやまぁ、今の追加ルールは別に構わないというか、それならそれでやりようはあるんだけど……。
「……そうですか。では、ルール2。決着は魔力切れによる気絶か、召喚獣の全滅によってのみつくものとする」
「ほう?」
「何か問題ありますか?」
「いいや、続けろ」
うん。やっぱり何というか、僕が自分の逃げ道を断つ方向でのルールだとそのまま通してくれるみたいだ。まぁ、時間を稼ぎたいんだからそれでいいんだけど。……自分の逃げ道も無くなった、とは、少しも思って無さそうだなぁ。
「ルール3。場に出ている召喚獣が全滅するまで召喚主へ直接危害は加えられずないものとする。御前試合に倣い、場に召喚獣が1体でも残っていた場合は破れない結界を展開し、召喚主はその中にいるものとする」
「……小癪だな。御前試合を引き合いに出すか」
「痛いのは嫌ですし……」
そして、僕に直接攻撃できる「穴」が残っているルールでも普通に通してくれる、と。まぁ、そうだね。きっとパペットを全滅させれば直接殴れるって思ってるんだろうし。実際、普通なら間違ってない。
「ルール4。以上のルールに抵触した場合、即座に反則負け」
「いいだろう。10分毎の召喚可能タイミングは自動通知が行われるものとし、戦闘倍率は無しだ」
何かさらっと追加した。……まぁいいけど。召喚獣がいる限り、召喚主には攻撃できない。それは確定したんだから。それに、召喚できるタイミングを、神様もしくは決闘フィールドを作ったあの道具が教えてくれるなら、それは正確だろうし、助かる。
「では賭けるものを決めるとしよう。ゴールド角井はブラック壁丘に対し、その身柄の一切の自由を要求する」
まぁその賭けるものが予想通りというか、予想の斜め下だったのはともかく。
……こういう人が相手なんだったら、まぁ、その。
「ブラック壁丘は、ゴールド角井に対し。――育扉市からの恒久的な退去を望みます」
容赦とか、手加減とか、そういう事は、しなくていいかなって。
角井さんは僕の身柄を要求した。つまり僕が角井さんに、一生逆らえなくなるって事だ。
だったら、角井さんが一生育扉市に踏み入れられなくなるぐらいの事を要求しても、同じ一生っていう期間で相手の事を制限するんだから、釣り合ってるよね。