77波_対処に走る
ちょっと考えたけど、僕は他の町を回って、避難誘導する人について行かせてもらう事にした。どっちにしろ、オーバーフロウで外に出てきたモンスターとは戦う事になるだろうし。
オーバーフロウが起こったら、育扉市の中でならどこでも召喚獣を召喚できるようになる。だから車に乗るよりも、大型の召喚獣を召喚して、その背中に乗って移動した方が早いし、安全らしい。
まぁ、それはそうだよね。だってオーバーフロウは、ダンジョンからモンスターが出てくるんだから。それはつまり。
「な、斜め前、右側、遠距離攻撃です!」
「っだーまたか! どこだ!?」
「曲射だから見えるだけマシ! 回避行動!」
どこをどう移動してたって、戦闘になる、って、事だし。
長い射程、広い攻撃範囲。そういう特殊な技、スキルや魔法を使って来るモンスターが、攻撃を集中させたりもできる、って事だ。
流石に僕のパペットだと、並走させるには速度が足りない。だから周りを見て、攻撃が飛んで来たら知らせるようにしてるんだけど……これ、さっきから、同じ奴に攻撃されてる気がする。だって、飛んでくる方向が大体、えーと……3、いや、4ヵ所かな? ぐらいだし。
「―【サモン:パペット×200】!」
「うおっ、どした鈴木君」
「50体1組で行動、遠距離射撃を確認次第そちらへ移動、散開して回避しつつ距離を詰めて! 接敵したらそのまま遅滞戦闘開始!」
「え? もしかして囮にしてくれる?」
「いやまぁでもそうか、数が多い所を狙って撃ってくるなら囮が一番早い」
「助かる!」
「そんなに出して大丈夫?」
移動しながらだからちょっと届いたかどうか自信は無かったけど、基本的に、召喚主の指示は距離関係なく召喚獣に届く。今回もそうだったみたいで、僕が召喚したパペットは4組に分かれて走り出した。
……うん。助かる、って言ってもらったのは嬉しいし、心配してくれるのも嬉しいんだけど、これぐらいなら、その、魔力が減った内には、入らないんだよね。
最初の方というか、そう、籠家さんの家にお邪魔する事になって、入口の扉がダンジョンになってた時。あの時、パペットをさらっと200体以上召喚したのを見て、そんな気軽に召喚する数じゃない気がする! って思ったけど……。
「あ、はい。普通のパペットですし、大丈夫です」
「鈴木君は「緋薔薇の魔女」の弟子なんだろ?」
「えっと、僕も、あの決勝戦までは知らなかったんですけど……はい」
うん。今なら分かる。普通のパペット200体は、何てことは無かった。むしろ最低数に近い。パペットを真面目に運用しようと思うと、三桁単位で召喚するのが普通になってくるから。
それに、籠家さんが「緋薔薇の魔女」だったって知られたことで、僕がその弟子、っていう風に見られるようになった。ちょっとプレッシャーかな、と思ったんだけど、どちらかというと、この魔力の量に納得される事が増えた。
「シエルズメイド」の地下で、1人で探索してる時は、慣れてない人だけじゃなくて、毎日顔を合わせてる人でも、本当に大丈夫なのか、って、心配されてたからなぁ……。
「お、砲撃がばらけるようになった」
「どうする? 鈴木君のパペットが生きてるうちに潰すか?」
「いや、このまま移動する。オーバーフロウで外に出てきたモンスターは、出てきた元のダンジョンを攻略したら消えるからな」
「避難誘導は?」
「一応ざっと探して町の中にいるモンスターは倒すが、町ごとに避難所もシェルターもある。どっちみちダンジョンを攻略しないと延々戦う事になるからな。人命優先、ってのは、物損を後回しにするって事だし」
「そうだっけ……?」
「まぁ物損は神様の方で補填してくれるらしいからな」
そうだっけ。そうだったかも。
でも、それなら確かに、ダンジョンを攻略する方が先かな。物が壊れた分は、神様が直してくれるって言うのなら、なおさら。
……あの神様だから、本当に元通りかな、って、ちょっと不安になるのは……気のせいだとか、考え過ぎだとか、そういうのだと思いたい、けど。