65波_総合決勝戦(登場)
どうやら光武さんは気絶していたらしく、しばらくしたら意識が戻ったみたいだった。本来なら係の人が対応するんだろうけど、今観客席が大惨事で、それどころじゃないからね。
もっとも、光武さんも無傷じゃない。切り傷や火傷があちこちにある。その上待機場所の結界が壊れたから、強制的に戦闘範囲に出てくることになった。結界が壊れた以上、中にいる状態で結界を修復する事は出来ないんだって。
『あっつ、暑い! 喉が焼ける……! ローズ、温度を下げろ!』
『無茶を言うな。火属性の宝石竜だぞ。温度を上げる事は出来ても下げる事は出来ないに決まってるだろ。召喚主側が対策しろ』
『こ、この……!』
ある意味待機場所から追い出された光武さん。その、まぁ、ある意味もうほとんど剥がれてるなぁと思うんだけど、観客席は反応できない状態だから……。
もっとも、僕らがいる貴賓席は無事で、こうやって見れている以上、他の場所も見れてそうではある。で、貴賓席で観戦出来てたって事は、光武さんの応援者か、お金を出してチケットを手に入れた人達って事だ。
そっちの反応も、気にならないと言ったら嘘になる。でも、それ以上に。
「……聞いてません……!!」
戻ってきた籠家さんは、僕からすると見慣れた、魔女みたいな黒一色の格好だった。画面に映っている範囲だと分からないけど、たぶんベルトの下の杖も含めて、全身の装備を変えてきたんだと思う。どれだけ変えても、1回は1回だからね。
ただ。そんな必要は無い筈なんだけど、籠家さんも待機場所から出てきた。さっきの、実質自爆攻撃の余波が残って、中心に近い場所ではまだ火が残っている通り、中はきっと、ものすごく暑い。
だからこそ光武さんは苦しんでいるんだけど……そこに踏み込んだ途端。籠家さんの装備が、黒一色から、変化していった。炙り出しの文字みたいに、いや、もっと綺麗かな。模様もそうだし形も変わってるけど、何より色が。
「籠家さんってあの「緋薔薇の魔女」だったんですか!? 私何も聞いてないんですけど!!」
鮮やかな。
それはそれは鮮やかな――赤色に。
木透さんが叫んだけど、流石に僕だって知ってる。緋薔薇の魔女。ダンジョンが出来たはじめのはじめ、まだダンジョンっていうのがどういうものかすら分かってなかった時に現れた、正体不明の誰か。
緋薔薇は火薔薇とかかっているみたいで、火の魔法を使うのが得意で。はじめのはじめは、ダンジョンからモンスターが出てくる事もあったから、そのモンスターを、全部焼き払って人を守ったっていう、ヒーローみたいな。
「……あ」
足元から、袖や帽子の端から、みるみる黒が赤に変わっていく。ちょっとピンクが混ざったような綺麗な赤は、その中に薔薇の模様が浮かべて。その薔薇の模様は、花飾りみたいに立体になっていく。
服だけじゃなくて武器、杖も最初から持った状態で。黒い枯れ木みたいだった杖も、下からどんどん同じ色に変わっていった。途中で蔦みたいなものが伸びて、そこにも薔薇の花が咲く。
とても綺麗な姿で、色なんだけど。僕は、その色をどこかで見た事が有るような気がしていた。そして三角帽子の先まで赤色が届いて、杖の先端の水晶が、蕾が開くように、これも薔薇みたいな形に変わったのを見て、ようやく思い出した。
「この色だったんだ……」
何のことかって言うと、髪飾りだ。普段はしっかり帽子と服の下に隠した長い髪を、首の所で1つにまとめてる髪飾り。もしくは髪留め。家に帰って帽子とマントを外した時にしか見れない、筒みたいな形の。
今も髪の毛自体はしまわれてるから、外からだと見えないけど。流石に半年も毎日見てれば流石に分かる。あの色だ。
「……――」
で。
僕は、もう1つ、気付いてしまった。
『――…………とられるんだ』
そう。籠家さんはそう言った。僕が初心者石で、わたげを召喚した時に。
やけに詳しいな、って、確かに思った。後で、冷静になって考えたら。その時は、召喚獣がとられる。わたげが狙われる。そのことに慌ててたけど。
詳しいと思ったのは、それだけじゃない。ドラゴンについてもだ。籠家さんは、すごい探索者……光武さんの影響で、ドラゴンの事が有名になって、知るのが簡単だった時期があるって言ってたけど。
気付いてしまえば、何で気付かなかったのか不思議なぐらいに。
ローズ、って名前の、宝石竜の鱗の色と。
籠家さん――「緋薔薇の魔女」さんの服の色は。
同じだ。