70波_推測と数の理由
どうやらゴースト系召喚獣の「憑依能力」っていうのは、敵として出てきた時は恐ろしいけど、味方になった時は使い道が無い、って能力だったみたい。あぁ、うん。たまにあるよね。敵の時は、負けイベントかな? ってぐらい強いのに、味方になったら思ってた以上に弱いキャラクター。
「憑依能力」っていうのもそういうタイプだったみたいで、流石にそこは神様も修正をしたみたい。敵が使って来る場合はものすごく強くて脅威になるのに、味方が使っても効果が無いのは、まぁ、その、良くないよね。
ただ。敵が使ってくる時は脅威だった。だったら、そういう使い方をする分には、強いんじゃないか。そう思ったのが、光武さんだった……と、籠家さんは推測したらしい。
「本来の「カラーズ」を知ってる私からしても、不自然極まりなかったもの。それに、ドラゴンを召喚した人達が、自分のドラゴンすら手に余らせかけて苦労しているのも知ってるわ。だから何か細工をしているんだろうとは思ったのよ」
「ま、まぁ確かに、敵が使って来る「憑依」は脅威の一言で、理不尽に全滅する事もそれなりにあったみたいですが……」
「普通は、そんな風には使わないものなのよ。だから神様すら「これは味方にあっても良くないし、敵としても良くない」って判断したんでしょう。それ以降に出てくるゴースト系モンスターや召喚獣には、そもそも「憑依能力」が存在しないわ」
「……そんなに、危ない能力だったんですか?」
「そうですねー。かなり危ないというか理不尽というか、私はギリギリギルド職員をやっていましたが、酷かったですね!」
木透さんが酷いって言い切るって、相当酷かったんだなぁ……。
「何せ憑依ですからね、召喚獣に憑依されますからね! 当時は召喚獣でパーティを組む事が定着しだしたばかりでしたから、味方だった召喚獣に攻撃されて混乱、探索者は憑依されたと分からなければ最悪仲間割れ、泣く泣く憑依された召喚獣を倒しても、次の召喚獣に移られたら倒せないという!」
うわぁ。
それは、確かに、その……酷いなぁ……。
……思い出したのが飽甫さんのグリードアーマーだったけど、まぁ、うん。えっと……類は友を呼ぶ、なのかな……?
「まぁ問題は、その酷い能力を、役に立つように……つまり酷い形で使ったのがあの男って事なのだけど」
「あっ」
「言われてみればそれはそうですね……!? 神様はともかく、探索者ギルドは気付かなかったのでしょうか……!」
「あの神様、気付いていても、それも戦略の1つとか思って止めなさそうだものね。それに、流石にバレたらダメだというのは分かっていたでしょうから、ここまで一切それらしい情報は出してない筈よ」
神様に対する、その、意見というか何というか、あれはともかく。
まぁでも、それはそう。憑依能力を使うと、酷い事になる。それが分かっていて使ったのが分かってれば、最強の探索者だなんて言われない。
というか、たぶん、ドラゴンがその、レンタル契約、っていうのを悪用されてる、っていうのも、隠してるんだと思う。でないと、ドラゴン5体、とは、言わないだろうし。
……ただ。
「……門崎さん」
「何かしら」
「籠家さんは……ドラゴン5体、召喚出来ない前提で、喋ってるように、聞こえました」
「私も聞こえました!」
「そうね。私もそう聞こえたわ」
探索者としての基本。召喚獣についての事。
召喚獣は、召喚したらその後ずっと魔力を消費する。召喚獣を召喚する為には召喚石が必要。その召喚石はとても珍しくて、手に入りにくい。それでも、強くなればそこそこの数が手に入る。
もちろんどんな召喚獣も育て方1つ……とは言わない。相性とかもあるし。でも、召喚した召喚獣が増える一方だと、どんどん自由に使える魔力は減っていく。
魔力っていうのは見えない筋肉って言われているから、鍛えればいいだけなんだけど。やっぱり体質とかがあって、魔力があんまり増えない人っていうのもいるらしい。そんな人がたくさん召喚石を使ったら、必要な魔力の量が増えすぎる事がある。
「確か……召喚獣って、契約破棄する事が出来ました、よね?」
「出来るわ」
「その、契約破棄は、その……レンタル契約をした人でも、出来るんですか?」
「出来ないわ。当たり前よね」
「……レンタル契約中に、破棄する事は、出来ますか?」
「普通の手段では無理よ。かなり痛手にはなるけど、嫌がらせに使えてしまうもの」
……うん。木透さんも気付いたみたいだ。そうだよね。人から召喚獣を借りて、勝手に消しちゃうのは、出来たらダメだよね。同じく、人に貸しておいて、やっぱり無しっていうのも、召喚獣がいなくなるっていうのは大きいけど、それでもダメだ。
つまり、光武さんが、ドラゴンの契約を破棄する事は出来ない。まぁ、出来ても光武さんからはしないだろうけど。という事は、ドラゴン5体。これは、今でも召喚できる筈なんだ。
けど。籠家さんは、召喚出来ない前提で喋ってた。という事は、契約破棄されたって前提がある、って事だ。じゃあ、それ以外の方法で、契約破棄になる、っていうのは。
「お察しの通り。――5体のドラゴンは5人の召喚主からレンタルされたもの。その内の1人は、死んでしまったわ」
「……。1人?」
「えぇ。後の3人は、育扉から出て行ったの。この場合も強制的に契約は破棄されるわ。その代わり、育扉に二度と踏み入る事は出来ないけど」
あぁ、なるほど。
命は、助かったけど……探索者としては、実質、って事なんだ。
……1人でも、犠牲が出てるなら、ダメなんだけど。