80波_それぞれの強さの先
オーバーフロウを起こしているダンジョンは、分かりやすい。何でかって言えば、扉が開きっぱなしになってるからだ。そしてその開いている中から、モンスターが出てくる。
探索者ギルドの職員さんが送ってくれた。つまり、かなり大型の召喚獣を召喚できる人だって事なんだけど、どうやら召喚準備室の安全を確保した後、その扉に戻ってこようとするモンスターを迎撃する事もしてくれるらしい。
どうしてかは分からないけど、オーバーフロウが起こっている間は、扉が閉められないんだって。そして、どういう事かは分からないんだけど、元になってるダンジョンを攻略され始めたら、モンスターが引き返してくるんだって。
「……。その、外にもパペットを出しておいた方がいいですか?」
「お気になさらず。まぁもちろん自主的に警戒しておいてくれると助かりますね。取りこぼしが無くなるので」
みたいな会話はあったけど……パペットを召喚して、探索を命令して。そこで後ろを振り返ったら、大きな召喚獣が、それはもうすごい勢いで暴れて、ううん、戦ってるのが見えたんだよね。
しかも、職員さんも、どこに持ってたんだろうって大きい武器、あれは、何だろう。刃の部分が大きい槍、かな? で、一緒に戦ってたし。笑顔で。すっごい楽しそうな笑顔で。……探索者ギルドで働いてると、ダンジョンの攻略って、あんまり出来ないのかなぁ。
まぁ、そうしてこう、ある意味背中を守ってもらえるって言うのは、助かる事だし。安心して攻略できる、って意味だと、とても頼りになる。だから、ありがたい事なんだよね。
「(でも、わたげは召喚出来ないなぁ……)」
まぁ、その。外から見える状態ではあるから、ね。
今なら何というか、籠家さん(=「緋薔薇の魔女」)の弟子だから、って理由で、宝石竜を召喚出来ても、そっか~、で済んじゃいそうだけど。一応。秘密にする、って決めたのは、僕だから。
……神様が色々変更して、召喚獣の貸し借りというか、召喚権を受け渡しする事は、どんな方法でも出来なくなったけど。それでもね。それでなくても魔力が多いと、魔力タンクみたいにされちゃう、かもしれないのは、変わらないんだし。
……まぁ。ローズさん、だね。少なくとも一段階は進化してる、宝石竜。あの強さを見ちゃうと、少なくとも、わたげが進化したら、大体の相手には負けないんじゃないかな、って気も、しなくはないんだけど。
「(い、いや、油断は良くない。うん。良くない。油断した先の先は、光武さんになるかも知れないんだし)」
ぶんぶん、と頭を振る。そうだね。その、正直、格好悪かったし、あんな風にはなりたくない。もちろん、あの結果になったのは、全力で籠家さんが正体を隠していた上に、パペットをユニーク進化する程鍛えてたから、って言う方が大きいんだろうけど。
それに。パペットだってちゃんと鍛えれば、本気を出していないというか、出せない状態であっても、宝石竜と「戦闘になる」っていうお手本も見せてもらった。刻印武器については、もうちょっと僕もダンジョンを探すとして。進化させた先に、あれだけの強さがあるなら。そっちも、目指そうって思う。
うん。そう。パペットだって、強くなる。それはレベルとか、武器とか、スキルとか。そういうのもあるけど。何より、経験して、学習して、自分で判断できる幅が大きくなるっていうのも、絶対に小さくは無い。
「(籠家さんは、パペットだけでも、レベル5のダンジョンをクリアできるぐらいに鍛えたって言ってた。それは、ちゃんと指示を出したら、それ以上のダンジョンだってクリアできるって事)」
だから僕も、勉強だ。考えて、調べて、ちゃんとパペットに指示を出せるようにならなきゃ。わたげに頼るだけじゃなく。パペットの学習に任せるんじゃなく。僕自身も、そういう意味で強くならなきゃ。
なんて思っている間に、ボス部屋に辿り着いてた。普通のレベル5なら、ここでわたげを召喚して、最短ルートを通ってもらって、ボスを倒してもらうんだけど。
「……よし!」
ここは、頑張って、パペットだけで倒そう。
大丈夫。だってパペットでの戦い方は、籠家さんにいっぱい教えてもらったんだから。