82波_動機の同類
よく分からない話を持ってこられたけど、僕はそれを断って。そのまま「シエルズメイド」のお店に戻る人達に合流させてもらって、門環町に戻った。流石に、夕方だからね。お店は避難所になってるし、お邪魔になるかなと思ったけど、一番安心できるから。
籠家さんが頑張ったからか、それとも人が集まっていたからか、門環町の周りにはモンスターは残って無かった。まぁ、門環町から育扉市全体に人が広がっていった形になるだろうから、出発地点の周りが一番早く平和になるよね。
だから安心して帰って行ったんだ。どうも話を聞いてる限り、籠家さんとローズさんは戦いを続けてるみたいだけど……今回で、育扉市は、どれくらい焼け焦げになっちゃったんだろうなぁ……。
「あれ? 誰かいる」
「は?」
「うわでっか……」
「待って、あれ召喚獣じゃない?」
たぶんあれは籠家さんじゃなくって、籠家さんに色々補助してもらったローズさんがやってるんだろうなぁ……って感じの炎の波、どこかの避難所から撮影されたらしい動画を思い出しながらそんな事を思っていたら、一緒に大きな召喚獣の背中に乗ってた人達が、何かに気付いた。
僕もその声を聞いて、召喚獣が進む先に目を向けたんだけど。確かに何か、大きい人みたいなのが、門環町の入口を塞ぐみたいにして仁王立ちしてる。ただ、人にしてはシルエットがおかしいというか……夕日が正面から差し込んでるから影しか見えないけど、あれってたぶん、角がある、よね?
で、あの大きさって事は……もしかしなくても、大鬼とか、そういう系統の召喚獣の筈、で。
「鈴木君、隠れて」
「――「緋薔薇の魔女」の弟子はいるか!!」
「げっ」
「待ち伏せまでするかよ……」
まさか、って思った途端に響く、大きな声。その直前で先に気付いたらしい探索者の人に隠されたし、その後もばふぼふと袋に入った荷物をいっぱい乗せられたから、たぶん何か連絡が来てたんだと思う。
だって、誰かが言った通り、待ち伏せしてたのは、角井さんだ。そんな大きな声出せたんだ? っていうのはともかく……その声が、何かこう、どこか嬉しそうというか。そんな感じだったのは、あんまり、いい予感はしないなぁ、って。
そもそも、角井さんだって実力者なのは間違いない。少なくとも、籠家さんのパペットの群れとの実力差を見て、降参を選べる程度には実力を見れる人だ。そして『グリッターズ』に入ったって事は、単独で8級以上のダンジョンを攻略出来てる筈。
「いるか! いるな!? 今隠したのは、「緋薔薇の魔女」の弟子だな!?」
「ちがいまーす」
「大声に驚いて荷物が落ちそうになっただけでーす」
「それより何してんすか角井さん、こんなとこで」
「ダンジョン攻略しなくていいんすか『グリッターズ』」
「何だいないのか……」
やっぱりそこにいたのは角井さんだったらしくて。僕は荷物に埋もれて見えないけど、角井さん自身がここにいる理由には一切答えず、残念そうにしていた。
おかしいなぁ……角井さんは割とまともだと思ってたんだけどなぁ……他の人がひどすぎただけって話なのかなぁ……。
どう考えても私情で行動してる。それも周りの被害や忙しさを無視して。それが分かったから僕はとても残念だったんだけど、なんというか、流石とは言いたくないから、やっぱりって言うべきかな。
「――等と、誤魔化されるとでも思ったか? 炙り出せ、氷鬼!」
「やべ、避けろワイル!」
「アイビー、固定だ!」
なんて、思ってたんだけど。
しゅるっ、という何かが伸びる音とほとんど同時に、真横に重力がかかった。悲鳴が上がるけど、振り落とされた人はいないみたい。誰かが召喚獣、たぶん植物系ので、固定してくれたからだろう。
ただ、たぶん、攻撃を避けているらしい大きな熊の召喚獣の動きは止まらない。それはつまり、角井さんの指示での攻撃は、続いてるって事だ。
「さあ! 「緋薔薇の魔女」の弟子を出せ! そうすれば、お前たちは見逃してやる!」
「いないけど! 出してどうすんだよ!?」
「いるとも! そんなもの、決まっている――痛めつけて「緋薔薇の魔女」を引きずり出す餌にする! あんなお行儀のよい試合では、思うような戦いなどできないからなぁ!」
「そのまま人質にするつもりしかないセリフなんですけど!?」
「くそっ、店長の警告大当たりかよ!」
「いないけどいても渡すかよ! 人質取って相手をボコボコにするのに快楽を感じる外道なんかに!」
「はっはっは! 外道とは言われたものだな! 俺はただ、勝つことが好きなだけだ!!」
……店長の警告、って事は、シエルさんには、分かってたって事かな。
それにしても何というか、本当にこう、どうして最強パーティって呼ばれて、代表だって顔してたのかが分からないぐらいに、こう、問題しかないけど。
「――【サモン:パペット×30000】」
このままだと逃げられないし。
逃げ続けても、埒が明かなさそうだ。