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8波_基礎説明の〆の支援措置

「さて! そしてここには、まさに発見されたてほやほや1級ダンジョンの位置情報があります!」

「えっ?」

「実はダンジョンというのは、簡単であれば良いって訳じゃないんです! 自分に合った難しさがベストなので、3級や4級をクリアできる人にとっては簡単「すぎる」ダンジョンも攻略対象外になる訳ですね!」


 召喚獣についての説明が終わったところで探索者証が発行されたから、召喚部屋にいってパペットを召喚するのかと思ったら、何故かそのまま次の説明に移っていた。もちろん私の腕は掴まれたままだ。


「もちろん簡単なダンジョンを数こなすスタイルの探索者さんもいますが、ほとんどは自分の実力に合わせたダンジョンを探してから攻略します。人生は有限ですからね。効率は大事です!」

「な、なるほど」

「それとー、籠家さん!」

「帰らせろ」

「そう言わずに! はいこれをどうぞ!」


 私の腕を片手で掴んだまま、もう片方の手で全ての手続きを片付けてしまうのは本当に器用だと思うし有能だと思う。でも、私を巻き込まないで欲しいんだよな。

 どうぞ、と言いつつ受け取るまで絶対に諦めないというのがありありと分かる勢いで押し付けられているのは、1本の棒を挟むように木の板を2枚打ち付けたような、とりあえず今は何も書いていない無地の看板だ。


「この1回きりかつ案内料をとっていいなら受けるが」

「新人案内なんだからちゃんと師匠になって下さいよ籠家さん!」

「絶対に嫌だ」


 腕を組んで絶対に受け取らない意志を見せているが、顔に跡が尽きそうなほど強く看板を押し付けられる。腕も掴まれているし、痛い。止めてほしい。


「……え、っと? あの、その看板って、何か特別なものなんですか……?」

「看板自体は特別でもなんでもない。手作りだ」

「流石に探索者ギルドの備品ですからダンジョンドロップですよ!?」

「えっ?」

「説明が抜けてるぞ探索者ギルド端沼支部職員の木透さん」

「籠家さんが素直に話を受けてくれれば済むじゃないですか!」

「絶対に嫌だ」


 しぶしぶと一旦看板を引っ込めて、木透さんは別の紙を取り出して見せた。私の腕を放して両手で作業すればいいのに。


「さっき言った通り、召喚石は自分で手に入れたものしか使う事が出来ません。でも流石に初心者が何の助けもなくダンジョンを攻略するのは、かなーり難しいと言わざるを得ません。そこで、支援措置というか、救済措置が用意された訳です」


 ここで前提条件の説明をすると、探索者なら誰でも召喚できるパペット……関節の動かせるマネキンか、丸みを帯びた等身大デッサン人形みたいな召喚獣は、人型に属する。つまり、武器や防具を装備させることが出来る。

 パペットの利点を生かそうと思うと、装備を揃えるのは限りなく無駄になるからほとんど誰もやっていない。なのだが、看板を持たせると「移動と看板への文字表示以外の行動が出来なくなる」事と引き換えに「ダンジョンのモンスターが全てノンアクティブ化する」という特徴がある。

 もちろんこれにも制限があり、具体的にはパペット自体のレベルによってノンアクティブ化できるダンジョンの難易度は変わる。ただ、パペットをわざわざ育てようという探索者がいない上に。


「パペットのレベル上限は、驚きの10なんです。初期値です。限界突破は出来ません。そしてこういう特殊な特徴は、大体レベルの10分の1繰り上げまでが制限となりますので、1級のダンジョンしかこの特徴は働きません」

「わ、わぁ……」


 という事だ。初心者に助言を与えつつ、罠や宝箱の場所を看板で知らせるぐらいしか使えない。私はパペット使いと言われているし実際パペットはたぶん誰より使い慣れているが、仕様の壁は越えられないんだよな。

 ただ1級だけとはいえほぼ安全に探索できる利点は大きく、運よく新しい召喚石を手に入れて安全に召喚獣を育てたい探索者なんかが時々他の人に看板を持っての同行を頼んだりするらしい。

 ちなみに、一時期私のメイン収入でもあった。今は他に安全な初期育成の方法が出来たからあまり呼ばれなくなったが。


「ちなみに師匠というのは、初心者が完全に1人でダンジョンを攻略して生計が立てられるようになるまでを最低限として、マンツーマンで攻略の仕方を教えてくれる人の事を指します!」

「無償でな。ボランティアだから。やらないぞ」

「やって下さいよー! 籠家さんなら絶対良い師匠になるじゃないですかー!」

「もうしばらくしたら他の探索者が来るんだからそっちに頼め。新人育成も慣れてるだろ」

「住む場所とかのお世話も入ってるんですから籠家さんお願いします!」

「探索者ギルドの初心者支援措置で、ギルド支部にある宿泊可能な部屋が格安で使える筈だろうが。その見極めは初心者に基礎説明をした職員が行う事になってる筈だが?」

「私探索者の実力とか分かりませんしー」

「分からないなら私への評価も的外れだし、新人の世話を自分がしたくないから押し付けてるって事になるな」

「えっ……」

「あああごめんなさい嘘です違いますばっちり自信ありますお任せ下さい! でも籠家さんに師匠をやってほしいんです!」

「絶対に嫌だ」


 ただ働きなんかやってたまるか。それ以上に、生活の中に他人が転がり込んでくるのが絶対に嫌だ。


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