81波_初動の一区切り
御前試合の総合決勝戦。それは時間がかかるって前提だったから、丸1日使う予定の朝早くから始まった。
だけど実際は、まず籠家さんが光武さん以外の3人の召喚獣をあっという間に吹っ飛ばして全滅させた。光武さんがローズさんを召喚してパペットと戦ってたのも、そう長い時間じゃない。
その後ユニーク進化した籠家さんのパペットが、ローズさんから光武さんの召喚獣であるゴーストを追い出して、ローズさんのレンタル契約が解除されて。総合決勝戦の決着がついたのは、それでもまだ午前中の間の事だ。
そこから「シエルズメイド」の探索者の人達と、避難誘導に行った。近くを何か所か回っただけとはいえ、途中で昼休憩を挟んだから、結構時間が経ってる。
その後で探索者ギルドに集まってほしいって連絡が来て、オーバーフロウが起こってるダンジョンを教えてもらって、ギルド職員の人に送ってもらって攻略開始。パペットだけでボスも倒した。
この時で、大体おやつの時間ぐらい、かな? たぶんそう。それで、一旦帰りますかって聞かれたところで、僕はもう一ヵ所ダンジョンに行きたいって言った。
だって、日が暮れるまでには、もう一ヵ所ぐらいなら攻略できる自信があったから。オーバーフロウが起きたダンジョンは、中にモンスターがほとんどいない。外に出て行ってるからね。流石に、クリアストーンの前にいるボスは残ってたけど。
でも、探索だけなら。ボスに辿り着いて、ボスだけを相手するのなら。それは、パペットの得意分野だ。実際、そのダンジョンの攻略時間は、そのギルド職員の人からしても、ものすごく早かったみたいだし。
だから、割と近くにあった違うダンジョンに送って行ってもらって。そこも同じように攻略して。流石にクリアストーン2つ持ち歩くのは無理があるからって、一旦探索者ギルド支部に戻って来た、のは、良かったんだけど。
「え?」
そこで、何故か。僕に、呼び出しがかかってる、って、話を聞かされたんだよね。
一応念の為、電話をかける、じゃなくて、ニュースを見るけど。籠家さんは「緋薔薇の魔女」として、ローズさんと一緒に外に出てきたモンスターを倒して回ってるみたい。たぶんその影で、パペットだけでオーバーフロウを起こしたダンジョンの攻略もさせてるだろうけど。
「シエルズメイド」の人達は、シエルさんはもちろんお店に残って避難所として動いてるし、探索者の人達は時々休みながら走り回ってる。僕を呼び出す理由がない。
「誰から、何で……?」
「それが、その。……『グリッターズ』の角井さんから、話が聞きたい、と」
「話?」
「主に「緋薔薇の魔女」について、と伺っておりますが……」
「あ、無理です。話せる事は無いです。僕だって今回の御前試合で初めて師匠が「緋薔薇の魔女」だったって知ったぐらいですし」
だから、何の事だろう、とは思ったんだよ。それで、どんな用事ですか、って聞いたら、とっても話しにくそうなギルド職員さんはそんな事を言っていたから、その場できっぱり断る。
角井さん、だからまだマシなのかも知れないけど、他の人にも散々聞かれたからね。それもあって、探索者ギルドにはあんまりいないで、すぐダンジョンの攻略に行った、っていうのもあるんだし。
それに、角井さんの名前を使っているだけで、他の人達が八つ当たり、っていう可能性も、ゼロじゃないだろうし。だって自爆した以外の召喚獣は、普通に召喚できるんだから。
「ですよね……。……あの、本当にお断りしても?」
「断る以外の選択肢があるんですか? というか、今の状況で、のんびりお話してるような余裕、どこにも誰にもないですよね?」
「え、えっと、それは、まぁ……」
「そもそも、角井さんも話なんてしてる余裕、無い筈ですよね? ダンジョンの攻略にしろ、避難誘導にしろ、動ける人は全員動いて、それでも対処は間に合ってませんよね? 本当に角井さんだとしても、何してるんですか?」
「そ、それは……そうですね。確かに……」
その話を持ってきてくれたギルド職員の人は、なんだか何かを迷ってたみたいだけど。少なくとも、僕の方に話をするような余裕はない。流石に夕方になっちゃったからここから攻略は出来ないけど、それならそれでちゃんと休まなきゃいけないし。
そもそも、籠家さんがまだ動いてるんだ。僕も、一旦は「シエルズメイド」のお店に戻るつもりだけど、動いていいなら動くつもりだし。もちろん、迷惑をかけない範囲で。
それを、この状況でのんびり話が聞きたいなんて。何を考えてるんだろうね。