84波_振り絞った覚悟
まさか、足止めのパペットを遠距離攻撃の手段にしてくるなんて思ってない。しかもこれが結構いい狙いで飛んでくる。もう逃げるどころじゃなくて、回避で精一杯だ。召喚獣も元々疲れてるところに無茶をして、だいぶしんどそうだし。
ただ、パペットは投げられてきてるけど、足止めが失敗したって訳じゃないんだ。むしろ、足止めはしっかり成功してる。改めて見た大きな鬼の召喚獣は、腰から下がパペットに埋まってるような状態だ。
どうやら他にも何体か鬼系の召喚獣がいるみたいで、かなりわちゃわちゃしていた。それでも全体は動いてないし、投げられるパペットも、端っこの方でお互いにしがみつく力がどうしても弱くなるあたりを、力づくで引き剥がして、って感じだし。
「……諦める気は、微塵も無さそう、ですね……」
「だなぁ……」
「すまん相談なら早めに頼む、そろそろ避けきれねぇ!」
「つってもどうしろと?」
「鈴木君のパペット追加しても、たぶんボーリングになるだけだぞ。こっちがピンな」
「あれと正面戦闘は無理中の無理だし」
「店長と連絡つかん時点で大分詰み」
それでも、追い詰められているのは僕らの方で。狙いは僕で。僕自身は最悪でも殺されはしないだろうけど、周りの人はそうではなくて。
「……ごめんなさい」
「え?」
「鈴木君?」
それは、嫌だって、思ったから。
「【サモン:パペット】!」
「っちょ、鈴木君!?」
「今降りたら……っ!」
追加ですぐ近くにパペットを召喚して、荷物ごと僕を固定してくれていた蔦を剥がして、地面に落ちる。大丈夫、受け身は取れた。体を鍛える一環で教えてもらって、そのままパペットの訓練も兼ねて、練習しておいて良かった。
「――ブラック、壁丘、はっ!」
まぁ、受け身を取ったって言っても、右に左に動き回る大きな召喚獣の背中から転がり落ちたんだから、痛いのは痛い。蔦を剥がしてくれたパペットもかばってくれたけど、それでも痛い。
けど。今、ここでは。しっかり届くように、聞き間違いなんてさせないように、全力で大声を出さなきゃいけない。僕を守ろうと動いてくれた人達を、守る為には。
「ゴールド角井に――決闘を、申し込みます!!」
これしか、ないじゃないか。
決闘を申し込む。その宣言と共に、パペットに指示を出して足止めを止めて、僕の前に並べた。もちろんさっきまでの、数対個の力って感じの戦闘で、無事なパペットはかなり少ない。
ただ無事に宣言は聞こえたみたいで、そうやって並んだパペットに対する追撃は無かった。後ろからは、僕が転げ落ちてしばらくは悲鳴みたいな感じで僕を止めようとする声が聞こえてたけど、それも止まってる。
「いいだろう。自ら前に出てきた度胸に免じて、決闘フィールドの構築までは待った上でルールはそちらに決めさせてやる」
そしてわざわざ自分の足で追いついてきたらしい角井さんは、疲れた様子なんか欠片も見せず、余裕たっぷりにそう言った。決闘フィールドは、流石に作るのに時間も人手もいるからね。待ってくれるのは助かる。
それに、ちゃんとした決闘だったら僕は逃げられない。だから待つし、ルールもこっちが決めていいって言ったんだろう。けど、当たり前の話なんだけど、僕が……一番低い探索者ランクの僕が決闘を挑んだって事は、角井さんだって逃げられない。
だって決闘の元は模擬戦で、探索者ランクが下の人から上の人に挑む場合は、拒否できないから。その上で、決闘フィールドを作るには、僕だけじゃ無理だ。どうしたってある程度以上の組織の力を借りなきゃいけない。
「……決闘フィールドを作る相手と、立会人も指定させてもらえますか?」
「ふん。保険のつもりか? 小賢しい。俺が決闘フィールドを張り、神に審判をゆだねる事が出来る道具を持っている。召喚獣の大きさと数に合わせて内部の大きさが変わる特製のものがな。故に不要だ」
決闘フィールドを「シエルズメイド」に作ってもらって、立会人に門崎さんを指定する、って事で、門崎さんへの妨害も何とか出来ないかと思ったけど、そうは上手くいかないみたいだ。まぁでも、神様が審判をしてくれるなら、ルールをちゃんと決めれば何とかなるかな。
問題は、僕が負けた場合、僕っていう人質付きで籠家さんが角井さんと戦う事になるんだろうな、って事なんだけど……その、まぁうん。正直、籠家さんなら、僕に本当に手が出る前に決着をつけてもおかしくないし、何なら僕がダメージを肩代わりする事になってても、痛いのは一瞬だけだとかって、遠慮なく攻撃しそうな気がするし……。
……後は、その、まぁ、今並んでる「大きな鬼系召喚獣との戦闘」の経験を得たパペットを送還するのは別にいいよね。だってここまでの足止め戦闘と、これからの決闘は違うものだし……。